第四話 パペットモンスター

 お姫様を笑わせないようにしているモンスターの居場所を見破り、引き摺り出すことに成功した。


 しかし黒子姿で両手に子どもの人形を嵌めているモンスターは、ダメージを受けたのにも関わらず、平然と自己紹介を始めたので、俺は唖然としてしまった。


 なんだこのモンスターは、また個性が強そうなやつだな。


「お前は何が目的で、お姫様の感情を封じ込めていた」


 モンスターに問うと、やつの両手の人形が腕を組み、顔を俯かせる。


『それは言えないな』


『だってお姫様を操っていたのはほんのお遊びだったもん。本番はこれからなんだから』


 両手に嵌めてあるパペット人形の、上唇から上が少しずれる。


 人間でいうところの口角を上げていることを表現しているのだろうか。


 お姫様を操っていたのがお遊び? 本番はここから? いったいこいつは何を考えているんだ?


 モンスターの真の狙いがなんなのかは、分からない。だが、ここで倒しておく必要がありそうだ。


「そうか。なら、お前を倒すだけだ。パペットマンモンスター!」


『俺たちの名前はパペットマンモンスターじゃない!』


『僕たちの名前はパペットマンモンスターじゃないよ!』


 敵の名前がわからないので、とりあえず見た目の名前を叫ぶ。するとなぜかモンスターは、名前を否定してきた。


『兄ちゃん、さっき自己紹介をしたのに、もう忘れられているよ』


『そうだな。では、俺たちの名前を覚えてもらえるように、歌いながら自己紹介をしよう』


『うん! そうだね! せーの!』


 突然1人で小芝居を始めると、モンスターは両手に嵌めている子どもの人形を動かす。


『俺の名前はパーぺ♪』


『僕の名前はマーぺ♪』


『『2人合わせてパペットーズ♪ 小さな野望から大きな野望まで♪ 実現してみ~せる~♪』』


 両方の人形の口が開き、自己紹介を再び聞かされる。


 不思議なもので、今の歌を聞くと何だか名前を覚えれそうな気がした。


 もうこうなったら、人形の名前でいいや。とにかく俺がやることは、目の前にいるモンスターを倒すこと。


「一発で終わらせる! ショック!」


 無敵貫通魔法である失神魔法を発動する。迷走神経を活性化させて心臓に戻る血液の量を減らした。


『お前、何かしたか?』


『あれ? 魔法を発動したみたいだけど、何も起きないよ?』


 パーぺとマーぺの言葉に衝撃が走る。


 そんなバカな! 無敵貫通魔法が通用しないだと!


 モンスターハウスで戦った魔王軍幹部のピサロでさえ、苦しんで顔を歪めるほどなのに!


 こいつはあのピサロ以上のモンスターなのか?


 とにかく、他の方法を試すしかない。


「ファイヤーボール!」


 火球を生み出し、黒子に放つ。


『『危ない!』』


 火の玉が迫り来ると、モンスターは後方に跳躍して躱す。


 炎を避けた。と言うことは、炎が弱点なのか。


『兄ちゃんどうする? 相手炎系の魔法を使うよ』


『大丈夫だ。あんなもの、当たらなければ意味がない』


 黒子は両手に嵌めている人形に会話させ、相談し合っている様子を見せてきた。


 ファイヤーボールを避けはするが、戦闘中にも関わらずに人形遊びをするとは、相当余裕があるようだな。


 なら、その余裕を無くしてやる。


「シャクルアイス!」


 氷の拘束魔法を唱える。すると黒子の顔面周辺の空気中の水分が集まり、水になると顔面を覆う。そして水の気温が下がり、氷に変化すると、モンスターの口は塞がれる。


 これなら発音することができない。さすがに慌てるだろう。


「隙ができた今がチャンス! シャクルアイス!」


 再び氷の拘束魔法を唱えると、今度は黒子の足首を凍らせる。


 顔面と両足を氷で覆われ、慌てたモンスターは両手を動かす。やつの手に嵌っていた子どもの人形は吹き飛ばされ、床に落ちた。


 あいつの手、まるで死人の手のように青白いな。なるほど、アンデット系の魔物だったのか。だから失神魔法のショックが効果を発揮しなかったし、炎系の魔法を避けた。


 だけど、身動きが取れない今なら避けることすら不可能だ。


「食らえ! ファイヤーボール!」


 火球を生み出し、黒子に向けて放つ。


 飛ばされた火球はモンスターに直撃すると、肉体を燃やし尽くす。


 どうにか敵を倒すことに成功した。これでお姫様は呪縛から解放されたはずだ。


「メリュジーナ、悪いけどお姫様を笑わせてくれないか?」


「分かった」


 メリュジーナがお姫様に近付くと、脇に手を入れて指を動かす。


「あはは。くすぐったいですわ! や、やめてくださいませ!」


「なんと! 姫様が笑った!」


 まさかくすぐりをするとは思わなかったが、お姫様は笑ってくれた。これで龍玉をもらうことができる。


「おお、遂に姫が笑ってくれた! 確かテオと言ったな。お主には感謝してもしきれないぞ」


 娘が笑うようになったことが、よほど嬉しかったのだろう。王様がこちらに来ると俺の手を握り、何度も上下に振る。


「テオには礼をしなければな。何が欲しい。望みのものを言うが良い。金か? それとも爵位か? 女が良いと言うのであれば、国の総力を上げて絶世の美女を探し出そう。さすがに娘はやれないがな」


 王様の言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。


 金、名声、女って、どちらかと言うと悪者系のクズの発想のような気がするのだが。


「では、この城にあると言われる龍玉が欲しいのですが」


「ほほう。我が国の国宝に目を付けるとは、中々だな。本来であれば譲ることはしないのだが、姫が笑わなくなった元凶も倒してくれた。百歩譲って血の涙を流し、テオにあげようではないか」


 御触れで望みのものをくれると言っておきながら、百歩譲って血の涙を流すのかよ。


 まぁ、多分王様なりのジョークだろう。そう思っておきたい。もし、ガチだったら正直引く。


「龍玉は地下の宝物庫の中に締まっておる。誰か、宝物庫の見張りに伝令を頼む」


「では、私が行きましょう」


 王様が伝令を頼むと、俺を睨んでいた兵士が名乗りを上げ、宝物庫へと向かって行く。


 しばらくして兵士が戻って来ると、彼は血相を変えていた。


「大変です! 宝物庫の見張りの兵士が、何者かによって襲われていました! 扉も破壊されております」


「何だと!」

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