第十四話 それぞれの思惑と真相
ハナマドウジジイから冥土の土産を頼まれ、俺は仕方なく、どうして敵の策を破ることができたのかを話すことにした。
「まずはこの町に来て、最初にショーンからフラワーディジーズの伐採を頼まれた。けれど彼は演説中に怪しい笑みを浮かべていたから半信半疑だったさ。でも、彼からはお前が本物の町長ではないことに勘付かせるヒントをくれた」
人差し指だけを伸ばして、俺は話しを続ける。
「ひとつ目は本物の町長は香水が嫌いであることだ。そしてふたつ目は、病気が治った後に姿を見るのは、町長の顔ばかりだと。この言葉がヒントになった。そしてショーンが町長しか見ないと言っていたのにも関わらず、俺たちの前に孫娘が現れた」
「あ、確かに! そう言われるともの凄く怪しいわね」
「だから
いつの間にか、ルナさんとメリュジーナがこちらに来ていた。
「そう、それがこいつの最初のミスとなった。きっと幼女の姿なら、変に怪しまれないと思っていたのだろう。だけどその考えが仇となった」
「でも、どうしてその考えに至るの? 女の子と町長に化けたモンスターは、同一人物だなんて、普通は結び付かないよ」
ルナさんの問いに、首を横に振って答える。
「それが結び付いてしまうんだ。それがショーンの言っていた第1のヒント、香水だ。彼からもらった香水をこいつにぶっかけていただろう。あれはわざとだ。姿を見せなくなった孫娘が、突然俺たちの前にだけ姿を見せた。だけど、それを怪しんだ俺は、真相を確かめるためにわざと転んだフリをして、香水をこいつに投げた」
「あれって狙ってやっていたんだね。わたしには、普通に転んだように見えたから、事故だと思い込んでいたよ」
まぁ、二人にも気付かれないようにしていたからな。敵を欺くにはまず味方から欺かないといけない。
「その他にも、女の子と町長が同一人物であることを証明するものがある。それは森の中で受けた奇襲だ」
「あの攻撃に、女の子と町長が同一人物だと言える証拠があったの?」
「ああ、せっかくだから二人も考えてみてよ」
ルナさんが訊ねてきたので、せっかくだから二人にも考えさせる。すると、メリュジーナは気付いたようで、ポンっと手を叩く。
「そうか!
「そう。しかも襲って来た蔓や蔦は、ハナマドウジジイが操っていたものと同じだ。そしてこれが一番決定付けることになるが、初めて会った町長には、女の子にぶっかけたのと同じ香水の匂いが漂っていた。可笑しいじゃないか。町長は香水が嫌いなのに、香水の匂いがするなんて。ここまでくれば、町長と孫娘が同一人物であることは証明できると思う」
「なるほどねぇ、さすがテオ君だわ。小さい証拠を組み合わせて答えに辿り着くだなんて。それにそもそも、香水が嫌いなのに、香水の香りがするモンスターを育てるのもおかしな話しだったわね」
『なるほどなぁ。そこがワシの爪の甘いところであったか。お前が言っていることは正解だ。ワシが町長一家を殺し、この町に病原菌を撒き散らした。でも、分裂ができない以上、化けることができるのは一人まで。そこで何かと都合の良い町長ばかりに変身しておった』
ハナマドウジジイが正解であることを告げ、これで次に進むことができる。
『だが、どうしてお前はワシの幻覚にかからなかった?』
「そんなことは単純だ。だって、俺、フラワーディジーズの蜜を飲んでいないから」
『何だと!』
「あ、そう言えば、
「二人が同一人物だと分かった以上、何を言っても信じられないからな。だからあの蜜を飲まなかったんだ。おそらく、あの蜜が幻覚作用を引き起こしていたんだろう?」
『ああ』
訊ねると肯定の言葉と同時に大木の枝が僅かに動いた。
「おそらくあの蜜を飲むと、毒素のある成分が小腸を経由して血管内に入り、それが脳に到達したことで、脳に負荷がかかったのだと思う。これにより、脳内神経伝達物質の過剰分泌で生じた脳回路の異常が発生するんだ。脳回路上を制御、抑制されない情報が駆け巡るという暴走状態に陥った脳は、情報のつながりが統合できなくなって混乱してしまう。フィルターのかからない、あらゆる刺激情報が直接脳に入力されることになる。これを利用してこいつの思い通りに幻覚を見せられたと考えている」
「あ! だからあの時とテオ君は、私たちが何を言っているのか分からないような顔をしていたんだね」
「そう言うことだ。後はみんなも知っての通り、倉庫に誘導されて、俺が魔法で幻覚を打ち消してあげたと言うわけだ。因みにあの蜜を飲んで病気が治ったって言うのも、こいつがそのように幻覚を見せられて、プラセポ効果が働いたから何だと思う」
『なるほど、それでワシの策は
どうして敵の策を破ることができたのか教えたところで、ハナマドウジジイが口走った場所に手を突っ込み、核を取り出す。
多少はあの時の攻撃の影響も受けていたようで、軽く握ると核は砕け散った。
核が砕け散り、ハナマドウジジイの体は灰へと変わる。
「これでこの町の病原菌も消えるだろう。元々はこいつが撒き散らしたものだろうからな」
「あとは町民たちのケアをするだけだね。あ、そうだ。結局はあのショーンって言う男は、悪い人ではなかったの?」
思い出したかのように、ルナさんが牢屋に捕まっている男のことを話す。
「いや、あいつはあいつで少し悪党なところがあったよ。事実ではあるけど、流行病を利用して町長を追い出し、自分がこの町の新しい町長になることを計画していたからね」
「やっぱり人間には悪いやつもいるね。みんな
「まぁ、ショーンには罪を償ってもらうよ。牢屋で少しだけ話したけど、あいつはいち早く、流行病の特効薬を作って服用していたみたいだからね。薬を増産して町民のために働いてもらう予定だ」
まぁ、何はともあれ、結果良ければ全てよしだ。色々とあったが、この町が復興したのを見届けたら、次の情報を求めて旅立つとするか。
ハナマドウジジイの流行病騒動から一週間が経過した。亡くなった町民の葬式を終え、ショーンの作った薬で元気を取り戻した町民たちは、日常に戻りつつある。
「よぉ、元気にしているか? ショーン?」
「元気な訳がないでしょうが。薬を作るために馬車馬のようにこき使われているんですよ」
薬を作っているショーンに声をかけると、彼は疲れきった表情をしていた。
だけどこれも彼の罪だ。特効薬は既に完成していたのにも関わらず、町長に化けたハナマドウジジイを追い出すことを優先して、町民に薬を分け与えなかったからな。そのツケが今来ただけの話しだ。
「まぁ、頑張ってくれ。お前が自分の罪を認めて町民のために薬を作り続けたら、きっと次の町長選で選ばれるだろうさ」
「はい。そう信じています。あ、そうだ。テオさんはメリュジーナさんの失った魔力を早く回復させる方法を探しているのですよね。なら、とっておきの情報を得ましたよ。何でも、隣国のお城には、魔力を溜めている龍玉と言うものがあるそうです。王族相手なので、入手は困難かもしれませんが、行ってみてはどうでしょうか?」
「何だって! それは良い情報じゃないか。ありがとう。早速向かってみるよ」
ショーンに分かれを告げ、俺はこのことを告げに2人のところに向かった。
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