第5話 決着

が、窓ガラスを割りながら既のところで化物のパンチは空を切る。


その風圧と衝撃波で俺は軽い脳震盪起こすも目尻から顳顬上部へと刃物で切られたような激痛が走り現実へと引き戻される。


足もと、いや膝もとが滑ったのか、超高速運動に半死半生の化物の身体がついてこれなかったのか、どうしてかは分らないがこの危機を凌ぎ切れた。


無理無理無理無理、勝てない!今の偶然が味方しなきゃ確実に殺されていたのは俺の方だ。しかし何故だ、、最初の対決の時には無かった現象だ。

危機的状況・状態で発動する化物の異能力なのか?


それとも化物には俺とクラウンの相手は余裕と見て1ラウンド目は自分の力を俺に見せつけてやろうとしたのか?

その化物の自信は結果的に崩壊したのだが。この技は反則以外の何ものでもない。


まてよ、俺は化物との距離が近づく前までは何事も無かった。化物との距離が数メートル近づいたら起った現象だ、と気づく。すると近づかなければ回避できるのだろうか?


回避できたとして倒せないんじゃ意味は無いだろ。逆に次に化物に近づけば今度こそ殺られるかもしれない。


化物を見ると、加速時にムリをしたのだろうか。2度目の対決の後、両膝下から白い物が突き出て血がドクリと流れている。

「この世界の化物も骨は白くて血は赤いんだな」などと緊張してる割に呑気なことを考えている。


化物との距離は離れた。が、ヤツは追ってくる気配だ。ゆっくりとだが。

「しつこい!執念深いヤツだぜ」

しかも手負いの癖に。俺はここの地理など分らんし知らん。何処に行けばいいのか見当もつかない。


樹海か森林か林か川以外は見渡す限りは草原と、、後は川伝いに山がある。距離は目算だが、、ま、近いっぽい。


危機的状況が去りホッとしたのか熱波が襲いかかってきた。暑い。

割れたフロントガラスから身体全体へ熱風が襲いかかる。水か、、水はまだあるな。


明日になれば水も無くなるだろう、食い物も心配だ。俺はふと気づくとニヤついた。

明日死んでいるのは俺の方かも知れないというこの状況で明日の心配とはね。


飲食物の心配は人として本能的に具わった性欲食欲睡眠欲3大欲の一角だよな、

など愚痴っぽい独り言がポンポンでてくる。


だけど、変だぞ、この世界でヤツ以外の生物らしき生き物を見たのは魚と蟹だけだ。化物の番いか仲間は・何・処・かにいるのか?


もし、もしもだが・だ・け・だ・としたら、、なら、もう少し弱らせてから曳き殺す作戦に変更だ。


ヤツは動けないのか痛みで動かないのか分らないが先程の場所から殆ど進んでいない。それとも出血多量か?血は生命力、同じ生き物であることの弱点だな。


車で化物にフェイントを掛ける。高速移動されないよう車のハンドルを切りある程度手前で躱す。古典的方法だがこれしかない。拳銃とブツの入ったアタケ-は化物の背中に乗せている。


取りに来いってか。器用なことを考える化物だぜ。


化物に近づいて離れる、これを一定時間続けた。グロッキーか化物野郎!野郎か女朗かは知らないが。


お?動かなくなった?化物めやっとか?その化物の真横へとクラウンで近づく。

加速しながらもっと近づく。距離にして9m、10m位か、来た。化物野郎の異能力。高速移動+スローの複合技。


先ず俺の狙いは骨の突き出た両足への車両アタックだ。超スローな世界で化物を見ると腕が折れた右側を支点にして左腕2本で起き上がる体制だ。

が、化物の下半身は動きが取れずに散漫だ。イケる。俺も加速だ!クラウンのアクセルを踏み込む が、気持ち程度だ。気分的には1秒が10分1分が1時間のように感じる。

それ程の焦りと興奮とが入交じった恐ろしい程お・そ・い・速度に命がけの緊張感が押し寄せる。

スピードメーターを睨むと 止まっているようにも見える。


この現象は引力をも無視している。道路では無いので凸凹を拾い車が跳ねたら引力で落ちるのだが、跳ね上がるもゆっくりと着地もゆっくりだ。化物の能力は決まれば回避不可避な恐ろしい技だ。


が、それも時間の問題だった。化物はもう動けないでいる。つまりこのまま車で千切れかけた化物の両足めがけて走り抜けれれば俺の勝ちだ。


そしてその時はきた。スローモーションで化物の骨の砕ける音が残響のように遅れて響く。クラウンは骨を砕きながら両足膝を曳いたのだ。曳いたが超スロー状態は解除されない。

化物の悲鳴がドップラーシフトしていく。その声を聞きながら長い時間を掛けて化物の異能力の範囲外へ抜けた。


化物の潰された両足の断面からは赤い血がドクドクと流れ出ている。そして自身の身体を支えていた2本の左手がガクリと地面に落ちた。やっとだ、

こうして俺は長かったような短かったような熊ゴリラの化物との闘いに終止符をうった。

戻ったら自賠責保険効くかな?効かねーだろうなぁ。第一誰も信じねーよなぁこんな話。そう呟いていた。


時間を見る。一時半か。化物との死闘は90分にも及んだ。次の瞬間、お、お、なんだこれ?気が遠くなる,,,頭の中で何か見えた気がした。ちょっと待って。。


そこで俺の意識は途絶えた。意識が途絶える瞬間、脳内に変化が起きたらしい。


暑さと熱風に起こされた。意識が戻るまで時間にして1分か2分程度のものだった。

同時に脳内へ意味不明の文字が表示される。俺は意識混濁の幻覚と思い消えろ!と念じる。すると文字はすっと消えてしまった。


戻ったのか?令和の日本に?回りを見ると化物の死体に見なれた草原。なんだよ、元いた世界へ戻せよ。終わったんだろ化物退治。


犬猿雉はいないし、きび団子ももないけど鬼退治は終わったぜ。オピウムクイーン。なぁ、と何も無い空間へ向かって呟いた。


喉が渇いた,シャツもパンツも汗でびっちょりだ。エアコンはオンだが素通しの車内では意味は成さない。あーあ車のシーツも濡れてら。

生ぬるい水で水分を補給するとこの場を離れる。また同じ化物が現れたら今度こそ死ぬ自信がある。次は殺されるわな、きっと。


闇雲に車を走らせるわけには行かないが右も左もワカラナイこの世界で根拠の無い自分の勘など当てにならない。ま、なにはともあれ詰んだ状態ながらも何処かに向かって走ってみなきゃな。


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