第38話
そして迎えた、定期テスト本番。
率直に言えば、テストを解いた感触はまずまずだった。
序盤中盤の基本的な問題はそこそこ自信を持って解けたが、終盤の応用問題ともなると解くことさえもままならない問題にぶつかった。
さすがは、進学校の定期テストといったとことか。
この2週間、かなり勉強をしたつもりではあったが、やはり2週間足らずの勉強で今までの勉強不足をすべて挽回できるほど、甘くはなかった。
とは言っても、2週間前の俺の悲惨な状態を考えれば、その結果はポジティブなものだった。
「はい、そこまで」
そして、初めての定期テストは終了した。
解答用紙が回収された後、教室はそこで解散となる。一気に教室が、テスト終わりの開放感に包まれた。
ふと隣の愛の方を確認してみると、瞬く間にクラスメイトたちに囲まれて、テストの出来を賑やかに話し合っていた。
テスト前の勉強会以来、愛とはまともに喋ってはいなかった。
それは決して喧嘩をしたとかそういうわけではなく、今週は勉強会もなかったし、学校でも話す機会がなかったのだ。
毎回のテスト後に、今のテストはどうだったかと視線を合わせることはあったが、俺と愛の接点は本当にそのくらいだった。
そもそも俺と土屋さんの接点というのは、そんなもので。
そんな現状に、少し寂しく思う自分がいたり。
どうやらこの後、愛はクラスメイトたちと打ち上げに行くようだった。
当然、俺はその打ち上げに誘われるわけがなかったので、今日も愛とはまともに話せそうになかった。
まあ、明日は愛とデートをする約束をしているので、その時にテストを解いた感触なんかも含めて、色々と話せればいいか。
一方の俺にも実は、今日、用事があるのだ。
「じゃ、じゃあ、行きましょうか!」
「ああ、よろしく頼む」
定期テスト終わりの放課後、俺は松本さんに動画編集を教わることになっていた。
どうやら松本さんは動画編集の知識と経験があるようで、学校のPV作成の協力をお願いしたのだ。
松本さんの家には、動画編集ソフトをダウンロードしたパソコンがあるそうで、それを使わせてもらえることになっていた。
ここ数週間で2人の女子生徒の自宅へお邪魔することになるとは、数週間前の俺は思ってもみなかっただろう。
松本さんの家へ向かうまでの道中、松本さんが話しかけてきた。
「テ、テストの出来はどうでした?」
「まずまずといったところかな。松本さんは?」
「わ、わたしは、かなり解けたと思います! 愛さんと一緒にやったところが沢山テストに出て、まるで進研ゼミの宣伝のようでした!」
「あはは、それちょっと分かるかも」
たしかに愛がテストに出ると言ったところは、高確率でテストに出題されていた。勉強ができるやつは、テストに出そうな場所が分かるそうだが、俺には皆目見当もつかなかった。
「ち、ちなみに先週の2人きりの勉強会はどうだったんですか?」
「どうもなにも、普通の勉強会だったぞ」
「男女が密室で2人きりなのに……な、なにか間違いとか起こらなかったんですか?」
「起こるわけないだろ。大体、あの日は愛の——」
「ええっ!? つ、ついにお二人は下の名前で呼び合うようになったんですか!?」
「う」
迂闊だった。
愛と2人きり以外の時は愛のことを苗字で呼ぼうと決めていたのに、思わず名前で呼んでしまった。
「や、やることはやったって感じですね!」
「変な言い回しをするな」
やがて到着したのは、新築のマンションだった。オートロックを抜けてエレベーターに乗り込み、どうやらマンションの3階に松本さんは住んでいるみたいだった。
「どうぞ」
「お邪魔します」
松本さんの家にお邪魔した俺は、そのまま松本さんの部屋へと案内された。
松本さんの部屋は、ごく一般的な女子高生の部屋といった感じだったで、可愛らしい部屋だったのだが部屋の一部が少し異色だった。
「パソコン、2台も持っているのか。それに椅子も……ゲーミングチェアってやつなんじゃないのか?」
「そ、そういう部分には特にこだわっているんです!」
「そうなんだ」
やたらと、机周りの家具が豪華に揃っていた。
もしかすると、松本さんはそういうところにお金をかけるのが趣味なのかもしれない。
「じゃあ動画編集始めましょうか!」
「よろしく頼む」
PVの素材が入っているUSBメモリーを松本さんに渡し、早速、動画編集作業は始まった。
「ち、ちなみになんですけど、これを機に動画編集の勉強をしてみようって気は、森本くんにはないんですか?」
「……うーん。今のところそういうつもりはないかなあ。パソコンも持ってないしなあ……」
「そ、そうですか……」
俺がそう言うと、明らかに松本さんの目が死んだものになってしまった。
これから動画編集のことを教わる立場の人間の言葉として、今の態度は相応しくなかったかもしれない。
「で、でもこれからの時代、重宝しそうな技術だからな! 基本的なことはしっかり勉強させてもらうよ!」
「で、ですよね! そうした方が絶対にいいです!」
そう、松本さんの目に光が戻った時だった。
松本さんのスマホが、設定されていたアラームによって振動を始めた。
そして、そのアラームを確認するやいなや、松本さんは焦った顔になり。
「も、森本くん! 2時間だけ、動画の編集を手伝うの待ってくれませんか?」
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