第4話 化物

暫く道なき道を進んでいると川のような流れを見つけた。

「水があるんだ、いや、川があるんだと呟いていた」

その川の向こうは林ではなく森林というか樹海っぽい 車を川沿いに止めて、涼しい車内から車のドアを開け、再び熱波渦巻く車の外へでる。


「暑っちいなー」

と呟きながら川へ降りてみた。川幅はあるがそれほど深くない。

「魚いたりしてな」

「いたよ!」

魚だ、魚がいるじゃん、しかも地球型の魚だ!となんだかホッとしたような嬉しい気分だ、空は白いけど。


食えそうな魚だな、焼けばイケるか。釣竿無いし手づかみで、、と、ムリか。

そうだ、拳銃あるし1発試し撃ちしてもいいな。俺はクラウンに戻り、銃とブツの入ったアタッシュケースを持ち出し、さっきの場所へ戻る。


アタッシュケースを地面へ置き、ケースの中からリボルバーを手に取ると川面へ向かって空打ちした。

分ってるよ、ダムダム弾で撃ってもお魚ちゃんに当たれば粉々じゃん。しかも毒入りだし。

357マグナムリボルバーをアタッシュケースに戻した俺は再び川に近づいた。


そうね、じゃ、手で捉えやすい「蟹もいたりしてな」っていたよ!

ツイてんなー。ちと都合良すぎる気がするけど、考えてもしかたねーし。


普通の蟹だ、地球型のモズクガニってのにクリソツじゃん。こいつら食えるとしたら何処かに人がいるのか?街もあるのか?街があるならなら俺の望みはただひとつ。

ハタチ前後の容姿端麗なピッチピチな美女たちによるお出迎えだ。

「ご主人さま~お風呂にしますか、お食事になさいますか、そ・れ・と・も・わたし。。」なーんてな。

 

アホらし、そんなわけアラースカ。でもこんな冴えない土地がもし地球の過去だとしたら、また未来だとしたら、、未来?ま、(前方の密林を見ながら)

ここで想像したって始まらないしな。


「得体の知れないジャングルって恐ぇーな。化物でも出てきそうだし」


突然前方でザザッと木を薙ぎ倒すような音が、、同時にすっげぇー嫌な感じだ。

その音のした方を見つめていたらその嫌な感じが当っちまった。

な.ん.だ.こ.い.つ.は、、考えるより本能が危険を察し、踵を返すと夢中で車へ乗り込んだ。

「やべっ。ブツと銃の入ったアタッシュケースは川岸の地面にそのままだ!」


クラウンのエンジンは掛けたままだ。そのままアクセルを踏み込む。

が、道路では無いのでスピードはMAXで出せても精々50~60キロがいいところだ。

「なんだアイツは!」

「クソ暑いのに鶏肌がハンパねぇ」

ゴリラかと思ったら目ん玉が3つもあったぞ、顔に2つとお凸に1つ。しかも腕が2本づつ左右合わせて4本もあった。おまけに顔は熊みたいだ。


「俺がさっき恐いと思った化物にそっくりじゃねーか!」


しかもご丁寧に置いてきたアタッシュケースを口に咥えながら迫って来た。

(そうか、ヤツにはアタッシュケースの把手が小さ過ぎて巨大な指が入らねーのか)


怪物、やっぱ化物か。顔は熊で身体はゴリラ、、あれで馬並みに速かったら無敵だろうな。などと宣う俺の神経はどこか麻痺しているのか。


体高3mくらいか、でかい、デカすぎる、恐ろしい程の迫力だ。恐怖、今になって恐怖が襲ってきた。

クラウンのバックミラーに奴の姿が映ってる。 

は、速い、しかも2本足じゃない!4つ足で追ってきた!熊かよ、熊じゃねーだろ

ゴリラだろ畜生!

速い、追いついてくる。このままじゃ、ヤバイ、ヤバいよマジで、、


どうする、どうするったって、、考える時間も無いぞと俺は俺に自答する。

70キロにスピードをあげた。凸凹にタイヤを取られクラウンがジャンプし悲鳴を上げる、が、追いついてくる。奴のスピードの方が確実に速い。

くそっやるか!場面的にこうなったらもう行く道行くしかねー

「21世紀の車なめんなよ!」


追いつかれる前にシートベルトを掛けながら大回りをし、車のノーズを化物の方へ向ける。

でかいな、こいつでかすぎ クラウンの車高と化物の体高の差は約2倍もある。

その分だけ恐怖に襲われる。

クソっ アクセルを踏み加速に移る。40、50、55㎞、相棒のクラウンのメーターが上がるたびに車体が跳ぶように上下に跳ね上がる。

来た、突っ込む。化物も怯まない。無意識にブレーキを踏みそうになる。が、踏まない。

(80㎞)

