おまけ回 ハナマドウジジイの行動

今回の物語は、当初は予定していなかったのですが、前回の物語だけでは物語の全貌が見えないかもしれないと思い、急遽書き足しました。


おまけとして楽しんで頂けると幸いです。






~ハナマドウジジイ視点~




『ワハハハハハ! 人間共よ! 苦しみ、絶望しながら死んでいけ!』


 ワシことハナマドウジジイは、あのお方の命礼により、一ヶ月前にこの街に病原菌を撒き散らした。


『無力でありながら、誰も救うことが出来ずに死ぬ気分はどうだ? 町長』


 肉塊と化した老人の死体に問いかける。しかし当然ながら返答はなかった。老人の死体の隣には、成人女性と子供の遺体が横たわっている。


 町長一家は殺害した。この町長と言う地位は、この町では何かと便利だ。町長と言うだけで、逆らう人は殆どいない。


『では、次の作戦に移るとするか。幻覚を見せるモンスターを育てあげなければ』


 町長の姿に変身してから扉を開けて家を出ると、近くの森に向かう。


 森の中に入り、しばらく彷徨った。






 2時間ほど歩いただろうか。疲れが見え始めたところで、ようやくモンスターを育てあげるのに丁度いい場所を発見した。


『ここは中々良さそうだな。フラワーディジーズを育てるのに適していそうだ』


 念のために周囲を窺う。


 人の気配はしない。これなら元の姿に戻っても問題はないであろう。


 モンスターの姿に戻ると、魔法で木の根っ子を操り、地面から突き出す。これにより大地が掘られ、穴を開けた。


 懐から種を取り出し、穴の中に入れる。


『面倒臭いが、早く咲かせるための儀式を行わなければな』


 村長の姿に戻り、儀式を始める。


 この儀式は人間の姿の方が何かとやりやすいからな。


『ん~ぱ! ん~ぱ!』


 膝を曲げて体を屈め、そして勢い良く立ち上がりながら両手を上げる。すると、地面から芽が出る。


 よしよし、この調子だ。


『ん~ぱ! ん~ぱ!』


 儀式を何度も行い、その度にすくすくと育っていく。


 フラワーディジーズは大輪の花を咲かせた。


『これでよし、あとはこいつから出る蜜を飲ませれば、町民は元気になる――』


 この気配、人か! 儀式に集中しすぎて、誰かが近付いているのに気付かなかった。


 振り返ると、1人の男が逃げ出す。


 あの男には見覚えがある。確か香水や薬などを作っているやつだったな。


 先ほどの独り言を聞かれただろうか? まぁ、肝心な部分を言っていなかったから別に良い。フラワーディジーズの蜜を飲むと、ワシの指示通りの幻覚を見せることになる。


 勘違いをしたあの男が広めてくれれば、それだけで手間が省けるというものだ。






 町に戻ると、ショーンがまだ流行病に罹っていない町民を集めている姿が見えた。


 お、早速あの花について語ってくれるのか。仕事の早いやつは嫌いではない。


「私はこの目で見た! この耳で聞いた! だから真実を伝えに私はみんなを集めた! この流行病を撒き散らしたのは町長だ! 彼が森の奥地に病原菌を撒き散らす魔物と話しているところを! みんなを苦しめているのは町長だ! やつをこの町から追放しない限り、流行病は治らない!」


 な、何だって!


 予想していなかったショーンの言葉に、心の中で叫ぶ。


 これはいったいどう言うことだ。どうしてやつに本当のことがバレている。まさかあの儀式を見ていたのか。


「ショーンの言っていることは本当なのだろうか?」


「あの町長さんが俺たちを欺いているだと?」


「にわかに信じられないが、ショーンは嘘を言うようなやつではない。まさか本当なのか」


 ショーンの言葉に町民たちはどよめいている。このままでは不味い。町長に不信感を抱かれれば、ワシの計画が台無しだ。


 早急に対策を立てなければ。


「信じるか信じないかはみなさん自身に任せます。ですが、ご自分の命を守りたいのであれば、あの町長一家を追い出すべきです! 長らく演説を聞いていただきありがとうございました。次の町長選ではこの私、ショーン・ライヒをよろしくお願いします!」


 悩んでいると、ショーンの演説は終わったようだ。彼はワシに気付かずに広場から離れて行く。


 とにかく、後を追跡しなければ。


 建物の陰に隠れながら追いかけようとすると、ショーンは3人組の男女に話しかける。


 この町では見かけない顔だな。格好からして旅人か?


 ここからでは会話の内容が聞き取れない。だけど、これ以上近付くと気付かれてしまうかもしれない。


 あの男はああ見えて、ワシが病原菌を撒き散らしたことに気付くほどの男だ。油断できない。


 様子を窺っていると、ショーンは旅人を引き連れてどこかに向かって行く。


 あの方角からして家に向かっているのか? とにかく後を追いかけなければ。


 一定の距離を空けながら、ショーンに付いて行く。すると彼の家が見えた。


 やっぱり家か。あの旅人に何を吹き込むつもりだ。


 4人が家の中に入ったタイミングで、ショーンの家の壁に背中を預ける。


 換気のためか、窓は少し開いていた。


 よし、これであいつらの会話を盗み聞くことができる。


「あなたたちにお願いしたいこと、それはフラワーディジーズの伐採です」


 聞こえてくるショーンの言葉に、背筋が寒くなる思いに駆られる。


 そのまま盗み聞きを続けると、3人組の男女はフラワーディジーズの討伐をすると言い出す。


 このままでは不味い。あのモンスターを失っては、作戦が台無しではないか。


 とにかく、このままでは良くない。あいつらが森に向かわないように仕向けなければ。


 町長から孫娘に姿を変えると、旅人たちが家から出て来た。


 子どもの姿なら、やつらは油断するはず。さて、どのタイミングで声をかけようか。


 建物の陰に隠れつつ、3人組を尾行する。


「パースペクティブ」


 隠れていると、彼らは立ち止まる。すると男の方が魔法のようなものを言った。


「そこに隠れているのはわかっている。大人しく出て来い!」


 男がワシの隠れている場所を見ながら出てくるように要求してきた。


 あやつ、ワシが隠れている場所が分かったのか! いや、そんな訳がない。気配を消しているのだ。そう簡単には見つかるはずがない。ブラフの可能性だってあり得る。この場で飛び出すのは愚の骨頂だ。


 男は周囲を見ると右手を掲げた。


「ファイヤーボール」


 火球を生み出され、ワシが隠れている付近に放たれた。


「これでわかっただろう。俺は出まかせで言っている訳ではない。自分から出て来ないのなら、隠れている建物を破壊してでも炙り出すぞ」


 くそう。まさか本当にバレておるとは、こうなっては仕方がない。もう出るしか選択肢が残されておらぬ。


「待って!」


 仕方なく、ワシは幼女の姿で三人組の前に出た。

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