第15話
そして週末を挟み、月曜日のHRの時間がやってきた。
今週の土曜日に控える体育祭で、それぞれが出場する種目を今から決める。
高校1年生に割り当てられた種目は、徒競走、綱引き、サッカー(男子のみ)、バレーボール(女子のみ)、そして借り物競走だった。
これらの種目の中から、最低でも1人1種目出ることが、体育祭では義務付けられている。
体育祭で成績の良かったクラスには、賞品が出るそうだ。
だからクラスメイトたちはそこそこ体育祭にはやる気を見せていて、それは誰がどの競技に出るのか話し合っている今も、例外ではなかった。
ちなみに、俺は綱引きに出場しようと思っている。なぜなら綱引きが一番地味で、一人にかかる責任が1番小さいからだ。
まあ、俺がどの競技に出場するかなんて、誰も気にしちゃあいない。
今一番の注目が集まっているのは、土屋さんがどの競技に参加するかだった。
土屋さんは抜群に運動神経が良い。
それは日頃の体育の授業で十分に証明されていることで、クラスメイト全員がそれを理解していた。
だから、皆の注目が集まるのも無理はない。
おそらく土屋さんは2競技以上参加することになるだろうし、土屋さんの望みは優先的に通るだろう。
ちなみに土屋愛ファンクラブで、土屋さんを護衛しやすいような競技に参加するよう誘導する、といったことはしないらしい。
あくまで土屋さんの希望を邪魔することはしない、というのがファンクラブの意向だそうだ。
「それでは、体育祭の種目を決めていきます」
クラスの学級委員長が司会となって、いよいよ競技決めは始まった。
まず、陸上部員は徒競走への参加、サッカー部員はサッカーへの参加というように、普段からそれぞれの競技について部活動で励んでいる生徒から、その競技への参加を確定させていく。
綱引きは、パワー系の部活動——例えばアメフトやラグビーなどの部活動に所属している生徒が、優先的に選出された。
綱引きの面子を見て、あの中に俺も混じるのかと尻込みしたが、そのことをあまり不安に思う必要はない。
結果的に綱引きには、どの競技からも溢れた運動音痴の生徒が集まるのがオチであるから。ソースは、俺が中学生だった頃の体育祭。
その行程が終われば、いよいよ運動神経がいいとクラスメイトたちが認める生徒たちの番である。
自然とクラスメイトの視線が、土屋さんに集まる。
それを察した学級委員長が、土屋さんに話しかけた。
「土屋さんはどの競技に参加したいとかあるかな?」
そう問われた土屋さんは、しばらく考え込む仕草を見せた。
土屋さんならどの競技を選んだとしても、その持ち前の運動神経の良さを発揮して、活躍することができるだろう。
彼女は、なんの競技に参加すると言うのだろうか。
クラス全員が、土屋さんの次の言葉を固唾を呑んで待っていた。
すると、ちらっと土屋さんが俺に目線を向けたような気がした。
それはほんの一瞬の出来事で、次の瞬間には土屋さんの目線は黒板に向けられていた。
そして彼女は答えを出した。
「私は、借り物競走に出たいわ」
その土屋さんの回答に教室が少し騒つく。
借り物競走といえば、綱引きに負けず劣らず、運動音痴の生徒が集まりそうな競技の1つである。競技に運要素があるので、個人の運動神経の良さが結果にあまり関係しないしないのだ。
それはいくら運動神経が良くても、いい成績が取れるとは限らないということであって。
そんな競技に土屋さんが立候補したのだ。
教室が騒つくのも、なんとなく理解できる。
クラスメイトが微妙な表情をする中、土屋さんの意思を否定できる肝の据わった生徒などこのクラスにはおらず、そのまま土屋さんの希望は通ってしまった。
流石にそれだけでは土屋さんのせっかくの運動神経がもったいないと、徒競走とバレーボールも出場することを土屋さんはお願いされていた。
それに断ることなく、結局、3つの競技に土屋さんは参加することになった。
それはタイムスケジュールの関係で、1人で参加できる最大の競技数だった。
ふとなつみの方に視線を向けてみると、少しなつみは険しい顔をしていた。
まあ、土屋さんが3つも競技に参加するとなれば、護衛するのも大変なことになるだろう。
どう護衛しようか、と今から考えているに違いない。
それから一般生徒の番がやってきて、それぞれが出場する競技を決めていった。俺も無事に、綱引きに参加することが決まった。
体育祭というイベントを無難に乗り越えられそうで、俺はそっと胸を撫で下ろした。
——しかし、この時の俺は知る由もなかった。
土屋さんが何故1番に、借り物競走に出場したいと志願したのかを。
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