化物とぶつかる瞬間、俺は目をつぶった。


『ズド――ン』


衝撃で車体が揺れる。車内で受止めた衝撃は踵と膝に来るも構わず前を見る。

相手は未知の生物だ。だがヤツは生身だ。その化物と鉄の塊の車とが双方ほぼ同スピードで正面衝突でぶつかった。その破壊力は凄まじい物があった。

化物は衝撃を受止めきれず身体ごとフロントガラスとルーフを破壊し、巨体ごとやや斜め後ろ後方へ跳ぶように地面に激突したのを感じた。


クラウンは化物の速度と車自身の速度の双方の破壊力でボンネット、フロントガラスの破損に化物との衝撃で屋根は潰れかかっている。

フロントガラスは破壊されたが車内にはガラス片は入り込まず全て車外へと飛散した。

ビルの十階から落ちたような激突にも拘わらずクラウンのエンジンは掛かってる。

クラウン動くか?動いてくれ。

アクセルを踏む すると動いた いいぞクラウン、素晴らしい車だ。俺の身体もシートベルトと柔軟なボディ剛性のお陰か大丈夫みたいだ。


奴は化物はどうだろう 車内から後ろを見ると居るはずの場所に化物がいない!

やべっ、フロントガラスが大破し外の熱波で汗は出るのに心は寒く冷たい。

奴はどこだ?アクセルを踏む瞬間、突然車のリヤアが浮く。


化物はあろう事か重量2t半近くもあるクラウンのケツを持ち上げやがった!


物凄いパワーだ、骨とか怪我とか、、こいつ車とぶつかっても何ともないのかよ。

リアバンパーがメキメキと悲鳴を上げる。まだローンが半分以上残ってるのに!

クラウンをひっくり返そうとしてるのか?無意識にアクセルを踏む。ハンドルが脂汗ですべる。走行は出来なくても何かしとかないと、焦る。が、反撃の糸口が見えてこない。


この状況、この場面で、情けなくもやれることはアクセル全開でタイヤを回すことくらいしかない。と、その時、車が左に傾いた、ヤバっ!


が、突然、ガッガガガという擦過音と同時に右後側から

「グァー」

という化物の叫び声が。

ほぼ同時にドン!とクラウンのリヤタイヤが地面に着地した。 

「コイツ車の下敷にならなかったのか、運のいい野郎だ」

と同時に、どこから出てきたのかマンションの部屋に忘れてきた筈の煙草がライターと共に運転席の足下に転がっていた。 


ざまぁ化物め!どの程度の怪我を負わせたかは分らないも手応えはあったと思いたい。高速回転した車のタイヤに当たればどんな生き物でもタタじゃ清まないだろ。


化物だろうが生きてる、生きてりゃ血も通ってるだろう。人工的に何者かが手を加えた機械的な生物じゃないのなら尚更だ。


化物と正面衝突したときの車がぶつかる感触。それは生物に間違いなかった。

そう考えながらも俺の身体は意識しなくとも勝手に車を走らせコントロールしている。商売柄とはいえ無意識に動く運転技術に感謝だぜ。


化物から離れた俺は、車の向きを変えヤツの様子を伺がう。


「効いてるじゃん!」


そりゃそうだ。ローン支払い中のクラウンだぜ。

そのクラウンの車体ロケット砲を喰らわしたんだ、おかげで涙ちょちょびれそうだぜ。


化物を観察すると身長が縮まったみたいに思える 足が短くなった?そうか、

ヤツは膝で立っているんだ。

化物に近づかないと確認できないが、当たらずとも遠からずか。

それに化物の目と目蓋が塞がれ皮膚が破れて血が見えているのも確認できた。

とにかく化物の両膝下を破壊できたんだ!やった!

