第3話 葉巻
ブツを処分する前にちょっと匂いを嗅ぐだけさと、膝に置いたままの例の葉巻が入ったアタッシュケースを開けた。
開けた途端に魅惑的な香りが鼻を突く。
最初に香りを嗅いだ時とは比べ物にならないほどの強力な好い香りが車内に充満していく。
誘惑の葉巻を手に取り、その香りを嗅ぐ。香りを嗅ぐだけだと自分に言い聞かせてるものの、魅了されたかのような葉巻の香りに没頭する。
クラッときて痺れるような心地良い感覚に俺の心は麻痺していった。俺は抗えない誘惑に導かれ、葉巻の包装フィルムを取っ払い、魅惑の香りを堪能するため剥き出しの葉巻を直接自分の鼻口に当て魅惑の香りを思い切り吸い込んだ。
まるで、虚空に意識と魂が吸取られていくようだ。
何かに導かれるように例のアタッシュケースからシガーカッターを取り出し、葉巻の先端ををカットした。そして営業車のクラウンに後付けしたシガーライターで葉巻に火を、、つけた、、
あぁ、口の中に甘い香りが広がっていく。身体が浮かんでいく。脳も蕩けていく。
理由もなく笑みが漏れる。
「ああ、俺はなんて幸せなんだ」
〚ユーフォリアの世界にようこそ〛耳の奥で女神が囁いている。
ふわふわと空中を漂う感覚にまるで身体と心が別々の生き物のようになって別の時空へと干渉していく。
そこには15~6歳位の頃の生意気盛りの俺がいた。別の時空にいる15~6歳の俺はこの異空間にいる俺の存在に気付いていないようだ。
が、そんなのはどうでもいい。いま俺は空を飛んでいるのだから。クラウンも飛んでる。
「楽しんでるか」と俺は相棒のクラウンに話しかけた。
返事はないがクラウンも嬉しそうだ。俺は嬉しそうな相棒のクラウンと共に、見知らぬ地形を漂い始める。
地上には猿の身体にリンゴのような形の頭と頭の上にでっかい口、その顔の前と後には1つずつでかい目玉をつけた美味しそうなやつらが俺を食べたそうに口を開けている。
そのリンゴ猿たちの頭上には川が浮かんでいて、その川からニュルルンて出たよ。
黒色ボディにヌメヌメした細ながーい身体をウニュウニュうねらせたでっかいヒルみたいなのが空中を泳いでくる。
ヒルは頭と顔が三角形のシュモクザメみたいだった。段々こっちに近づいてくるね。でもお腹のところに穴があるよ。その穴から赤面した茹でダコがおいでおいでしてる。
タコ刺し食いてーーと叫びながら、クラウンと共にヒルの腹の中へと吸い込まれるように入っていく。
ヒルの腹の中は万華鏡のようだった。キラキラくるくるタコも踊るしクラウンも踊る、俺も踊ってみんなで万華鏡みたいだ。
暫し不思議な万華鏡と化した俺とクラウンは徐々に壊れたヘリコプターのようにくるくるくるくると何処かに落ちていった。
意識が遠のくその瞬間、落下も回転も止まり、万華鏡地帯に突如姿を現した妖艶な美女。その美女が一糸纏わぬ姿で俺に微笑んだ。
凄艶なエロい美女の姿に俺の股間は痛いくらい勃起していく。
「おまえはだーれ?」
すると脳に直接文字が浮かぶ。
〚オピウムクイーン〛
俺は朦朧とする意識の中でオピウムクイーンへ語りかけた。
「おまえとヤリて――やらせてくれ」
オピウムクイーンは一糸纏わぬ姿で俺に近づくと、、俺の手を優しく握りしめる。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「オピウムクイーン?」
夢と幻の間で暫しの間ブラックアウトしてた俺は夢と現実の区別が曖昧だ。
ズボンは脱いでない。服も着ている。やっぱりアレは幻、、か。残念だぜ。
「フッ」と笑みが溢れる。31歳になっても相変わらず呑気な野郎だと自問自答する。
いつの間にシートを倒したのだろう?
