第四話 消えたメリュジーナと就寝時に這い寄る者

 ルナさんに何かしらの魔法や呪いがかけられていないかを調べるために、俺は彼女に透視魔法をかけた。


 しかし、これまでの精神的疲弊により、魔法は中途半端な形で成功してしまう。


 視界には一糸纏わぬルナさんの裸体が映り出された。


 ルナさんの衣服だけが透けて見えている!


 心の中で叫び、視線を彼女から逸らす。


ご主人様マスター、透視魔法を使ったみたいだけど、ルナのことで何か分かったの?」


「いや、悪い。失敗したからもう一度やってみる。パースペクティブ!」


 もう一度魔法を発動し、使用者の俺だけが光の反射の影響を受けることなく透視することができるようにする。


 今度はルナさんの筋肉や骨格などが見えるようになったが、どこにも異常らしきものは見当たらない。


 これでルナさんは、魔法の影響を受けていないことが証明された。


 そうなって来ると、あれは彼女の意思による行動と言うことになってくる。


 でも、どうしてルナさんは自分の意志であんなことをしてしまったんだ?


 彼女の行動理由の手がかりになりそうなものがないか、これまでの出来事を思い出してみる。


 すると、昨日脱衣所で聞いたルナさんの言葉を思い出す。


『こうなってしまった以上、手段を選んでいる訳にはいかないよね』


『お父様に見つかった以上、私に残された時間は少ない』


 もしかして、ルナさんは父親に婚約を諦めさせるために、俺を虜にしようとしているのか。確かに俺なら、相手がどんなに強敵でも最終的には倒す。俺がルナさんを好きになり、結ばれるために抵抗すれば、父親は諦めるしかない。


 確かにこれなら、今までの行動も納得がいく。


 裸だった俺にローブを恵み、衣服まで買って貰い、更に魔力鑑定のアイテムを壊したのにも関わらず、怒らなかったことにも辻褄が合う。


 俺と出会ったときから、ルナさんの計画は始まっていたのだ。


 そう、婚約破棄をするための道具として利用するために、俺に気に入られようとしていたのだ。


 でも、ルナさんはそれで良かったのか。いくら予言に出てくる救世主とは言え、自分の自由のために俺を好きにさせるのっておかしくないか。なんだか矛盾しているような気がする。


 もし、俺が本気になったら、その後はどうするつもりだったんだ。俺から逃げられないと言うのは、彼女も充分に理解しているはず。


 本気でルナさんを好きになって、彼女の望む婚約破棄が成功したとしても、その先の未来には自由な恋愛というものは存在しない。


 ルナさん、君はちゃんと未来のことを考えて行動しているのか。


「悪い、ちょっとその辺を散歩してくるよ」


 彼女たちに出掛けることを伝え、部屋を出ると歩きながら考える。


 ルナさんがやろうとしていることは、最終的にはバッドエンドだ。目の前の問題を解決できたとしても、その後の未来は明るいものではない。


 だって、好きでもない相手だから婚約破棄をしたいはずなのに、その結果好きでもない男と一緒に生涯を過ごすことになるなんて本末転倒じゃないか。


 ルナさんは大切な仲間だ。だからこそ、彼女には笑顔で明るい生活を送って貰いたい。


 俺がしっかりとして、バッドエンドではなくグッドエンドに導かなければな。


 歩いていると、ルナさんが言っていたもうひとつの言葉を思い出す。


『数日中に攻略して、それでも無理なときはアレを使うしかないわ』


 アレと言うのがなんなのか分からないが、今の内に対抗策を考えるとするか。


 色々なパターンを想像し、複数の対抗策を見出すと宿屋に帰る。


「あ、テオ君おかえりなさい」


ご主人様マスターおかえり」


「ただいま」


 散歩から帰ってくると、2人が声をかけてきた。今度はいきなり抱きつくようなことはしてこなかったので、ホッと一安心だ。


「メリュジーナ、ちょっと良いか?」


「何? ご主人様マスター?」


 メリュジーナを呼ぶと、彼女の耳元に顔を近付ける。そしてルナさんに聞こえないように小声で話す。


「分かった。もし、ルナを監視して何かがあったら、そのようにするよ」


「頼んだ。本当はルナさんがそんなことはしないと思いたいけど、人間追い詰められると、何をするのか分からないからな」


「追い詰められたネズミは猫を噛むだね」


「ああ、頼んだ」






「あれ? メリュジーナは?」


 ルナさんが部屋にメリュジーナがいないことを言うと、俺も彼女がいないことに気付く。


 もしかして、早速作戦に出たのか? 思っていたのよりも早かったな。なら、こっちも動くとするか。


「ああ、メリュジーナには隣町の様子を見て来てもらっているんだ。ゲルマンたちが宿屋の女将さんのお孫さんを家に帰しているのかをね」


「あ、そうだったんだね。そう言えば、色々とあってそのことを忘れていたよ」


「徒歩で向かっているから、今日は帰って来ないんじゃないかな?」


「なら、今日はテオ君と2人きりだね。それじゃあ、私は夕飯の支度をしようかな。メリュジーナがいないから、アレを使っちゃおう」


 鼻歌を口遊くちずさみながら、ルナさんはキッチンへと向かって行く。


 それから1時間ほどが経ち、夕飯ができるとルナさんと一緒に夕食を食べる。


 夕食はとても美味しく、味などには可笑しな点はなかった。


 夕食を食べ終えて就寝することになり、ベッドに入ると両の瞼を閉じる。


 特に何事も起きなかったな。俺の考えすぎだったのだろうか。でも、それならどうしてメリュジーナは姿を消した?


 そんなことを考えていると、意識を失っていく。






 それからどれくらい時間が経ったのだろうか。物音が聞こえて目を覚ますと、ぼやけた視界に人の姿が映る。


「あら? 起きちゃった。まぁ、いずれ目を覚ますと思っていたから良いかな」


 視界がぼやけて輪郭がはっきりとしない。布面積が少ないから、もしかして下着姿なのか。


 そしてこの声。俺の上に乗っているのってもしかして……。

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