それに4本ある腕は右側2本があらぬ方向へ向いてるようだし、3つある眼のうち右目が1つ潰れた?みたいだ。


(こんな重症でクソ重たいクラウンを持ち上げたのかよ。IKKOじゃないが、どんだけー!だぜ)


正面衝突で何処かを右手で庇った拍子に2本とも腕が壊れたか、、それと右目はクラウンを持ち上げたときの高速回転中のタイヤに接触し潰されたのか。地面に激突した際のものなのか。

どちらでもいいや、現状を打破できた気分は勝利者に等しい。

 

どうやら化物は唸るだけで立てないみたいだ。と思った瞬間、両膝と左手で四つん這いになり器用にゆっくりとだが動き始めた。

「痛くねーのかよ!」

思わず突っ込みたくなる。

この野郎、急に現れ散々ブル咬ませやがって!と宣うもこの化物の攻撃本能は異常だ。決着をつけるか逃げるか。選択肢は1つしか無いが俺の心は決まっている。


俺はクラウンで元いた林の中に一度避難した。適当に化物との距離を取り、ミネラル水2ℓのボトルを取って車から降り、俺は化物を観察する。

化物はモゾモゾするが動きは:散漫だ。殆ど動いてない時もある。驚いたことに拳銃とブツが入ったアタッシュケースは相変わらず化物の口元にある。ヤツには執念という妖怪も取りついてるのか。


さっき化物と相撲を取ったときに破損したクラウンの前部破損箇所を見てみる。走れないほど物凄く酷いダメージと言うほどではない。それよりラジエーターへのダメージが思った程じゃなくて良かったぜ。


風通しが良くなって殆どオープンカーだなこりゃ、、オマケに雨降ったら車ん中で雨傘ささなきゃ、、

熱波が肌に浸みる、車の中も外も真夏だ。

「キンキンに冷えた生ビ-ルが飲みてぇ」温くなったミネラル水2ℓのボトルに口をつけた。


化物の損傷箇所から流れる血は赤い血の色だ。しかしタフな野郎だ。女郎かも知んないけど。それと化物の口元にあるアタッシュケースは取戻したい。

この先あのアタッシュケースの中の拳銃やブツは危機管理すら出来ないこの世界において攻撃力の無い俺にとっては頼りになる必殺の武器だ。


化物との対決はこのまま化物が失血死か感染症かでヤツが死ぬまで待つもそれは今日か明日か3日後か5日後か、その前に俺がダウンだ。


いまは緊張の連続で腹も空かないが、飲食料の確保、寝床の確保、下の世話や風呂で汗を流したい。

車泊用に歯ブラシセット、トランクに箱テッシュはあるが、普通にひと月と保たないぜ。

ま、上げたらキリねーし。生きてる人間だからよ、綺麗事ばかりじゃすまねーぜ。


化物も大分動きがスロウになったし、まさかあの状態からいきなり加速したりはさすがにできねーべ。


化物の分析は終わった。そろそろヤツと最後の対決のお時間だ。


腹は決まった。目標は化物の膝の完全破壊による分離だ。


俺は車へ乗り込むと、発進したクラウンと共に化物めがけ疾走する。

化物の動きは相変わらず鈍い。 

スピードは40,50,と徐々に上げた。その勢いで車が上下に激しくバウンドする。かまうものか!俺の運転するクラウンは化物に目算で9~10mまで近づく。


ゆ・っ・く・り・と化物へぶつかる筈がぶつらない?

「ゆっくり?何でゆっくり?ぶつかるはず?変だ、おかしい!」

俺の両腕が重い、というより俺の身体の動きが遅いのか。ハンドルを持つ俺の腕の動きがまるでスローモーションを見ているようだ。


なんだこれは?外の景色も動きは遅い、が、スピードメーターは70キロ手前を指している。そのギャップについて行けない。その反面俺の意識はスロ-モーションだと認識できてる。

それに対して逆に化物の動きが速い。速すぎる。


「今の今までスロウだったのは化物の方だろ。この場面で立場が逆転するなんてありえねーぞ!」


車の運転席側へ余裕をかました化物が近づく。速っ!化物野郎速ぇー、もろっ速だ!思考回路はスローでは無いだけにこの危機的状況を冷静に分析できた。

「車は加速しているのか?」

加・速・し・ろ!ジェット機のように!と思考するも動きは物凄く鈍い。

 

その瞬間、化物の動きが、姿が、幾つもの残像を伴って超加速した!

「コイツ分身した!?」

いや何体も居る化物の最後尾は実態が薄くなっている、、この現象、知ってる、知ってるぞ!


超高速で物体が移動したときの残像現象だ!俺が超スロウ状態ゆえに敵の動きが分身したように見える高速領域による残像現象だ!


「ば・け・も・の・め...」


くるっ!手負いながら負傷していない化物の左のパンチが俺の顔に向かって炸裂した!

車は動いている筈なのに止まってるかの如く鈍く、化物のパンチで運転席側の割れ残ったガラス片がダイヤモンドのように散らばり、鈍い動きをしながらキラキラと輝いている。

そのガラス片を撫でるかのようにしながら化物のパンチが俺の右頬へ繰り出された。


「死んだなこりゃ...」


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