第十一話 あなたは本物?それとも

 不意を突かれて町民からの攻撃を受けそうになったが、ルナさんが魔法で攻撃してくれたお陰でどうにか回避することができた。


「テオ君大丈夫?」


「ルナさんのバカ、どうして罪のない町民に火球魔法なんて使うんだよ」


 ルナさんが駆け寄ってくる中、俺は彼女に文句を言うと、火だるまになっている男を見る。


 直ぐに助けないと。


「ウォーター」


 空気中にある水分子を集め、水を生成すると、男にかける。


「ルナさん、どうして炎の魔法なんてものを使ったんだ」


「ごめんなさい。テオ君が危ないと思って、咄嗟に得意なファイヤーボールを使ってしまったわ」


 頭を下げてルナさんは謝る。


 反省しているようだし、これ以上は叱るべきではないよな。


 とにかく、仲間の不祥事は俺が責任を取るか。


「ネイチャーヒーリング」


 炎魔法で火傷を負っていた男に回復魔法を唱える。すると男の肉体が新たな皮膚を作り出し、火傷を直していく。


 これでよし、後は眠らせておくか。


「スリープ」


 睡眠魔法を唱え、男の脳内に睡眠物質を増やして強制的に眠らせる。回復魔法の効果もあってか、男は苦しんだ表情から穏やかな顔つきとなり、寝息を立て始める。


 この男は俺が兄貴の仇だと言っていた。でも、俺はマネットライムから記憶と遺伝子情報を奪われてはいない。


 つまり、何者かに化けたモンスターが、この男に嘘を言いふらかして俺に襲わせるようにしたのだろう。


「とりあえずはこれで良いか。それで、どうしてルナさんはこんなところにいるんだ? メリュジーナと一緒にいるように言っていただろう」


「あ、うん。彼女と一緒に、あの男たちを見張っていたよ。でも、全部メリュジーナに押し付けて私だけ来ちゃった」


「どうして……そんな……こと……を」


 勝手な行動をしたことに対して訊ねようとしたその瞬間、俺の体はルナさんに抱き締められる。


 咄嗟のことで、思わず言葉が途切れ途切れになってしまう。


「ごめんなさい。私、テオ君と一緒にいたくて、メリュジーナの隙を突いてこっそりと来ちゃった」


 恥ずかしいのだろうか。俺の胸に顔を埋めながら、ルナさんは勝手な行動をした理由を語る。


 こんな時にまでメリュジーナを出し抜こうとするなんて。本当に最近の2人の関係は妙だな。


「とにかく、離れてくれないか。マネットライムを倒さないと」


 俺たちはここで油を売っている訳にはいかない。早くマネットライムを倒さなければ。


「あ、そうだったね」


 マネットライムを探しつつ、メリュジーナと合流しようとする。しかし、待機しておくように言っていた場所には彼女の姿はなかった。


 喧嘩していた2人の男は気を失っているようで、道端に倒れている。


 もしかしたら、ルナさんがいないことに気付いて探しに向かったのかもしれないな。


 どこかですれ違いが起きてしまったのかもしれない。そう思って港町中を探し回るも、メリュジーナの姿が見当たらなかった。


「テオ君、これを見て」


 メリュジーナを探していると、ルナさんが一枚の手紙を見せる。


「そこに落ちていたのだけど」


 ルナさんが指を差した場所に視線を向ける。


 あれ? その場所は一応見ていたのだけど、見落としていたのか? まぁ、良いや。取り敢えずはこの紙を見よう。


 手渡された封筒を開けて中にある紙を見ると、そこには俺へのメッセージが書かれてあった。


『女たちは預かった。返して欲しければ、1人で森の中にある祠へ来い』


 メッセージを読み、歯を食い縛る。


「メリュジーナを助けに行こうよ! テオ君が強いことは知っている。でも、私も彼女を助けに行きたい」


 ジッと俺の顔を見つめながら、ルナさんは自分の意思を示す。


「分かった。一緒に行こう」


 敵に囚われたメリュジーナを助けるために、俺たちは森の中へと向かう。


「祠の場所は分からないが、探査魔法で探れば大体の場所は分かるはずだ。エコーロケーション!」


 祠の場所は分からなかったので、探査魔法を使って祠の反応を探す。


 超音波を放って跳ね返って来る音を頼りに、祠の場所を探すと、それらしき建造物を発見する。


 中に入ると、薄い水色の髪の女の子が、鎖で肢体を拘束されている光景が視界に入った。


「メリュジーナ!」


「マ…スター?」


 どうやら目を覚ましたらしく、彼女は弱々しい声で言葉を漏らす。


「大丈夫だ。今助けて上げるからな」


「あ…りが……ご主人様マスター逃げて!」


 メリュジーナが声を上げた瞬間、背中に何かが当たったのを感じ、後方を見る。ルナさんの体の一部がジェル状になっており、俺を突き刺していた。

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