第二話 隣国のお姫様を笑わせることに挑戦です

 メリュジーナのお陰で予定よりも早く着いた俺たちは、アズール国の城下町を歩いていた。


 周囲を見渡すと、多くの人々が所狭しと道を歩いていた。さすが城下町と言いたいところだが。


「人が多すぎるわね。いくら城下町でも、この多さは異常よ」


 ルナさんが俺の心を代弁してくれた。


「関所のときも思ったけど、やっぱり様々な国から来た人が、この城下町に集まっているみたいだね」


 人の波に押されながら、取り敢えずお城の方に向けて歩く。


 どちらかと言うと、芸人のような格好をした人が多い印象だな。中にはピエロや道化師の格好をしている人もいる。


「この人の多さは異常だよ。ご主人様マスター、どこかで一休みしない」


「そうだな。このままでは疲れた状態で王様と謁見することになる。一旦あの食堂で休憩するか」


「お肉!」


 目に付いた食堂を指差すと、メリュジーナは目を輝かせる。そう言えば、関所の件でメリュジーナに肉料理を奢るとルナさんが約束していたな。


 食堂の中に入ると、大勢の客で賑わっていた。


 だけど店の雰囲気と言うか、空気が普通の食堂と異なっている。客の特徴がふたつに別れていた。


 希望に満ちた表情をする人、自信を失っているかのように落ち込んだ表情をしている人がいて、何だか極端だな。


 どうしてあんな顔をしているのだろうか?


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


 店内の様子を伺っていると、女性の給仕が声をかけてきた。


「3名です」


「3名様ですね。こちらのお席にどうぞ」


 どうやらまだ席が空いていたようだ。もしかしたら待つ必要があると思っていただけに、ちょっと得した気分になる。


 席に案内してもらい、椅子に座る。


 そうだ。せっかくだからどうしてこんなに人が多いのか聞いてみるか。


「ここの城下町って人が多いですね。何かお祭りでもあるのですか?」


「あれ? お客さん知らないで城下町に来たのですか? 今、お城では大変なことが起きているのですよ」


「大変なこと? それは気になりますね。良ければ話してもらえないでしょうか?」


 給仕に話してもらうように促すと、これも仕事のひとつだと割り切ったのか、彼女は嫌な顔をしないで話してくれた。


「お城のお姫様が、急に笑わなくなったのです。そこで王様が、お姫様を笑わせた者の望みを叶えると御触れを出したのですよ。そしたら噂話を聞き付けた多くの人が、この城下町に集まるようになって。このお店はそんなに人気ではないのですけど、御触れのお陰で毎日が忙しい日々を送っています」


 女性給仕の説明を聞き、どうしてあんなに人が多いのか、その理由に納得した。


 なるほど、それであんなに人が多かったのか。


「お姫様を笑わせるか。でも、それって普通に考えたら簡単そうに見えるけど?」


 ルナさんが首を傾げながら言葉を漏らす。すると、給仕が顔を近付けて小声で話してきた。


「それが、中々お姫様が笑わないらしいのですよ。多くの人が挑戦して、今のところ全員が失敗しているらしいです。中には凄腕の芸人もいたみたいですが、お姫様がクスリともしなかったので、自信を失って引退宣言をした者までいるそうですよ」


 なるほど、それでここの客の半分が落ち込んでいたのか。表情が明るく、希望に満ちている人は、まだ挑戦していないのだろうな。


「教えてくれてありがとうございました。お仕事頑張ってください」


「いえいえ。それでは、私はこれで失礼します。因みにこのお店のオススメはウッシーのステーキセットです」


 メニュー表を渡しながら、女性給仕がオススメを教える。


 彼女がオススメだと言った料理は、ひとつ2000ゴルードもした。


 まぁ、情報料としてこの店に貢献するとするか。


「メリュジーナも、オススメで良いか?」


「お肉が食べられるのなら、どれでも良いよ」


「ルナさんは?」


「私もそれで良いかな?」


「分かった……すみません。注文良いですか?」


 通りかかった給仕に注文を伝えると、俺たちは顔を見合わせる。


「それで、テオ君はさっきの話を聞いてどんな手段でお姫様を笑わせようとするの?」


 視線が合った瞬間、ルナさんが話題を振ってくる。


「よく御触れにチャレンジすることが分かったな」


「だって、誰が普通に考えてもこれが一番の近道じゃない。普通に謁見して龍玉をくださいって言うよりも、お姫様を笑わせる方が早いと思うのだけど?」


 誰だって思い付くことを言われ、それもそうだなと思ってしまう。


「でも、難易度は結構高いと思う。これまで多くの挑戦者たちが挑み、全員が敗れている。一筋縄ではいかないと思った方が良い」


 胸の前で腕を組み、御触れについて思考を巡らせる。


 王様の御触れはお姫様を笑わせること。だけど、凄腕の芸人もお姫様を笑わせることはできなかった。それはつまり、ギャグやお笑いではどんなことをやっても意味がないことを指している。


 お姫様を笑わせるには、笑い以外の方法で解決しないといけないのだろう。


 さて、どっちだ? 今の俺にはふたつのことが頭に浮かんだ。


 最初に浮かんだ方であれば、単純なことだ。でも、ふたつ目に浮かんだことが現実に起きているとなると、少し面倒臭いことになる。


 だけど一応可能性を見出すことはできた。後は実際にお姫様を見て、どちらの原因によるものなのかをこの目で確かめなければ。


「まぁ、一応対策は考えてある。だけどまずは、お姫様と謁見することが先だ」

 





 昼食を食べ終わると、俺たちはお城へと向かった。お城には行列が出来ており、多くの者が順番待ちをしている。


「それでは、次の方お入り下さい」


 列に並ぶこと1時間、ついに俺の番になった。


 さぁ、お姫様を笑わせようじゃないか。そしてメリュジーナの魔力を回復させるために、龍玉を手に入れてみせる。

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