間違い探し_呪

翌日学校に行くと、学校はいつも通りだった。

みんな昨日見たテレビや最近のゲーム、漫画について話している。


なんだか昨日は夢だったのかと錯覚するぐらいに普通だ。

先生も何も言わない。

3-Aの教室の前を通り過ぎてみたが、見た感じ普段と変わらない。

廊下に出ていた机も元の位置に戻されたようだ。

全て元通り。少なくともそう見える。


状況だけ見れば全ては作り話で、昨日のトラブルも全部偶然。そう考えるのが自然だ。

ただ一点不可解なのは昨日の先生たちの慌てようだ。

この話にはまだ何かある気がする。

ただ、3-Aの教室はもう近寄るのは難しい。次近くにいるのが見つかれば、流石に言い訳できないだろう。


僕は放課後新聞部の部室に向かった。

引き戸を開けると、やはり誰もいない。

この部は月に一度新聞を作成しているのだが、その時以外は常にこんな感じだ。

ここならば考え事をするのに適している。


さて、今わかっていることを整理しよう。

まず、昔3-Aで何かあったのは間違いない。先生たちの動揺や困惑を見ても明らかだ。それをきっかけに「机を動かしてはいけない」というルールが生まれた。

ここまでは良い。

僕が机を動かしたことで、驚いた生徒が一人倒れたのと、教頭先生ショックで倒れそうになったらしい。

だが、二人とも特に症状は重くなく、倒れた生徒も来週には戻ってこれるらしい。

不可解なのは先生たちが今回の騒動を新型ウイルスのせいにして、実際に校舎の消毒も行ったという事だ。


何かの痕跡を消そうとしたのか?

本当にウイルスのせいだったのか?

ルールを破ることをどうしてそこまで恐れるんだ?


僕はまず部室の片隅にある本棚を調べることにした。

ここには過去に新聞部が発行した新聞がファイルされている。

30年間ほどの履歴があるので、僕は順番に調べて行くことにした。

どう考えても近年の事件ではないので、古い記事から読んでいく。

しかしそれらしき記事は見当たらない。

だが、一つ気になるものを見つけた。古い校内図だ。

この校舎は30年ほど前に建て替えられているが、それは立替直後に作られたもののようだった。

校舎作りは同じだが、教室の場所や壁の位置等が異なっている。

なんと昇降口の位置まで変わっていた。

この30年間で時折改修工事が行われてきたことがわかり、なかなか面白い。

順番に見ていく中で、一つ気になる部分を見つけた。現在は教員用の資料室とされている部屋が昔は教室として使用されていたのだ。


学校は年度によって生徒数も異なるし、教室の位置もフロアも変わることがある。しかし、よくよく考えれば、現在の位置に教員用資料室があるのは少々不自然だ。

現在の教員用資料室は職員室とは違うフロアで、位置も離れている。どう考えても不便なのにも関わらず、教室をつぶしてまで位置を変えるなんて、よっぽどの理由がなければやらないだろう。


気になった僕は教員用資料室を見に行った。

まあ、案の定扉はしっかり施錠されている。

扉には大人の頭部ぐらいの高さに窓があるが、そこにも紙が貼られ、中は見ることが出来ない。上部に換気用の窓もあるが全て締め切られ、こちらも紙がきっちり貼られていて中を見ることはできなそうだ。

どうにかしてみる方法はないだろうか。

背伸びをしてみたり、扉を外してみようとしたがびくともしない。

この教室は校庭側にも窓があるが、地上三階なのでよじ登るのも無理だし、この感じなら校庭側の窓も紙が貼りつけられているだろう。

となるとやはり職員室で鍵を調達しないとダメか?


その時、資料室の中で音がした。誰かの足音のような不規則なパタパタという音。

僕は資料室の中に誰かいると想定していなかったので心底驚いたが、冷静に考えれば先生の誰かが中にいてもおかしくはない。

ヤバい、見つかってしまう!


ガチャリ


と音がした。

扉の鍵が開錠された音のようだ。誰か出てくるのか?

でも今から走っても、僕が逃げたことは丸わかりだろう。

ここは何かうまい言い訳をしてごまかした方が得策なんじゃないか?

ぐるぐると思考が回る。

だが、一向に資料室から人が出てくる気配はない。


何だ?僕の聞き間違いか?

恐る恐る扉に近づき、聞き耳を立てる。

もう何も聞こえない。

心臓が痛いほど脈打っている。

僕はなるべく音が出ないようにゆっくりと引き戸を開けた。

鍵はかかっていなかった。

あれほど堅かった扉がスムーズに開く。

資料室の中は異様な光景だった。


「……教室?」


部屋の明かりはついていない。それどころか蛍光灯が外されている。そこに36席の机と椅子がきっちり並べられている。資料室なのに資料の類は一切なく、ただ机が並ぶだけの部屋。

床には真っ白になるほどの埃がつもり、誰も立ち入っていないことは明らかだった。

異様だ。鳥肌が立つのを感じる。ここは普通じゃない。

これじゃあまるで封印されていたかのような……………


ふと、黒板のほうに何か見えた気がした。目を凝らしてみる。

黒板に特に変わったところは無い。きれいに清掃された黒板。だが、その脇に貼られた貼紙が一瞬はためいたように見えた。

目を凝らしてみてみるが、暗いのと距離が遠いせいで文字までは読めない。

僕はゆっくり忍び足で教室に入って黒板の方まで行き、貼紙を確認しようとした。


【清掃活動をしましょう】

「最近、教室のゴミが増えています。清掃時間中の清掃はもちろん、それ以外でもゴミが出たらその都度ゴミ箱へ捨てましょう」

「また掃除当番は、しっかり清掃をしましょう」


そんなことが書かれている。クラスに対する清掃の注意文だ。担任の先生が作って貼ったのだろう。特に変わったところは無い。ごく普通の掲示物が画びょう一つで止められている。

僕は何気なくその張り紙を裏返した。



お 前 た ち を 許 さ な い



書きなぐるような筆跡でそう書かれていた。

思わず紙を投げ捨てる。


ヤバい。叫びたいのに声が出ない。呼吸はしているが酸素が入ってこない。

頭の整理は全くできていなかったが、ほとんど本能的に「ここにいてはいけない」と感じた。


急いでドアに向かう。だが、黒板に一番近いドアはびくともしない。鍵のつまみが接着でもされているのか、全く動かないのだ。よく見ると、扉全体がテープで目張りされている。

「ああ、あああ」

振り向いて教室後方のドアに向かおうとする。

走るが、足元の埃に足をとられてこけそうになる。近くの机に手をつこうとするが、勢い余って机を倒してしまう。


その瞬間、確かに耳元でこう聞こえた。


「お前のせいだ」


「うわあああああああああああ!!」


僕は教室から出てすぐに扉を閉めて、急いで帰宅した。


たぶん、あの資料室が本当の3-Aなのだ。あの教室で何かがあり、学校は教室ごと封印した。その時のことが噂として広まり、あのルールだけが知られるようになった。多分そんなところなのだろう。

僕はその封印を解いてしまったのかもしれない。


その日、僕は一睡もできずに朝を迎えた。


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