第2話 ザコとプロ
「まさか、あの女……」
僕は、一人その場に立ち尽くす。しかし、ずっとこうしているわけにもいかない。
「こちらシーランです。まだ、ユミンからの連絡はありません」
無線越しの上司の声が聞こえる。
「おい! まだユミンはスピアを捕らえていないのか! 」
彼の顔が強張る。
「申し訳ありません! 今から30秒後、ユミンからの連絡が来なかった場合、シーランが様子を直接確認します」
シーランは願っていた。
殺し屋と接触しているユミンが、無事にその男を拘束していることを……
その時、シーランが持っていた発信機が吹き飛んだ。
正確に言うならば、彼の手を銃弾が貫き、その反動で発信機が飛んでしまったのだが。
シーランは苦痛にうめきながら後ろを振り返る。そこには、見慣れた顔があった。今回の捕獲対象だ。
「お、お前っ……! 」
冷酷な顔をした彼は、無慈悲にも拳銃を構える。
「コフィエフ37、一体お前はこんなところで何をしているんだ? 」
シーランはその一言で、自分自身が犯罪組織ナイトホースに潜入していたことを思い出す。
「いや、お前の名前はシーランだったな」
シーランの顔が困惑で歪む。俺の本名を知っているわけがないのに……
彼はシーランの表情を
「お前に一つ質問がある。キョク・ユミンと言う名の、若い女はお前の同僚か? 」
シーランはユミンが殺されたのだと思った。
「なっ……! お前、まさかユミンを殺し…」
サイレンサーのついた拳銃から、鋭い弾が飛ぶ。
シーランは、心臓のあたりから血を流しながらその場に倒れた。
「ザコは反撃さえしない、か……こっちは一応、プロなんだよな」
彼は、他の警察官が近くにもいると考え警戒しつつ走り出す。
当然、警察内部は混乱していた。
「おい!何故シーランとの回線が切れたんだっ! 」
「まだユミンからの連絡は来ないのですが……」
「まさか、殺されたんじゃ……」
「そんなわけがない!ユミンの身体能力を使うために、今回この担当に選出されたんだろ! 」
「静粛に……」
その声で、喧騒の中にあった警察本部が静まり返る。
「マデリー本部長、ですが……」
「落ち着け。とにかく、ユミンの生死はさておき殺し屋スピアの確保が最優先だ。現場にいるものは、必ずスピアを捕らえなさい! 」
無線越しに、数え切れないほどの警察官が応答する。
スピアは、廃墟を経由して逃走しようと思い、建物内部から聞こえる音に耳を傾ける。一気に扉を壊すと、瞬時に警察官が数十人銃口を向ける。
彼は華麗にも弾を避け、一人ずつ確実に殺していく。残された者たちの顔はだんだんと恐怖に満ちていった。
「あ、あいつがこれまでに何千人もの犠牲者を出した殺し屋、なの、か……! 」
背後にはもう、彼がいた。
息を整えながら、僕は進む。
キイ……と扉は不気味な音を立てる。ここは、もう使われなくなったカラオケだったらしく遠くに古びたカウンターが見えた。
僕は、斜め上へと2発発砲する。天井に隠れていた警察官の血が滴るのを素通りして、カウンターの壁を背に座る。
弱い奴ばかりで幸いだったが、人数が多かったのが厄介だった。おかげで、下手に撃つと銃弾が足りなくなりそうだ。
スマートフォンを起動し、4つの違うパスワードを入力しブロック解除をしたあと、とある人物に電話をかけた。
電話に出た彼女は、いかにも深夜テンションのような声で言う。
「は〜い、こんにちは! ダークホースのロゼットで〜す! いやぁスピア君から連絡するなんてびっくりだねぇ……。元気にしてた? 」
陽気な人間が突如出現したが、これでも一応彼女は僕の上司であり、所属組織ダークホースの幹部でもあるのだ。ちなみにいつもこの調子なので、彼女が特段睡眠不足というわけではない。
「ロゼットさん……。いい加減毎日ハイテンションはやめてもらえません……? 」
「え〜そんなこと言わないでよ! で、今回の要件は? 」
僕は、今の状況を頭の中で整理する。
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