第二話 敵の先輩、味方の先輩
切りつけてくる佐藤の鎌を、メイスでいなす満瑠。
「なるほど…先輩は軽量型の攻撃で数を増やす作戦ですね」
「ハッ、わかったような口を利くんじゃねえ!」
佐藤は発生装置のボタンを2に切り替えた。
途端に、鎌が一瞬にして引っ込み、左腕の肘から先全体が、棘のびっしりついた棍棒に変形。
「こんな重量級の武器だってあるんだぜ!!」
棍棒になった腕を振り回すと、
ビュンッ、ビュンッ
と空気の引き裂かれる低い音がする。
「いくぜっ!!オラアッ!!」
棍棒を、満瑠めがけて振り下ろす。
メイスで受けとめると、
ゴンッ
と鈍い音がした。
「強度は互角…ですか」
「互角だとぉ!?俺のほうが上だ!!」
棍棒を振り上げ、再び叩きつけようとする。
その一瞬の隙を突き、
満瑠は、メイスを水平にスイングした。
メイスの先の鉄球が、佐藤の胴を捉える。
「ぐあああっ!?」
佐藤はバランスを崩して転倒。
さらに満瑠は、メイスをゴルフのパターみたいにスイング。
コキャッ
「アアァッ」
佐藤は右足を骨折。
彼の身に起きた明らかな異変に、観客席で見ていた取り巻き連中も冷静ではいられなくなった。
「ど、どうなってる!?」
「嘘だろ!?あんなキャプテン、見たことねえ!!」
「大丈夫なの!?」
「わかんない…骨が折れたのかも」
「キャプテンしっかり!!」
「そうですよ、いつもならそんなひよっこ、捻り潰してるじゃねえですか!!」
声援を送る取り巻き達。
だが、佐藤は立つことができない。
「勝負、ありですね」
「うるせえ!!まだ十秒の余裕がある!!」
咄嗟に発生装置のボタンを5に切り替える佐藤。
腕がバズーカに変形。
「これがほんとのアームストロング砲だあ!!」
バズーカから、爆風が発射。
煙が立ち込め、満瑠の姿を覆い隠す。
「みつるー」
妹子が思わず叫んだ…つもりなのだが、はた目にはまったくテンションが上がってないように見える。
時間を稼ぐため、佐藤は無理をして立ち上がった。
右足がプルプルと震える。
「ど、どうだ…俺の勝ちだ!!」
勝ちを確信した取り巻き達が、立ち上がって歓声を上げた。
次第に薄くなってくる煙の中で、
左手首から先を盾に変形させ、
満瑠はしっかりと二本の足で立っている。
「なっ…」
佐藤が真っ青になる。
満瑠は、再び左腕の肘から先をメイスに変形させると。
「今度こそ、勝負ありですね」
佐藤に突進し、メイスを振り上げた。
翌朝。
「なんでいもことみつるがたいくかんつかえないんだー」
妹子はぷりぷりと怒っている。
「仕方ないだろ、僕はキャプテンの両足を骨折させたんだ。危うく選手生命に関わるところだった。機嫌を損ねても無理はないさ」
「それがほんもののたたかいってもんだろー?」
「僕にとってはね。ともあれ、残念だが僕らは先輩達には気に入られなかったな。というか、最初から馬が合いそうになかったし」
というわけで二人が来ているのは、市営の公共練習場である。構造は学校の異次元バトル専用体育館とほぼ同じで、住宅街を丸々一つ潰してできた広い敷地内に、五十件並んでいる。
二人は受付のためにカウンターの前に並んだ。幸い、列にはなっていない。
「どのれんしゅーじょーもあいてなかったりして」
「大丈夫、ほとんどの生徒は学校で練習してるさ」
「二名様でご利用ですか?」
受付の女性が訪ねる。
「はい」
「でしたら、こちらのタッチパネルで、
と言って、タブレットを満瑠に渡す女性。
「ありがとうございま…」
「ねえ、ちょっとキミたち」
満瑠の後ろで声がした。
振り向くと。
「ひょっとして、大日本帝国再建学園の新入生?」
声の主は、満瑠とほぼ同世代くらいの女子。しかし身長は満瑠より頭一つ分高く、手足はすらりと伸びていてスタイルがいい。瞳は夕焼けに似た橙色、やや猫目気味の美形で、緋色の長い髪にはウェーブがかかっている。
「あ、はい。僕らであればそうですが」
「足利満瑠くん、で合ってるよね?」
「はい」
「で、そっちは斧野妹子ちゃん」
「うむ、いかにもいもこが、おののいもこだ」
