第39話
「も、森本くん! 2時間だけ、動画の編集を手伝うの待っていてくれませんか?」
そう言われた俺は、松本さんの部屋から追い出されてしまった。
行き場をなくした俺は、リビングにてソファーを見つけ、そこに座らせてもらうことにした。
松本さんは2時間だけ待ってくれと言った。リビングにはテレビがあったが、勝手に人のうちのテレビをつけるのはなんだか躊躇われるしなあ。
そうして、なんとなくスマホをいじり始めたわけだが、俺がいつも視聴しているゲーム実況者の人が配信しているのが目に入った。
それはこの空いた2時間を潰すには、ちょうどいいものだった。
特に深く考えず、俺はその配信を視聴することにした。
「ごめんごめん! この時間に配信する約束していたのに、すっかり忘れちゃってた! いやあ、ようやくテストが終わって、やっとなんの気兼ねなくゲームができるよ! え? テストがどうだったかって? それを聞くのは野暮ってものでしょ〜」
ちょうど配信は始まったばかりのようだった。
『そういえば、この間学校で体育祭があってね? 僕はまあ運動が得意じゃないから、側から見ているだけだったんだけど、その体育祭で面白いことがあって。借り物競走で、好きな男の子に告白してる女の子を見かけたんだよ。ベタだけど、すごい青春だなあって思って。はい、二キル目!』
なんでもない雑談をしながらも、その配信者は華麗なプレイを見せていた。
これだけ自分の思うままにプレイできたら、きっと気持ちいいんだろうなあ。
……しかし、借り物競走で告白か。
なんかそれはどこかで、聞いたことある話だな。
『そのあと二人はまあ、カップルにはならなかったみたいなんだけど、よくよく話を聞いてみたらそもそも二人はそこまで親しい関係性じゃなかったみたいでさ。まずは相手に自分を意識してもらうための告白だったらしくて……はい、3キル目! それから2人の事を注意深く観察するようになったんだけど、最近になってついに名前呼びを始めたらしくてさ、そんな二人を見てるとすごいこっちがドキドキしちゃって〜』
……ん? 最近になって名前呼びを始めた?
なんだかそれは聞いたことある話というか、身に覚えがある話というか。
これって、俺と愛の話じゃないか……?
体育祭の借り物競走で告白、最近始まった名前呼び、それらはいずれも俺が体験したことであった。
その話は俺か愛か松本さんしか知らないし、当事者である俺と愛がそんなことを赤裸々に語るはずがなかった。
————ということはつまり、このゲーム実況者は松本さんなのか……?
いやいやいや、そんなことありえるはずがない。
だってそもそも、この実況者は男子高校生なのだ。
そもそも性別が違うのだし、そんなわけがない。
世界は広いのだ。似たような話の一つや二つ、あったってなんら不思議じゃない。
「その2人、明日デートに行くんだって! そんな2人の様子を側から見ていたいに決まっているじゃない? なんとかその二人の後を尾行したいって考えているんだけど……三キル目! 何かいい方法ないかな? え? デートスポットを紹介するふりして、そのまま尾行しろ? それいいね!」
それを聞いて、俺は思い出した。
——そういえばこの世の中には、ボイスチェンジという便利なものがあるんだったな……。
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