第23話 失態と指示

 僕がコックピットに向かうと、彼女はおにぎりを食べているところだった。

「おはよ〜スピア君! めっちゃこの梅おにぎり美味しいよ! 食べる? 」

僕は無視する。

「それで、僕への処罰はどうなったんですか。早く教えて下さい」

彼女は、何をそんなにかすのよ〜と言いながら船を進ませる。

「チャムロ・ジュンカは、エターナルの組織員を殺しているってことは、不動の事実みたいだよね〜! 」

スピアは黙ったままだ。

「まあ、彼女の襲撃の理由は知らないけどさぁ……」

彼女は月の光のもとで笑った。

組織は、君たち二人を思う存分利用する予定だから! 君の解雇は、それからだよ! 」

「…………どういうことですか、ロゼットさん。第一、僕は……」

「君は知らないかな? ダークホース元総司令官の突然死について」


僕は二十歳の時からかれこれ七年間ダークホースこの組織に所属している。ただ、当初から総司令官はフリップでロゼットさんともその時に知り合った。

「まあ、そうだねぇ……。一言で言えば、総司令官だった彼はエターナルに目をつけられて殺されたんだよ」

彼女は冷徹な目で空を見つめる。

「彼らは、とても生かしておけないよ…………」

僕は瞬時に理解する。

「ジュンカは、エターナルの組織員を殺している。見方を変えれば、ダークホース側に利点があるとも考えられるし、エターナルという組織の混乱を作り出した張本人でもある」

彼女ははっきりと言った。

「私もフリップも、色々考えたんだよ! だから、これからはエターナルとの戦いへのが、仕事ってことでよろしく! これは、過去の清算を手伝ってほしいだけだからさ〜! 」

チャムロ・ジュンカをダークホースの一員であるかのように扱うことで、僕が彼女を助けたことも自然に見せようとしているのだろう。

そして、今回の流れに乗じてエターナルを潰す算段なのだ。

「君は、その仕事を全うしてから解雇するよ! あ、一応言っておくけど、『ジュンカを巻き込まないでください』ていうのは無しでよろしくぅ」

ロゼットはおにぎりを食べ終え、包み紙をゴミ箱に投げる。

「スピア君、改めてこれからもよろしくね〜! 」

僕は何も言わずにコックピットを出た。


 エターナル奴らにつけられた右肩の銃創を触る。

この傷があることでの大きな支障はないが、時折少しの痛みは感じる。

確かに、ジュンカを戦いに参加させるのは酷だが、僕もあの組織とは蹴りをつけたいところだ。

ここからが、彼らとの戦いの始まりだろう。



 フェリー『さくら』では、スーツを着た男が数人何かを移動させている。

それは、仲間の死体だ。

ソンリェンは、自分の先輩、後輩、同僚の死体をジュンカが数時間前までいた部屋に移動させているところだった。

数人の部下が言う。

「ソンリェンさん……あの……」

彼の顔は、疲労を隠せていなかった。

細いフレームの眼鏡越しの目は、虚ろとしている。

「全員の遺体を運び終わったんですね……分かりました、本部には僕が連絡しておきます。とりあえず、もう、いいです」

数人の警察官は沈痛な顔を浮かべながら、何も言わずに各部屋に戻る。

ソンリェンは、スイートルームに列べられた数十人の警察官を見ていた。

独り言を呟く。

「もし、ジュンカ彼女に見つかっていたら、僕は殺されていたんでしょうか……? 」

やはり、このフェリーは静まり返っていた。

が、誰かが来る足音が聞こえる。

リカルド・ビアッジだ。

「……こんばんは、Mr.リカルド」

リカルドは何も言わずに近づき、ソンリェンの首襟を掴む。

ソンリェンはその反動で壁に頭をぶつけた。

片眼鏡モノクル越しの視線が、痛い。

「どういうことですか、ソンリェン警察官。チャムロ・ジュンカはどこへ? 」

リカルドは鬼気迫る表情をして言葉を続ける。

「前にも言ったはずです、チャムロ家はただの貴族じゃない。彼女を探すのに、わたくしもチャムロ家もどれだけの労力をかけたと思っているのですか? あなたはどうするつもりで? 」

ソンリェンは生気のない目で彼を見つめる。

ただ、その目は冷たく彼を見下ろすようでもあった。

「Mr.リカルド、先に言っておきますが、恐らく僕は殺されます。この『失態』をカンコク警察が許すわけがない。仮に殺されなかったとしても、警察官という職からは必ず追放される」

ソンリェンはゆっくりと眼鏡をかけなおす。

彼の顔は、失望を表していた。

「申し訳ありませんMr.リカルド、協力関係はここで終了でしょう。今後について、カンコク警察はチャムロ・ジュンカの逮捕及びニホンへの輸送について一連の行動を全て隠滅するに違いないと思いますよ? 」

ソンリェンはゆっくりと言った。

「彼女を捕えられなかったのは、です」

彼は無言で掴まれた首襟を整え直し、この部屋を出ようとする。

リカルドは壁に手を付き、唖然としていた。

「ばかな……カンコク警察とニホン警察の繋がりはどうするのです……? 」

彼の姿を見ずに、ソンリェンは言い放つ。

「さあ、少なくとも僕は本部の指示に従うことしかできません。所詮……警察なんてそんなものですよ…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る