クラウンの中で横になっていた俺は余りの暑さに堪えきれず起き上がると、
クラウンの車内から見た外の景色に驚きを隠せなかった。
「なにこれ?」
その景観に我が目を疑いたくなる。さっきまでフェリーにいたよね。。
「ここは何処だ?」
今の状況を例えるなら、トンネルを抜けたら雪国だった、そんな気分だぜ。
その、雪だけどさ、ないよね。
クラウンの車窓から見る限り外の景色は一面が森林というか林に囲まれていた。
で、俺が言いたいのはそんな所へどうやったら、
どうやってここまでクラウンが入って来れたんだ??しかも都合よくクラウンの車体周辺にだけ木が生えてないし。と思わず一人突っ込みしてしまう。
クラウンの暖房は入れたままだ。車内が猛烈に熱い。季節は1月。真冬だった筈だ、、
クソ暑い車内から逃げるようにクラウンのドアを開けると、ムッとする気候というか熱波に襲われる。
季節は夏?真夏?なんだ俺の頭がおかしいのか。俺がおかしいのか。いやそれは同じ例えじゃんとまた自分に突っ込みそうになった。
取あえずは冬服を脱ぎシャツ1枚になったところでクラウンのエンジンを切る。途端に虫の声が耳につく。
ふと空を見上げる。太陽が見える。空だ、普通の空だ。見慣れた空だ。が、雲らしき物が水色で空が白いのは何なんだ?
変じゃないか、変だろこれ。もういいや、その辺のことはほっぽっとこう。
それより林を脱出しないと。
草と周りの林を見ると木らしき物の高さは平均4m程か。
木の葉っぱが、まん丸で、色といい香りといいまるで醬油せんべいみたいだ。
葉っぱを触ってみる やっぱ醬油せんべいだろこれ。
食ってみる?自問自答する。
毒ってたらどうする?解毒方法もないし、この世かあの世かどの世に居るのかも分らないのに、
あとから毒がじわじわってのは御免被りたいと俺は食すのを止めた。
木が邪魔だな、蹴ったら折れないかな?パ木ポ木なんちゃってね。これじゃクラウン出れないし。何気に蹴ってみた。折れた、折れたぁ~って、折れるの、これで?大してリキ入れてないぜ、、台風が来たら倒壊しちゃう感じだ。
普通折れないよね、うん。腐ってたのか?横の木を今度は押してみた。折れた。俺は緑の怪人だった,,.いやいや、俺は俺だ、俺以外の何者でもねー。
すると貧弱なのか木が。そう考えれば辻褄が合う。しっかし暑い。お手上げと俺はタクシーの車内へエスケープする事にした。
エアコンをガンガンに入れた車内で一息つく。時間を見るともう昼だ。時間と言っても車内時計と腕時計の時刻なので、このおかしな世界の時刻は定かでは無い。
(東京湾フェリーに乗船したとき、20時前だったよな、確か、、)
タクシー屋の癖で毎度の買置きの2ℓのミネラル水を飲む。アタシュケ-スは2つともあった。気持ちは、多少落ち着ついたが、さてと、どうしようか、、
クラウンで木を倒し林を抜けるしか方法が無いし、、よし、やってみよう。
クラウンで木をプッシュし木々をなぎ倒していく。考えるより行動ありきだな。
あり木だけに。
暫くスローペースで木をなぎ倒しながら進むと、やっと林地帯を抜けて開けた場所に出る。
「やっと出れた。けど」空を見上げて
「しかし白い空だなぁ。一面白いや。雲青だけど。なんか眩しいね。空が白いのって」
などとと呑気なことを呟いてると芝生のような草原地帯に突入し、クラウンは道なき道を進んで行く。
この車はクラウン上位機種だけあってこんな道でも楽チンだ。さすが乗り心地は日本一に匹敵するな。
こうなるとさすがに日本だと思えなくなってくる。いや、地球なのかかさえ怪しく思える。
(もう一度葉巻を吸えば、、戻れる?それとも、、また別の世界へ飛ばされるのか?だとしたら試したくても試せね――)
それもこれも、あのエロクイーンのせいか?エロクイーンめ、今度逢ったら性交奴隷に落としてやる!
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