アラフォーJDの研修をする。

週が明けた月曜日。

いつものように仕事場に向かった俺は、高橋さんの制服など諸々の準備をしていた。


今日のような初日は大事だ。

初日からキツかったり、面倒なことが起きてしまうとバイトだからとすぐに辞めてしまう人は多い。


それは年齢問わずだ。

歳を重ねているからと言って、我慢して辞めずに頑張るというのは現代ではそれほど無い。少なくとも俺の見聞きした中には少数派だった。


というわけで、今日の高橋さんの研修は細心の注意を払いたいと思う。


先ずはお客さんの少ない時間帯から入ってもらい、そこから少しずつ教えて覚えて貰う。


慣れて来たら接客をという感じだな。


それが当たり前と思う人もいるだろうが、案外そうやって優しくゆっくりと研修を重ねるところは無かったりもする。


所謂ブラックバイトとかは、いきなり実践をさせて、少しでも間違えたら怒られたりするもんだ。まぁ俺の悪友から聞いた話なんだが。


それはともかく、折角バイトを頑張ってくれそうな子が入ったんだ。優しくするのも当然の事。


昼のピークが終わり暫く経った。


カランカラーン。


店のドアベルが鳴り、そちらを向くと高橋さんがおずおずと入って来た。


「こんにちはー」


「高橋さんこんにちは!じゃあ先に事務所で待ってて」


「わかりました」


そう言って事務所へ向かう高橋さんを見送り、俺は仕事に戻る。


お客さんのいなくなった席を綺麗に片付け、俺はバイトの子に声をかけて事務所へと行く事にした。


「お待たせ」


事務所に入り、面接の時と同じ場所で座っている高橋さんに声をかける。すると俺に気づいた高橋さんは慌てて、立ち上がる。


「あ、お疲れ様です!」


ぺこりと頭を下げる彼女を見ながら、真面目だなぁとクスリと笑う。


そんな俺を見て目をパチクリとさせた高橋さん。


また変なふうに思われちゃったかな?


そんな事を思いながら彼女の制服を用意する。


「いくつかサイズがあるから、自分にあったやつをそこの更衣室で着てみてよ。キッチンにいるから着替えたら声かけてね」


そう言って俺は一度事務所を出る。事務所の中に男子更衣室と女子更衣室へと続く扉があるため、わざわざ出て行くことはないのだが、安心をさせるためにも出て行くのがベターだ。

彼女が着替えている間は、在庫の確認でもすることにした。


しばらくすると高橋さんがキッチンへとやって来た。


「あの・・。着替え終わりました」


そう言った彼女をみて、少し動揺してしまった。


なんと言うかめっちゃ似合ってる。可愛い。語彙力無くなる。


そんな心の中の想いを微塵も出さないように、にこやかに彼女に話しかける。


「サイズは大丈夫そうだね。それじゃ先ずはタイムカードの場所を教えるね」


「はい!」


良い返事を聞きながら彼女と共に移動し始めた。


タイムカードや、倉庫の場所を教えて、キッチンへと戻りメニューなどの説明をする。


一通り教え終わる頃には17:00を過ぎそろそろお客さんも多くなって来た頃だった。


「それじゃあさっき練習したみたいにお客さんに対応してみようか。ある程度やったら今日はあがりってことで」


「わ、わかりました!頑張ります!」


そう言って高橋さんがお冷を持ってお客さんに近づいていく。


その姿を見守ること数分。高橋さんが注文を取り終えたのか戻って来た。


「カツ丼梅1入りまーす」


「喜んでー」


キッチンからの返事を聞き、ほっと一息吐く高橋さんに声をかける。


「どうだった?」


「あ、宮崎さん。えっと少し緊張したんですけど、大丈夫だと思います」


「そかそか」


俺は満足気に笑いながら頷く。


「これから1時間くらいホールで働いて貰うね。それが終わったらあがりだから」


「はい!・・でも今からお客さん多くなる時間なんじゃ?」


「ん?心配しなくても大丈夫だよ。今日は18:00からのシフトの子達が入ってるし、人数も足りてるからさ」


「そうなんですね。・・あ、お客さん呼んでるので注文とりに行って来ます」


すみませーん。というお客さんの声に気づいた彼女はにこやかに注文を取りに行った。


可愛いな・・。俺も青春時代に戻れたら、高橋さんみたいな子とバイトしたいけどなぁ。一緒に働いて親しくなって、あわよくば付き合えたりしたら最高なんだろうな。


まぁ俺みたいなアラフォーには時既に遅しって感じなんだけど。


そんな事を考えながら仕事に戻った。


1時間経ち、高橋さんに上がるように伝える。


着替えて来た彼女に明日以降のシフトを決めて、今度からは1週間前にシフトを出して貰うよう説明をした。


「今日はお疲れ様。また木曜日によろしくね。しばらくは研修だから短時間になるけど、慣れて来たら少し長めに入ってもらっても良いかな?」


「はい、大丈夫です。あと、今日は教えていただいてありがとうございました!」


そう言って頭を下げる彼女を見て慌てて声をかける。


「いやいや。これも仕事だし、そこまで畏まらなくても良いよ。これからもよろしくね」


「はい!よろしくお願いします!」


顔を上げた彼女の満面の笑みを見た瞬間。胸に電気が走った。


なんだこれ?今ドクンッって・・。


胸を抑える俺を見て、高橋さんは不思議そうにこちらを見ている。


ヤバッ!めっちゃ見られてる!ちょ、そんなにこっちを見ないでくれ!なんか恥ずかしくなって来た。


「あははは。なんかお礼言われてちょっと照れちゃったよ。それじゃあお客さんも多いし、俺は仕事に戻るね。タイムカード忘れずに押しておいてね」


俺は逃げるようにその場を離脱した。

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