はじまりの話

 いずれ話さなくてはいけないことだとわかっている。

 面倒。面倒ではある、実際のところ。色んな意味で顔をしかめたくなるようなことが起きていたから。


 それでも、あのとき起きたことを脚色なく、話さなければいけないと思う。


 あいつには「見せた」じゃないか、って? 

 そうだね。でもあのときは、交差点の七階は、そうする必要があったから。とっておきだったんだよ。本当に大事な記録だからね。

 あの話を、誰にもしてはいけないとは言われていない。

 でもそれは裏返せば、話すべき時と相手を見誤るな、という意味でもある。

 大事で、大事だからこそ、とても面倒な話。そういうことなんだ。

 

 月浜定点観測所という場所。

 あらゆる人の生きた軌跡を物語として収集し、記録し、収蔵する。

 誰がそんな場所を作ったのか。

 なんのためにそんな使命を与えたのか。


 昔の、本当に昔のことだ。

 私が今いるこの荒野だって「彼ら」の景色の焼き直しでしかない。

 あの二人がいなければ、何も始まらなかった。

 彼らの望みを裏切るような結果にはなってしまったけれど。


 きっといつか、あなたにも話そうと思う。

 

 無数の本たちの話を。

 光射す中庭の話を。

 白い石畳を汚した血の話を。

 舞い散る頁の話を。

 固くつないだ手の話を。

 夜明けの、荒野の話を。





 彼らの話を、

 はじまりの国の話を。

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