第40話
『あっ、もうこんな時間! この後用事があるから、今日はこのくらいにしておこうかな。みんなお疲れ様! またこんどっ』
そうして、俺が試聴していたゲーム実況配信は終了した。
ふと配信時間を確認してみると、2時間と少しが過ぎていた。
もうそんなに時間が経っていたのかと、視聴していた俺もあっという間な感覚だった。
配信が終わると、やがて松本さんの部屋の方からがたがたと音がし始めた。
まもなく部屋から、少し頬を火照らせた松本さんが現れた。
このタイミングの良さから考えても、さっきまで俺が視聴していた動画の配信者は松本さんだと断定してしまっていいだろう。
「ご、ごめんなさい、森本くん! だいぶ待たせてしまいましたよね?」
「いいや、俺なりに楽しく時間を潰していたから気にしてくれなくて大丈夫だ」
「そ、そうですか。それなら良かったです! じゃあ早速、動画編集を始めましょうか!」
「ああ、よろしく頼む」
「……そ、それとですね、森本くん」
「ん? なんだ?」
「明日のデートはディズニーランドとかがいいと思います!」
「脈絡とか関係なしに、いきなりぶっ込んできたな!?」
おそらく松本さんはデートスポットを紹介するふりして、そのまま尾行するつもりだろう。さっきそう言っていたし。
俺は松本さんがゲーム実況をしていることを知ってしまったことを、松本さんに言うべきかどうか、少し躊躇っていた。
松本さんはそのことを隠しているような様子であったし、それは俺には知られたくなかったことだったかもしれない。
だったら、俺は知らないふりして黙っていたほうが……と少し考えたが、それはやっぱり辞めることにした。
せっかく高校に入って初めてできた友達だ。
友達というのは対等であるべきだと思うし、その正体を知ってしまったことを、一方的に知っているのはなんだか不誠実な気がした。
それにずっと隠し事をしていられるほど、俺も器用な人間じゃあないからな。
「松本さん」
「な、なんでしょう?」
「これって、松本さんだよね?」
そう、俺はさっきまで見ていた配信画面を松本さんに見せつけた。
俺にそれを見せつけられると、松本さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「な、なんでそれを……」
「気がついたのはついさっきなんだ。元々、俺はゲーム実況を見るのが趣味の1つでな。たまたま松本さんの配信を見ていたわけだが、あまりにも実況者が話す雑談に身に覚えがありすぎて、その結論に至ったんだ」
「な、なるほど……」
「べ、別にこれを知ったから、脅してやろうってわけじゃあないんだ」
「ふふっ、分かってますよ。森本くんがそんなことをしないっていうことくらい。なんだか前にもこんなことがありましたね!」
「ああ。立場は今とは真逆だったけどな」
思えば、あの頃と比べて松本さんとの関係値も大きく変わったものだ。
「……そうです。わたしはゲーム実況者です。ここまでバレてしまっているのなら、わたしのすべてを森本くんに話しましょう」
「いや別に無理に話そうとしてくれてなくても……」
「そうですね。今の言い方は卑怯でした。言い換えます。わたしの友人である森本さんには、ぜひわたしの話を聞いていただきたいです」
そこまで言われてしまえば、断ることはできなかった。
俺は黙って頷き、やがて松本さんの話は始まった。
「ゲーム実況を始めたのは、中学生の頃です。一緒にゲームをやっていた親友——いいえ、友人からゲームが上手だねと褒められて、ネット上にそのプレイを投稿してみないか、と提案されたのがすべての始まりでした。わたしも最初は気楽な気持ちで、どうせ誰も見ないだろうなと思っていたんですが、思いの外話題になってしまって……」
それはきっと、松本さんのプレイが圧倒的にうまかったからであろう。
やはり松本さんのプレイは他のプレイヤーと一線を画するものがあったし、注目が集まるのは自然なことだったんだと思う。
「そんな状況にわたしは驚きながらも、やっぱり嬉しくて。だから定期的に動画を投稿するようになって、わたしの動画を見てくれる人も段々と増えてきて……。わたしの動画投稿者としてのスタートは、順風満帆と言えるものでした」
そこまで話すと、松本さんの表情は一気に険しいものになった。
「ただ光が当たり始めると、影って生まれ始めるものじゃないですか。……まあ端的に言ってしまえば、自分が注目の的になっていくにつれて、アンチも増えていったんです。わたしが投稿した動画に、きつい暴言やほぼ関係のない下ネタを書かれたり、そういうことが増えていって。そのアンチの中でも執拗にコメントしてくるアンチがいたんです。コメントの削除とか追放をしても、また新しいアカウントを作ってきたり、とにかくしつこくて。別に今だって時々アンチコメントは書かれたりしますし、私自身、あまりそういうコメントは気にしない方ではあるんですけど……」
「そのアンチをしていたのが、私に動画投稿を勧めてきた友人だったんですよ」
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