ミームの世界より愛を込めて

相川秋葉

第1話

私は戸嶋夜。中学2年生。女。

なにを隠そう、私には感情がない。そして、私が再び感情に目覚める時、秘められた力が解放されるのだ────────!!

ちなみに、好きなものはボカロ曲と歌い手。あとEDM。ちなみにジャンルはなにひとつ知らない。けど好き。

普段はTwitterを見て、仲のいいffさんとお話してみたり、歌い手のカバーを布教したり。学校の休み時間はこれ見よがしにイヤホンを装着してるし、授業の一環で話し合いが行われたときは、何か言ったあとに「ふん」って小さく冷笑する。そんな私を馬鹿にしているであろうクラスの人とはもちろん学校内外でも喋らないし、なんなら正直に言っちゃうと全員馬鹿だと思ってる。

私にとっては、ネットこそが現実リアル

大人も子供も、なんにも解ってない。なんでみんな、現実とネットを切り離したがるの?繋がってるし、どっちも“リアル”なのに。


そんなことはまあいいとして。今日は仲の良いffさんと遂にオフで会うのだ。ハンドルネームは、「闇夜†@猫化」だ。なにも言うまい。ちなみに私のハンドルネームは夜花。やっぱり、シンプルなほうが好きだから。

ちなみに、彼は私と同い年、14歳だと言っていた。いつもネットに居るけれど、さすがにネットの人と会うのはちょっと不安だ。けれど、いつも私の絵を褒めてくれるし、きっといい人……だよね?

そんな一抹の不安をよそに、予定の日付はどんどん近付いてくる。

待合場所は最寄りのショッピングモール。そこのゲームセンターの前が待ち合わせ場所だ。


「夜花(@_o0_nox_0o_)


明日はオフ会当日!楽しみ〜」


っと。あ、いいねが来た。闇夜†@猫化 さんだ!すぐにいいねくれる……やっぱり優しい。


前自撮り送った時、可愛いって言ってくれたし、化粧とかしなくてもなんとかなるよね……?化粧水も乳液も口紅もよくわかんないし……………

そんなことを考えているうちに、私は深い眠りに就いた。


その日は私に珍しく、夢を見た。普段は感情が無いから、全てが滑稽に感じられるし、なにも心に思い浮かぶことも無く、ただ眠っていられるのに……。

夢には、闇夜†@猫化 さんが出てきた。背がそんなに高くなくて、肌は色白、顔が整っていて、丸眼鏡を掛けてて…… 私の理想を全て兼ね備えたような存在だったので、私は思わずうっとりしてため息をついた。と思ったらそれがいきなりクラスの馬鹿男子のひとりに変わり、かと思ったらうちのお母さんに変わり…………


遂には私が嫌いなアイドルに変わり、それが溶けてこちらに飛びかかって来た。

私は悲鳴をあげて飛び起きる。考えうる限り最悪の夢だった。


そして、朝が来た。



人生初めてのオフ会。


私はそこで、人生が変わるほどの体験をする。そんな予感が、なんとなくした。


待ち合わせの時間は朝10時だったけれど、なんとなく8時に出た。いつもうるさく声を掛けてくるお母さんはいびきをかいて爆睡していた。うるさい。


電車に乗る。いつも降りる学校前の駅を通り過ぎた時、私は不思議な優越感と少しの不安感を覚えた。


それは、どこか心地よかった。



その学校前の駅から2駅向こう、そこの駅がショッピングモールに最も近い駅だった。そこからショッピングモールまでは直通バスが出ている。それを待つ間、私はすることも無いのでベンチに腰掛けてスマホをいじっていた。

すると、とん、という軽い音がして、紙袋が隣に置かれる。


何かを感じた。導かれるように、ヘッドホンを外して隣を見る。昨日、夢で見た姿。


「お母さん────!?」


お母さんの姿をしたそれは、私の言葉には答えず、虚空を見つめる。


「……も」


「えっ?」


「は……ども」


「お母さん、聞こえないよ……?」


「初カキコ…ども………!!!!!」


ようやく全貌が掴めたその言葉は、私を驚かせ、恐怖させるに十分だった。呟くような言い方でありながら、怒鳴っているかのような声量、迫力を伴う「初カキコ…ども」だ。ほんとに、怖い。

母がなにを言っているのか分からない。どうなってしまったんだろう……?

