第三話 お姫様が笑わなくなった原因
「次の者、さっさとやるべきことをやって出て行くが良い」
お姫様を笑わせるための順番が訪れ、俺たちは玉座の間に入る。
これまでたくさんの者が挑み、みんなお姫様を笑わせることができなかったからだろう。王様の顔は疲れ切っている様子だった。
お姫様の周囲には護衛の兵士が数人付いており、厳戒態勢となっている。
結構厳重な警備をしているな。お姫様を笑わせるだけなのに、あそこまでするってことは、もしかしたら笑わせることができなかった人が暴れたのかもしれないな。
「初めまして王様。お……私の名はテオと申します。お姫様を笑わせる前にいくつか訊ねたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「貴様、王様に向かって軽く口を開くな! 無礼であるぞ!」
お姫様の近くにいる兵士の1人が声を上げた。すると王様は軽く右手を上げる。それが何かの合図だったのか、注意を促した兵士はそのまま口を閉ざした。
「良い。テオと言ったな。どうやらそなたは他の挑戦者とは違うようだ」
「それはそうよ。テオ君は世界の救世主なんだから」
王様の前だからか、ルナさんが小声でポツリと言葉を漏らす。
「それで、何が聞きたい?」
「まず聞きたいのは、お姫様は最初に医者に見せてもらっているかと思いますが、医者はなんと言っていましたか?」
「原因は分からないと言っておった。病気ではないことだけは分かっている」
「ありがとうございます。続いてお姫様の最近起きた出来事で、何か変わった様子はなかったでしょうか? 何か対人関係で問題を抱えているとか? 例えば王様が他の国の王子と、娘を婚約させようとしているとか?」
「え?」
王様に質問をすると、なぜかルナさんが反応した。しかし彼女は直ぐに口を閉ざすと、お姫様の方を見る。
「いや、そのようなことはないな。姫も成人してはいるが、まだ婚約の話しの予定すらない。それに対人関係も特にはなかったはず。姫は笑わなくなってからは気持ちは沈んでおるようだが、会話などは普通にするからな」
「そうでしたか。見当違いなことを言って申し訳ありません」
王様の言葉を聞き、思案する。
と言うことは、食堂で俺が最初に浮かんでいた精神的ストレスによる感情の気薄ではないな。人が笑わなくなる原因としては、抑圧された環境や過去のトラウマなどが原因で笑わなくなるものだが、心理的ものではなさそうだ。
ユニークスキル【前世の記憶】でなぜか俺だけは知っているのだが、この世界では鬱病などの精神的病は病としての扱いをされていない。
お姫様が精神的病により笑わなくなった訳ではないとすると、考えられるのはもうひとつの方だな。
まぁ、こっちの方がファンタジー世界ではしっくりするか。
「王様、試したいことがあるので、お姫様に魔法を発動させても良いでしょうか?」
王様に訊ねた瞬間、お姫様の周辺にいた兵士が彼女の前に出ると、両手を広げて壁役となる。
彼らからしたら当然か。あれが仕事なのだから。
「魔法だと?」
「ええ、別に攻撃系の魔法を使う訳ではありません。お姫様が笑わなくなった原因の正体を特定する魔法です」
「王様! この者の言うことを信じてはなりません! またあの貴族たちのようなことになるかもしれません!」
先ほど声を上げた兵士が、王様に聞く耳を持たないように忠告する。
「いや、この者の言うことを信じよう。私には嘘を言っているようには見えない。お前たち、姫から離れてこの者を通すのだ」
姫から離れるように王様が命令を下すと、兵士たちはその場から離れる。
そして王様に進言した兵士もお姫様から離れるが、一度俺を睨み付けてから遠ざかっていく。
俺、あの人から嫌われるようなことしたか? 普通に王様の御触れを実行しているだけなんだけどな。
まぁ、今はそんなことよりもこっちの方が先だ。お姫様を魔の手から解放してあげなければな。
お姫様に近付くと、彼女をジッと見る。
眉ひとつ動かさないなんて人形のようだ。今、その原因を取り除くからな。
「パースペクティブ!」
透視魔法を発動し、お姫様の体内を俺だけ透けて見えるようにする。
胸の中心にある魔力を溜まめる部分に1本の線のようなものが見えるな。普通の人間にはそのようなものはない。
この線を辿って行けば。
顔を上げて天井を見上げる。
「そこか! アイシクル!」
氷の魔法を発動し、空気中の水分を集めて水にすると、三角錐を形成する。そしてその水に対して気温を下げて、氷へと変化させると氷柱を解き放つ。
『グギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!』
氷柱が命中したようで、天井からモンスターの悲鳴が響く。
悲鳴が消えると、天井から1体のモンスターが落下してきた。
体型は人型であり、黒子のような格好をしている。そして両手には人形を嵌めていた。
「モンスターだと! 王様と姫様を守れ!」
1人の兵士が声を上げると、王族の2人を守るために前に出た。
心臓を貫いていなかったようで、モンスターは血液を流しながらゆっくりと立ち上がる。
『ど、どうして俺たちが隠れていることが分かった? 俺の気配遮断は完璧のはずだったのに』
『兄ちゃん、こんなことあり得ないよ』
兄弟と言う設定なのか、モンスターは手に嵌めている人形の口を動かしながら、口調や声を変えながら1人芝居を始めた。
「お前がお姫様を操っていたモンスターで間違いないな」
『いかにも、俺たちがこの国のお姫様を操っていた。俺の名はパーペ』
『そして僕がマーペだよ。よろしく』
両手に嵌めている人形はペコリと頭を下げる。
このモンスター、ふざけているのか。本気なのかいまいち分からないな。
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