「やっぱりね。リサーチしておいた甲斐があったわ」
「そう言うあなたは…」
「あたしは
「はあ…しかし、昨日はお目にかからなかったはずでは」
「当たり前よ、あたし来てなかったんだから」
「つまり、休んでいたと?」
「部活はね。授業だけ全部受けて、下校時刻になったらここに来て練習してた。あたしと同じ、はみ出し部員二人とね。というか、いつもそうしてる。だから、別にサボってるわけではないのよ?」
「キャプテン達のせいで、思うような練習ができないってことですか。よくわかりますよ、僕も現在、同じ目に遭ってますから」
「そうなのよ…あたしたちは似たもの同士。だから、手を組まない?」
「というと?」
「あいつらに団体戦を挑んで、ギャフンと言わせるのよ。そのために、練習も五人で行う。二人だけじゃまともにできないでしょ?」
「なるほど…しかし、試合に勝ったぐらいで、あの人たちが引き下がりますかねえ?」
「だったら、約束させてしまえばいい。負けたほうは全員まとめて退部することになる、ってね」
「そんなりすくはおえないぞ」
妹子が口を挟む。
「ぎゃくにいもこたちがまけてでていくことになったらどうする」
「負けなければいいだけの話、ですよね」
「…みつる?おまえ、なにいって」
「わかりました、キャプテン達を力ずくで追い出しましょう!」
「おいいいいいいいいい、のせられてどうするー」
「じゃ、決まりね」
「もう、どうなってもしらんぞー」
「ではさっそく、宣戦布告しましょう」
言いながら、スマートフォンを鞄から取り出す満瑠。
「ちょっと、まだ早いわよ!!」
「なぜです?」
「まず五人全員の実力を確かめて、練習して、力を底上げして、結束と戦略をしっかり固めて、それから」
「そんなことをしていたら、どのみち三年生は引退の時期になってしまいますよ」
「じゃ、じゃあ、新しい二年のキャプテンを追放すれば」
「じゃあ、戦略は一から立て直さないといけなくなりますねえ」
「うっ…」
「それに、下手に余裕をもってしまうと、当日までに油断してしまう可能性があります。けど、自分を追い込んでしまえば、みっちり努力する理由になる。僕はいつもそうしてますよ」
「わーかったわよ!!好きにすればぁ!?」
三人が練習場に向かうと、二人の男子が待っていた。二人ともスリムでありつつそこそこ筋肉質で、手足が長く、身長は百八十センチほど。片方は茶髪のツーブロックに茶色い目と、異次元バトルをやっているにしてはあまり異能力の影響が出ていないように見える。もう一人は藍色のくしゃくしゃロン毛で、紫の瞳。
「こっちの茶髪のほうが
「どうやらスカウトに成功したようでホッとしたぜ」
と秀明。
「噂は聞いてるぜ。満瑠くん、逸材なんだってな」
と綱吉。
「こら、後輩にあんまりプレッシャーかけるんじゃないの」
「いえ、寧ろある程度は期待していただくほうが助かります。腕を磨く理由の一つになりますし、どのみち新キャプテンになるつもりなので」
「そう?キミがそのつもりならいいけど…ところで、もう五人集まったんだし、早速手合わせしてみる?」
それから五人は、交代で一対一の総当たり戦を行った。
勝ち負けが必須だった佐藤との対決と違い、一試合の制限時間を四分とした。怪我人を出したくないし、引き分けも結果に含めかったからだ。
まずは満瑠対秀明。秀明の様々な攻撃を満瑠が完封し、三分を過ぎた辺りで秀明が負けを認めたため満瑠の勝利。
次に妹子対幸穂。スピードを活かした幸穂の連続技を前に妹子は手も足も出ず、わずか一分で降参したために幸穂の勝利。
満瑠対綱吉。満瑠の猛攻を避けるのに必死で綱吉の技が後手後手になってしまい二分で降参、よって満瑠の勝利。
妹子対秀明。妹子の攻撃を軽々と回避する秀明が有利かに思えたが、秀明もなぜか攻撃を大きく空振りし続け、決定的な瞬間がないまま四分経ったので引き分け。
満瑠対幸穂。両者一歩も譲らぬ激しい対決となりつつも、決着がつかず引き分け。
秀明対綱吉。両者スピード型のシンプルな対決となるも、一瞬の隙をついて秀明が綱吉の装置にヒビを入れ、秀明の勝利。