そして私は、昔ネットで見た「ドッペルゲンガー」の話を思い出す。


────ドッペルゲンガー(独: Doppelgänger)とは、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる現象である[1][2]。自分とそっくりの姿をした分身[1]。第2の自我、生霊の類[3]。同じ人物が同時に別の場所(複数の場合もある)に姿を現す現象を指すこともある(第三者が目撃するのも含む)[2][4]。超常現象事典などでは超常現象のひとつとして扱われる[5][2]。んだって。────


これは、絶対に、ドッペルゲンガーだ。

賭けてもいい。


そして、今やるべき事はただひとつ。


母のドッペルゲンガーから離れ、バスに飛び乗る。


奴は、ずっと大きな声で「初カキコ…ども…」のコピペを唱えていたようだった。声がまだ聞こえる。


初カキコ…ども…俺みたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは

今日のクラスの会話
あの流行りの曲かっこいい とか あの服ほしい とか
ま、それが普通ですわな

かたや俺は電子の砂漠で死体を見て、呟くんすわ
it’a true wolrd.狂ってる?それ、誉め言葉ね。────────


その言葉は呪詛のように、私を追いかけてきた。


そんな古のインターネット・コピペが聞こえなくなったところで、やっと一息つく。そして重大な事実に気が付く。



このバス、ショッピングモール行きじゃない────!!!!!



焦った。焦る。焦りすぎて、冷や汗がダラダラ出る。冬なのに。

あとこれは豆知識なのだけど、こういう時の汗の匂いはなかなか不快な感じだ。汗は水分と塩分のほかに、もうひとつ重要なもの、タンパク質を含んでいる。そのタンパク質がくせものなのだ。

私はタンパク質を呪った。自分がタンパク質の塊なのに。これ、もしかして:自己嫌悪?


とりあえずバスが止まったのでさっさと降りた。歩いて駅まで戻るか、そのままショッピングモールに行くかという選択を迫られたけれど普通に駅に戻ることにした。だって遠いし。

もう、汗をかきたくなかった。


冬なの(殴


はい。ごめんなさい。



駅にはドッペルゲンガーはいなかった。私が見た夢だったのかもしれない。そう思いかけた時、紙袋がベンチにまだのこっていることに気がついた。

何が入っているのだろう?そう思って、袋の中を覗き込む。そこにはなんと……


時限爆弾が、あった。

腰を抜かした。赤と青の配線。茶色い筒。

これは、本物の、時限爆弾だ。見た目からそう訴えかけてくる。

ピッ、ピッと鳴るタイマー。その残り時間は……133時間13分。長い。まるまる5日半だ。

そして、時限爆弾の他にもなにか入っているか見てみる。


なんと、スキャットマン・ジョンの『スキャットマンズ・ワールド』が入っていた。

何故?

センスがあまりにも意味不明すぎてよく分からなかったが、バスが来たので乗ることにした。時限爆弾は……言付けを書いておいたので、通りすがりの人が警察に連絡してくれる。多分。きっと。Maybe.


『スキャットマンズ・ワールド』は鞄に入れた。多分家にもあるので、闇夜†@猫化さんにあげようと思ったけれど、彼の好みに合うかは分からないので保留することに決めた。


ショッピングモールについたのは9時40分だった。朝8時に出たのに、こんなにギリギリになってしまうなんて……どうせ相手もリアルだと誰にも相手にされないようなやばい見た目のオタクである可能性が大半を占めているのでその推測が正しいとするとキモオタ君はこんな出会いがあるであろう千載一遇の機会に舞い上がって意味もないのに2時間前くらいに家を出ているに違いない(早口)と思ったので、急いでゲームセンターに向かった。


結論を言うと、私の推測のだいたいは合っていた。唯一の問題は、闇夜†@猫化さんがもう既に人の形状を保つことすら難しい状態に陥っていたことだ。


彼──闇夜†@猫化さん──は、人間ではなかった。

そもそも、生物ですらなかったのかもしれない。


彼の外見の特徴として、まず目を引くのは、淡く発光していた点だろう。そして、その体躯。一般人に「オタク」というと想像するイメージに近い、黒縁スクエアでボサボサの髪、くすんだみたいな色合いのシャツとジーパン。小太りおじさんみたいな体型。しかし、サイズが常軌を逸していた。2メートルは優にある身長。少し飛び出た目がぎょろぎょろとしている。そして、背中には、ラジカセが埋まっていた。あと謎の電脳空間的なものが半径1メートルくらいに発生していた。本当に言っている意味が自分でも分からないけど、それを言ったらこの人の存在全て意味がわからない。

そして、私は直感で、この人を表現するのにピッタリな言葉が分かった。



この世には、「インターネットが産んだ怪物」というフレーズが存在する。それはあくまでも比喩として使われるもので、本当に怪物、モンスターが居るとは誰も考えてはいないだろう。



