第三幕

憐憫の眼差し、恨みの痕跡。

第26話 決着と誇張

 丁度その頃。

小型のクルージングボートのソファで、ジュンカは横になっていた。

「ジュンカ、朝だぞ……って言えば良いのか、これ……」

今となっては聞き慣れたの声が聞こえ、急いで起き上がると数時間前に見た光景が広がる。

「ジュンカ、そろそろカンコクの港に着くらしい。だから、この船を出る支度をしよう」

ジュンカは、はい、と言って立ち上がる。

『リョウ』が言った。

「ロゼットさんとの交渉で、僕達の処罰は『チャムロ・ジュンカがこの組織ダークホースに協力する』っていうことが決まった。まあ、少し戦闘に参戦してほしいんだってさ」

彼は黒いスーツのジャケットを着る。

「ニホンを拠点とするマフィア『エターナル』を、潰す、らしい」

彼女は少し驚くが、またいつものように無表情に戻る。

「…………分かりました。アナタには貸しを作ってしまっていますし、それに……」

いえ、なんでもありません、と言って彼女はサングラスをポケットにしまう。

リョウとジュンカは、操縦室へ向う。

ロゼットは二人を見ると、スピア君ジュンカちゃんのこと起こしてくれてありがと〜と笑いながら言った。

「それにしても君たち夫婦だよねぇ〜! 同じソファで眠る仲なんでしょ? フッ、私は第三の目で見ていたのだよ……」

……波の音だけが聞こえる。

「いや、そこはどっちでもいいから突っ込んでよおぉぉ! 『何言ってるんですか、僕は別のソファアで休憩しましたよ、ロゼットさん……』みたいな眼差しやめて〜! 」

ひとしきり笑ったロゼットさんはバックから取り出したピストルをジュンカに渡す。

「慣れてないから使いづらいとは思うけど、一応ね! 」

彼女は、スピア君の拳銃は水没しないようにしてたんだよね? と確認を取る。

彼は頷き、拳銃を取り出した。

ロゼットは遠くに見える漁港を指して言う。

「あの漁港では、私が顔がくから多分問題ないと思う。まあ、一応警戒は怠らないようにね〜! 」

リョウはジュンカに向かって小声で囁く。

「まあ、あの人、怒らせなければ大概はスルーでなんとかなるから……」

ジュンカは思う。

私はこの世界から逃げ続けるしかない、と。

でもこれは、始まりでもあるのだろう。

彼女は、本当に小さな声で呟く。

「あの日の決着を、つけるために……」

「……何か言ったか? 」

と隣りにいるリョウに聞かれる。

ジュンカは、ただの独り言です、と言ってゆっくりと空を見上げた。


 一時間も立たぬ間に、三人はカンコクの港につく。ロゼットは手慣れた手付きで、数隻の漁船が並ぶ港につけた。

きしにつくと、ロゼットは疲れを感じさせぬ笑顔で漁港のいかつい男に手をふる。

「やぁ〜! 久しぶりだねぇ元気にしてた? 」

いかにもガラの悪そうな男たちは、ロゼットを案内するように歩きはじめる。

「久しぶりっす! まさか、幹部のルナールさんが船の操縦までできるなんて……感激っすよ! 」

そう話す男たちが周りに大勢居て、リョウとジュンカは顔を見合わせる。

「……どういうツテなんですかね……」

「……僕も知らないけど、まぁ偶然仲良くなたんじゃない? 」

ロゼットは薄っぺらい笑みを浮かべながらも話をしていて、こういう面評価できるとリョウは思い直した。

先を行く彼女についていく二人だが、漁師らしき男に声をかけられる。

「……二人は、ルナールさんとはどういう関係なんすか? 」

ジュンカもリョウも黙りこくっていると、ロゼットが二人の間に飛んで入ってきて大声で叫ぶ。

「二人ともどうしたんだよ〜! うちら親友じゃん! そんなしらけた顔しないでよ〜! 」

誇張した声に男たちの大笑いが響き、三人はもう一度漁港を歩きはじめる。

ロゼットだけがその男たちに別れを告げると、数分間海沿いを歩く。ちなみにその間ロゼットは鼻歌を歌っていたが、もちろんリョウとジュンカは黙っていた。

朝日が強く照りはじめる前には古いアパートにつく。ロゼットは一番右側の部屋の鍵を無造作に取り出し、鍵穴に差し込む。ドアが開くと、何も置いていないが外観よりは綺麗な部屋が見えた。

スピアは、ロゼットの方を見て呟く。

「ここで三人暮らすんですか……? 」

彼女は満面の笑みを浮かべて部屋に招き入れる。

「え、そうだけど? 」

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