例え私が命を捧げても、世界は歪んでいるのだから。

第8話 確信と銃撃

 僕は、サンファ山を後にした。

殺し屋の僕が、話をするために指名手配犯キョク・ユミンの元へ向かったことが正しかったのか分からなかった。しかし、ユミンが言った最後の言葉が頭にこびりついて離れない。

「アナタはどうして、私のためにこんなところまで来たんですか……? 」

自分でも、分かっているはずだった。僕も彼女も、呑気に話をできる立場ではないということも、知っていた。

どうして彼女をここまで追っているのかと質問されたら、僕の大切な指輪を何故持っていたのか答えを聞きたかった、と言うだろう。


でも、たぶんそれは建前で、恐らく、僕が確かめたかったのは……

初めて会ったときの『既視感』だったのだと思う。

僕は確信していた。でも、認めたくはなかった。

彼女と僕には、繋がりがあったことを。


 夜も開け、人が今日という一日の活動を始めた頃。

数ヶ月帰っていなかった仮住まい僕の家の掃除をしていると、ロゼットさんから電話がかかってきた。

「スピア君、どうだった? 私が魔術を行使した結果、素晴らしい情報が手に入ったのだが……君は有効活用してくれたかい? 」

ロゼットさんの一言目にだけ答える。

「キョク・ユミンとは、会えました。まあ、情報という情報は得られませんでしたが……協力ありがとうございました」

彼女は、いやいや、君の減給分のお金がもらえてこの協力関係はまさにwinwinだね! と大声で言った。当然、僕はそれを無視する。

のり悪いなぁ〜と電話越しでも分かる残念そうな声が聞こえた。

「あ! 重要なこと思い出した! 」

とロゼットさんは急に言った。

僕は注意深く耳を傾ける。

「まず、一つ目なんだけどキョク・ユミンというのは仮名だって。極秘資料のハッキングが成功したんだけど、まぁそれはついさっきこと。警察もかなり混乱しているみたい。現時点では、名前を含むほとんどの個人情報は『情報屋』で買ったものと結論付けられているっぽいんだ」

僕は、嘘だろ……と口に出してしまう。

ついさっき会った人物は「キョク・ユミン」という名前で当たり前のように応答していたが、あれは偽名だったとは信じがたかった。が、それが真実なのだろう。


ロゼットさんは言う。

「そして、二つ目の連絡は、まあ当然といえば当然なんだけど『エターナル』もその女の行方を追っているみたい」

彼女ははぁ……とため息をつく。

僕は、そのため息の中に怒りがあることを確かに感じ取った。

カンコクこっちダークホースうちらの管轄なんだよなぁ…勝手に荒らさないでほしいねぇ……」

相変わらずなのだが、ロゼットさんはキレたら怖いタイプだ。まあ、ここはいつもどうりスルーしようと思う。

いつの間にか先程までのテンションに戻ったロゼットさんが言う。

「まあ、エターナルあいつらには気をつけてね。何かあったら、早めに連絡するように。それじゃあ、バイバ〜イ!! 」


僕は電話を切る。

それと同時に、拳銃を取り出した。

この家への帰り道の途中から、後をつけられているのは分かっていた。最初は二人だったので、途中で撒けるだろうと思っていたのだが……

今、この隠れ家の外を恐らく十人以上の奴が取り囲んでいる。

彼らの正体は、警察ではない。警察よりも能力が高くて、かつ最近のマフィアだ。

 「おいおい、ダークホースの管轄この国でお前らは銃撃なんてやるんじゃないぞ。『エターナル』の皆さん」

その瞬間、家のドアが破壊される。

僕は銃口を向けた。

まず目の前の二人を射殺した後、その死体を投げて後ろにいる数名に当てる。倒れ込んだところで催眠ガスを投げ込んだ。窓を割って侵入してきた数人にナイフを投げる。が、一人命中しなかったようだ。

銃弾が僕の方へ飛んでくる。

ギリギリのところで銃弾をかわし、窓ガラスの破片で男の首を狙った。

その男は倒れる。しかし、まだまだ人数が減らない。

手榴弾を数発投げると、窓からの侵入者はいなくなった。扉からの侵入者は拳銃で撃つ。

その時、先程僕が殺した奴の死体を壁に何かを投げられる。

……煙幕だ。

一瞬の動揺があり、気づくと背後には拳銃を構えた女がいた。

「バーン」と、音が響いた。

女は、僕の心臓に命中させた……

気だったのかもしれないが、なんとか急所には当たらなかった。右肩から流れ出る血はさておき、左手で拳銃を構えてすぐに女に発砲する。

女が倒れるのを見届ける前に、血に濡れたフロアを踏みながらドアへ向かった。

恐らく先程煙幕を投げたであろう人物は、ドアの隙間に隠れていた。


男を蹴り、わざと腹に銃弾を飛ばす。

うめき声が聞こえるのを気にせずに、僕は質問した。

「おい、一応確認するがお前らは『エターナル』所属のマフィアってことでいいんだよな?」

うめき声をあげているが、僕の質問に応答する気配はない。もう一度、足に発砲する。

「おいおい、答えないのか……まあ、生かす理由もないな」

瞬時にナイフを首元に刺すと、うめき声は聞こえなくなった。

僕は、右肩を押さえながら殺した人数を確認する。十五人ほどだった。

独り言を呟く。


「はあ、また仮住まい僕の家を探さないといけないのかよ……」

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