しかし、ここに居たのは、本当の「インターネットが産んだ怪物」だった。

なにかが「インターネットが産んだ怪物」と呼ばれた時、それの真偽を判定するプログラムに入れたら、{true};という値が返されるだろう。それくらい、やばかった。


「あなたは……闇夜†@猫化さん……ですか……?」


恐る恐る、怪物に声を掛ける。



声優のような爽やかな声で、怪物、もとい闇夜†@猫化さんは大音量で発声する。


「闇夜†@猫化さんとは?家族は?恋人は?性別は?調べてみました!」


これはなんだ。


私の目の前に居るのは、何なんだろう。


有名人をGoogle検索すると、時々出てくる、「アレ」。

「アレ」のフォーマットを、目の前に居る怪物が喋っている。


私は、根源的な恐怖を覚えた。


「感情」とはなにか、この間際になってようやく理解出来た。


これまでの人生で抱いた感情も、この怪物を見た時の衝撃、恐怖、憐憫などが様々に混ざりあった殴られたような感覚、それに比べたら零に等しいだろう。


「虚無」から産まれたそれは、生気のない目をこちらに向ける。その死んだ魚のような目は、私の感情を手に取るように分かっている、そう思わせるなにかがあった。


刹那。


闇夜†@猫化──もとい、インターネット・モンスターの形状が変わる。

腕に、胸に、脚に……様々なところに、奴の頭部が発生する。そしてその頭ひとつひとつが、ネットスラングの数々を発声していた。


混乱に陥る店内。阿鼻叫喚、という言葉を身に染みて分からせられた。


私もその混乱に乗じて逃げようとするが、それを見逃すような奴ではない。

目敏く人混みに紛れていた私を見つけると、腕を伸ばす。まるでそれは、ゴムのように。ゴムのような挙動をしながら、速度は言うなれば──ライフル弾。正確さ、速度共に優れるモンスターハンドがこちらに迫る。

一般人である私は、為す術なくその手に捕まえられる。抵抗のしようもない。


私は叫び声ひとつ上げず、奴の展開する亜空間に吸い込まれていった──────。




次に目が覚めた時、私は虚空に立っていた。

何も無い。

何も存在していない空間に立っているというのも奇妙だけれど、そう表現する他ない。


そして私の眼前に、奴がいた。


30年足らずのうちに、インターネットという電脳空間は拡大、進化した。

これまでの人類史に類を見ないほどの圧倒的進化────。

しかし、それは良い面ばかりではない。

人の悪意というものも、30年で嫌という程浮き彫りにされ、それはインターネットの歴史にも刻まれている。刻まれすぎて何書いてるのか分からなくなるくらいに。


「人間って、愚かだ。」


名も無きインターネット・モンスターがひとり呟く。


そうだね、そうかもしれない。


けれど、それを否定する必要が、何処にあるのだろう。


承認欲求を満たす。


人間として、至極真っ当なことじゃないだろうか。さすがに、限度は、あると思うけど。それで人が死んだ話なんかを聞くと胸が痛くなる。


でも、それも含めて、その愚かさも含めて、人間は愛すべき存在じゃないだろうか?


「漏れ……は……」


「もう、休んでいいんだよ」


そう言って、何故か手にあった剣を、彼の胸に突き刺す。


「おやすみ」


そして名も無きインターネット・モンスターは倒れた。


これからも、こういう怪物は無数に現れるだろう。そして出現する度、勇者に倒されるか、もしくは自滅の道を辿るか。


彼らは、何も残せない。何も残らない。


改心することもない。根源が、虚無だから。


彼らが、人として数えられることはこれから先もずっと無いのかもしれない。


だから、私は────────。




こいつを倒すべき敵だと看做して、剣で切りつけた。もう死んでるけど。


一太刀を入れる度、真っ黒な、虚無の空間に罅が入る。

そして、頭と胴体──といっても頭は複数個あるのだけれど、身体の一番上にある頭のことだ──が永遠の別れを告げた頃、空間が砕け散った。


私は頭と胴体の悲しいラブストーリーをもっと見ていたかったけれど、もうこれで終わりだ。


観念して、目を閉じた。


よく考えたら、いや、よく考えなくても、頭と胴体が別れる原因作ったのは私だった──────────────



目が覚めた時、私は自分の部屋のベッドの上だった。


そして気が付く。


今が8月15日の午後12時半くらいだと言うことに。

そしてそれと時を同じくして、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。


これは終わりではなく、始まりなんだ。


そう思った瞬間、何故か空から高圧電流を帯びた鉄骨が落ちてきた。

物凄い速度のそれは、屋根を突き破り、毒虫になった私を貫通し、そしてそこで



くぅ~疲れましたw これにて完結です!

実は、「感情のない」というフレーズをネタに何か書きたいというのが始まりでした

本当は話のネタなかったのですが←

自分の努力を無駄にするわけには行かないので古代[注:要出典]のネタで挑んでみた所存ですw

以下、登場人物達のみんなへのメッセジをどぞ


戸崎夜「わかりません」


名無しの怪物「†漏れには名前がない†」


母親(ドッペルゲンガー)「実は怪物とは関係がありません」


では、


戸崎、怪物、母親(偽)、俺「皆さんありがとうございました!」



戸崎、怪物、母親(偽)「って、なんで俺くんが!?

改めまして、ありがとうございました!」


本当の本当に終わり

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