満瑠対妹子。満瑠の攻撃の連続に妹子はなす術なく、三十秒で装置を破壊された。よって満瑠の勝利。
綱吉と妹子の装置交換(練習用のものは公共で利用することができるため無料で交換できる。なお、自前のものは修理に出すことで再度利用が可能)も兼ねて、十五分の休憩。
幸穂対秀明。最初は互角かに見えたが、次第に幸穂が優勢となり二分半で秀明が降参、幸穂の勝利。
妹子対綱吉。両者攻撃を避け続けるだけの単調な試合となりつつも、三分半を過ぎた辺りで妹子が降参。綱吉の勝利。
綱吉の休憩も考慮し、満瑠と秀明の再戦。といっても互いに怪我を避けるため慎重な戦いとなり、引き分け。
幸穂対綱吉。幸穂の猛攻を綱吉が防ぎ続けるだけの持久戦となり、引き分け。
こうして、総当たり戦は完了した。
円になって床に座り込み、スポーツドリンクを飲む五人。
壁のホワイトボードには、総当たりの結果が書かれている。
「二勝二分け。なんとか、あたしの面目は保てたわ。満瑠くんが一位であたしが二位なのは癪だけど」
「なぜ順位をつけるんですか?」
「なぜって、競い合ったほうが盛り上がるでしょ?それに、強さを参考にして、団体戦の順番を決めないと」
「それより僕は、全員の傾向を掴んで今後の練習に活かすのが一番いいと思います」
「むう…ちょっと生意気だけど、正論は正論ね」
「それで、俺たちの傾向はどうだと思うんだ?正直に言ってくれ。三年生たちに勝つためだ、多少辛口でもかまわんぜ」
秀明が、満瑠と幸穂の会話に加わった。
「そうですね。まず小林先輩。よく言えばそつがなく、悪く言えば特徴がない。もう少し突出した一撃があればいいんですけど」
「ハハハッ、よく地味なやつだって言われるんだよ…」
「次に犬川先輩」
「俺か?」
「はい。犬川先輩は、受け身になりがちなのがマズいと思うんです。一つ一つの挙動に関しては、結構強いほうだと思うんですけど」
「確かに!言われてみれば、俺から仕掛けるのはあんまり得意じゃないなあ。普段の生活でも、指示待ちとか言われることあるし」
「それから真田先輩。そうですね…あまり欠点らしい欠点は今のところ見当たらないんですけど」
「ふふん、よくわかってるじゃない」
「ただ真田先輩は、ちょっと楽をしてるような気がするんです」
「ちょ、何を言い出すのよ!」
「だって真田先輩の使う異能力は、どれも初心者から使いやすいものばかりだったじゃないですか」
「しょ、初心を忘れないようにしてるのよ!それに、プロだって使いやすい道具を選ぶことは多いわ」
「それはそうなんですけど、さすがに五つ全てが初心者向けだとちょっと…読まれますよ?作戦」
「うっ…」
「真田先輩は、常にワンランク上を目指すほうがいいと思うんです。五つのうち、まずは一つだけでいいので、上級者向けの大技に換えてみる。で、今の真田先輩の戦法を、小林先輩に預けるべきかと」
「俺に?」
「ええ。器用でポテンシャルの高い真田先輩よりも、そつがない万能型の小林先輩のほうが、シンプルな戦い方には合っているはずなので」
「俺も幸穂も、今より上を目指すってわけか…」
「せいぜい、やってみてあげる価値はありそうね。せっかく考えてくれたんだし」
「ところで、俺はどうすりゃいい?」
「犬川先輩は、一連の作戦を事前に用意しておいて、本番に実行するのがいいと思います。臨機応変に動くのは苦手でも、決まったことは確実にこなせる、ということなので」
「ルーチン化してしまえば、その場で考えずにできるってわけか…よし、やってみるよ!」
「おい、みつる。せんぱいたちばっかりとしゃべるな。すこしはいもこのこともあつくかたれ」
「お前は…もう少し基礎体力をつけたほうが」
「またそれか。おまえいっつもそういうこというよな」
「仕方ないだろ。試合結果を見てもわかるけど、お前、先輩たちと比べて明確に弱いぞ?」
満瑠の辛辣な指摘に、三人揃って先輩どもが思わずスポーツドリンクを吹いた。
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