間違い探し

浅川さん

間違い探し_始

学校の怪談というと皆さんは何を思い浮かべるだろうか。

トイレの花子さん。

勝手に音が鳴るピアノ。

動く人体模型。

歩く銅像などなど。

その他七不思議と呼ばれたり様々な形をとるが、大抵の学校には何らかの言い伝えがあるものだ。


僕の通っていた中学校にもそういうたぐいの言い伝えがあった。でもそれは他の七不思議や怪談とは少し変わっていた。


「3-Aの座席は絶対に動かしてはいけない」


教室内には横に6列、縦にも6列、計36席が並んでいるが、ここから座席を移動させてはいけないというのだ。

増やしてもいけないし、減らしてもいけない。

奇妙なルールだ。


学校にもよるとは思うが、ふつうは毎年一クラス辺りの人数は変わるし、それに応じて机も増減する。

学園祭や体育祭でも机や椅子を移動させて使うものだろう。だが、この教室に限り、移動は禁じられている。

床にはテープで机の位置が記されており、その通りに設置しなければならない。

それだけならば少々面倒な学校特有のルールといったところだが、このルールが適用されるのは3-Aの教室だけなのだ。


新聞部に所属していた僕は、このルールが気になり色々な人に聞き込みを行った。

担任の先生、顧問の先生、用務員のおじさん、教頭先生、校長先生、クラスメイト、先輩。

だが、誰も知らない。


どうして3-Aなのか。そのルールに何の意味があるのか。

誰も知らないのだ。

まあ、百歩譲ってそれは良い。ルールを作った人が学校を辞めたり卒業したりしてしまって、当時を知るものがいなくなることもあるだろう。

だけど、どこにも記録が無く、理由も知らないのにそのルールを守り続けるのは何故なのだろうか。


そこで、僕は実験をしてみることにした。

方法は簡単。3-Aの机を廊下に出して、その様子を観察し記録する。

そうすれば、そうしなければならない理由がわかるはずだ。


放課後、僕はこっそり3-Aに忍び込んで一番廊下に近い席の机を持ち上げ、廊下に運びだした。机は壁際に寄せておいておく。

あとは教室の扉を閉め、僕は同じフロアの3-Cの教室に隠れた。

外からは運動部が練習している音が聞こえるが、今のところはそれぐらい。

僕はデジカメを握りしめ、何か音がしたらすぐに撮影できるよう身構えた。


それから30分が経過し、1時間が経過した。

何も起こらない。

時折廊下に顔を出して確認してみるが、机は依然としてそこにある。

3-Aの教室を廊下から覗き込んでみたが、やはり変化はない。

これでは待ち損だ。


うーん、予想では何か心霊現象が起きたりするんじゃないかと思っていたのだが。

夜にならないとだめなのかな?


だが、ついに完全下校時刻となり、僕は机の観察を諦めて下校したのだった。

完全に拍子抜けだ。どうせ机のルールも誰かが適当に決めたのだろう。

もうこの件は終わりかな。そう考えていた。


翌日、学校に行くとクラスは3-Aのことで持ち切りだった。

「誰かが机を動かした」

「3-Aのヤツが病院送りになったらしい」

「教頭も倒れたってきいたよ」

何だ?一体何が起きたんだ?

僕は前の席に座っていたクラスメイトに聞いた。

「なあ、何があったんだよ」

「ああ、それがさ……」

そこまで言いかけた時、担任の先生が慌てた様子で教室に入ってきた。

「えーっと、今日は休校になりました。3-Aの生徒で、新型ウイルスに感染していた人がいて、学校全体を消毒することになったの」

なんだ、そうだったのか。僕が机を動かしたせいかと思ったが、違うらしい。

でも、なんだか大がかりだな。学校全体とは。

今来たばかりだが、帰っていいというのなら喜んで帰ろう。

簡単なホームルームをして、明日は通常登校だという話をして、クラスは解散となった。


さて、帰るか。

僕がカバンを持って立ち上がったその時、肩をつかまれた。

見ると担任の先生が僕の肩をつかんでいる。

「ちょっと聞きたいことがあるの。ついてきてくれる?」

嫌な予感がした。

これはたぶんバレている。僕が3-Aの机を動かしたことが。そしてこのタイミングで呼び出されるという事は、やはり何か起きたのだ。3-Aの教室で。


連れていかれた先は校長室だった。

中に入ると校長をはじめとする先生たちがほぼ全員そろっていた。

「どうして呼ばれたかわかるかい」

校長が優しそうな声で僕に尋ねた。

僕は首を振る。

「うーん、そうか」

校長は周囲の先生と困惑した様子で顔を見合わせる。

「じゃあ、知ってたら教えてほしいんだけど、昨日3-Aの教室に行った?」

やっぱりだ。何かあったんだ。

大勢の大人に囲まれている圧力と、何かが起きてしまったという恐怖で体が震える。胸が痛い。だが、同時に何が起きたのか知りたいという好奇心も大きくなっていった。


「………いえ、何かあったんですか?」

僕は気が付いたらそう聞いていた。

校長は目を見開き、そしてやはり困惑したように周囲を見る。

だが、周囲の教師たちも困惑しているようで、誰も何も言わない。


「大したことはない。急病人がでたんだ。もう今日は帰りなさい。でも最後に約束してほしい。もうあの教室に関わるのはやめなさい。いいね?」


「…わかりました」


その日はそのまま家に帰り、母に驚かれたりはしたけど、特に何事もなく眠りについた。


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