第4話 確執と勢力
のどかなニホン庭園が、時間の流れを遅く感じさせた。彼女は返り血を浴びた拳銃を持ち、住居の中にまっすぐ進んでいく。
「あなたは……あの事件について忘れましたか? 彼らに武器を渡したのは、あなた達なのですか? 」
重役らしき人物が慌てて言う。
「し、知らない! 何も!第一、そんな小さな事件について覚えているわけがないだろっ! こっちは他にも案件が山ほどあるんだ! 」
もう3箇所以上も傷を負い、口から血を吐きながらもその男は懸命に訴える。
彼女の唇が微かに震える。
「あなたは……今『小さい事件』と言いましたか……? 」
気が動転しているのだろうか、男の額からは汗がにじみ出ている。
「な、何が悪いんだ! そんな……」
乾いた音が響き、男は倒れた。
死体に向かって
「ここにいる奴は何も知らない、か……」
彼女が出口に向かって歩く音を除くと、屋敷は静まり返っていた。
僕はバスルームを出て、洗濯機の中から取り出し、黒いシャツを着る。拳銃の残りの段数を再度確認したあと、早々にホテルを出る。
ダークホースの本部に向かうためだ。
本部についてだが、少し意外なことに拠点があるわけではなく、ロゼットさんを含む数人の幹部が
このほうが、拠点を警察にも特定されづらいわけだ。
電車に数十分乗り、今の本部へ向かう。
毎日本部に行くわけではないが、昨日襲撃されそうになった、というのは事実ということで一応本部に顔を出すことにした。
少し高そうなビルに入ろうとすると、受付で担当の係が顔と指紋をチェックし、最上階へと行かされる。
いつもの本部よりも少しうるさいように聞こえるのは、コフィエフ37が特殊警察と分かったからだろうと、僕は思っていた。
しかし、僕の想像を遥かに裏切る情報が知らされる。
ロゼットさんがいる事務室に入ると、他にも数人がロゼットさんのパソコンを覗き込んでいた。
「何してるんですか……」
と僕は呆れ気味に声を出す。
しかし、ロゼットさんの反応はいつもと違った。
「スピア君、今、そんなこと言ってる場合じゃないんだけど! これは大変なことになったなぁ……って、君もちょっとこれ見てよ! 」
パソコンに近づき画面を見ると、そこには衝撃的な内容が記載されていた。
警察内部の情報をハッキングしたものだろうか、そこには少し荒い解像度の写真と、淡々とした文字のみが記載されていた。
現在捜査対象:キョク・ユミン(23)元警察庁捜査局特殊事件捜査係
国内にて所在を確認 ※現地警察から確認済み
独立行政法人「エターナル」ソウル支部にて、銃撃の痕跡を確認。
(敷地内の人物は全員死亡)
防犯カメラの解析映像により、ユミンの犯行の可能性が極めて高い。
「は……? 」
昨日の夜、僕はこのサングラスをかけた女と会っている。時間は零時を回っていたはずだ。今は丁度14時を過ぎた頃。その間に国内を移動して、ソウルへ向かうことは不可能ではない。
だが……。
「ロゼットさん、やはりあの女ただの警察官じゃないみたいですね。彼女は、かなりの強さを誇るマフィア『エターナル』の重役数人を恐らく一人で殺害できる能力があるみたいです」
ロゼットさんは大きいため息をつく。
「今のところだけど、この情報の信憑性は高いよ。今、近辺に滞在している仲間数人に連絡を取ったけれど、エリアはかなりの混乱具合らしい。はあぁ……エターナルとはこちらも確執があるからなあ……こりゃあ、君も怪しい人と関わっちゃったみたいだね」
僕は、この女についてもっと調べる必要がある気がした。
「ロゼットさん、できる限りでいいので、もっと情報を集めてください。恐らく、もう一度僕は彼女に合わなきゃいけないので……」
先程までパソコンを取り囲んでいた一人、遠距離狙撃担当のオスカー・リィンが不思議そうに言った。
「ちょ……スピアさん、どうしたんです? まさか愛人? はたまた、運命の相手? もしかして身内だったり…」
「いや、違うんだけど」
と僕は全面否定する。
ただ、僕は彼女に会ってもう一度「あの指輪」について聞かなくちゃいけない、そんな気がする。
「はいはい、君に言われなくても彼女のことは徹底的に調べ上げるつもりだからね。じゃ、今は解散〜! 」
その一声で、僕を含めた殺し屋たちは自分の席へと戻っていった。
彼女はいつものように笑っていたが、すぐに真剣な表情になる。
「エターナルの主な支配範囲は、ニホンのはず……。
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