第十三話 自分から弱点を教えるなんてバカだろう

〜テオ視点〜




『くそう。くそう。くそう! どうして人間なんぞの魔法に、このワシが枝も根も出せない!』


 俺の重力の魔法を食らい続け、大木となったハナマドウジジイは悔しそうに声を上げる。


 今のところは重力魔法で敵の動きを封じてはいるが、俺の魔力も無尽蔵ではない。


 そろそろ決着を付けなければならない。


「メリュジーナ、何をしているのよ。どうして戻って来てくれないの?」


 ルナさんがポツリと呟く声が耳に入る。


 確かに予想よりも彼女が戻って来るのが遅い。あの森で何か起きたのか? 俺の予想では、とっくに戻って来ても良いはずなのに。


 ここまで長引くとなると、最悪のことを考えてもうひとつの策を実行しておいて正解だったな。


 そろそろもうひとつの策に移るとしよう。地面にしていた細工も良い具合になっているはずだ。


『ぬおっ! 枝や根っ子が思うように動く! どうやら魔力切れを起こしたようだな! さぁ、反撃と行くぞ! ワシの攻撃でリンチされろ!』


 敢えて重力を増やす魔法を解除すると、ハナマドウジジイは俺に向けて無数の枝を放って来る。


 だが、その動きは遅く、まるでスローモーションのようにゆっくりと動く。


『どうしてだ! どうしてワシの体が思うように動かない! どうして枝がギクシャクする!』


 思うように体を動かすことができず、ハナマドウジジイは驚きの声を上げる。


「教えてあげよう。俺は重力の魔法と同時に、魔法で地中を凍結させた。それにより、寒さで肉体を動かすことに制限をかけた。だけど、これはほんの種蒔きにしか過ぎない。本当に芽が出るのはここからだ」


 指を滑らせてパチンと音を鳴らす。


「フロストバイト!」


『ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 魔法を発動した瞬間、大木となったハナマドウジジイは真っ二つになる。


 大木は左右に分かれ、倉庫を破壊しながら地面に倒れた。


 この魔法は人面樹などの木のモンスターに、ほぼ即死にさせる魔法だ。


 木は、樹木内部の水分が寒さによって凍結することで、凍裂と呼ばれる現象が起きる。


 凍裂が起きると、浅いもので樹幹外周部、深いものだと髄付近まで達するヒビ割れが起きる。割れの長さは、10センチから10メートルを越えるものまで様々だが、魔法により、強制的にこの現象を引き起こした。


「流石にここまでやれば即死だろう。もう、回復することはできないはずだ」


「やった! テオ君がモンスターを倒したわ!」


「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ! あんなでかい化け物モンスターを倒すなんて、兄ちゃん凄いじゃないか!」


「これで、この町も救われるのね!」


 ハナマドウジジイが倒れたことで、ルナさんや町民のみんなが歓喜の声を上げる。


 敵が倒れて、内心安堵した。正直に言って、後もう少しで魔力が枯渇しそうになっていたところだ。


『ワハハハハハハハ!』


 みんなの笑い声に混じってモンスターの声が聞こえ、俺は倒れているハナマドウジジイを見る。


『惜しかったな! ワシはまだ死なぬ。ギリギリ核がやられなかった。あと1ミリでもズレていたら死んでいただろう。もう同じ手は通用しない。今度こそぶっ倒してくれる!』


 マジかよ。核が存在しているなんてそんなの聞いていないぞ。


 このままではまずい。俺の残りの魔力では、もう一戦する余力がない。


『ワハハハハハハハ! ざまああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 再生!』


 真っ二つにしたハナマドウジジイが肉体の回復を行おうとする。だが、しばらく待っても、樹木が回復することはなかった。


『再生!……再生!……再生! なぜだ! なぜ再生しない! 核が無事なら再生できるはずだぞ。再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生、再生』


 バカのように、何度も同じ言葉をハナマドウジジイは連呼する。


 こいつ、どうやら気付いていないようだな。核が存在しているのに、肉体が再生できない理由、それは。


ご主人様マスター、遅くなってすまない。思っていた以上に梃子摺ってしまった。でも、もう大丈夫だ。フラワーディジーズは伐採することはできなかったけど、燃やし尽くして灰に変えてあげたよ」


『しまったあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ! あいつが死んでは、森からエレルギーを吸い取れない!』


 バカ丸出しのモンスターにゆっくりと近付く。


「さて、ではお前に止めを刺そう。核はどこにあるかな?」


「右側の中央にあるなんて誰が言うか……あ!」


 ハナマドウジジイのアホっぷりに、思わず額に手を起きたくなった。


 まったく、自分から答えを教えてどうするんだよ。


「右側の中央だな。教えてくれてサンキュー。お陰で探す手間が省けた」


『待ってくれ! せめて冥土の土産に、どうしてあの時、ワシの幻覚が効かなかったのか教えてくれないか!』


 1時間ほど前には、自分が勝つから聞く必要がないって言っていたじゃないか。まぁ、いいか。自分から核の場所を教えてくれたことだし、冥土の土産くらいはくれてやろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る