第十二章 フラワーディジーズの伐採

~メリュジーナ視点~




 わたしことメリュジーナは、ご主人様マスターの命を受け、森にいるフラワーディジーズを伐採しに森へと向かっていた。


 早く森にいる植物モンスターを倒さないと、この森が死んでしまう。


 上空を飛翔しながら森の様子を伺っていると、次々と樹木や草花が枯れていく。


「早くフラワーディジーズを伐採しないと、被害が広がっていく」


 ご主人様マスターは凄い。でも、それでも森が枯れていくと言うことは、敵が姑息な手を使って、自ら肉体を傷付けているに違いない。


 この森を救えるかどうかは、迅速にわたしが敵を倒せるかどうかにかかっている。


 フラワーディジーズが居た場所に舞い降りると、植物型のモンスターを発見する。


「さぁ、早いところお前を伐採して、ご主人様マスターの戦闘を楽にさせてもらう。アイスランス!」


 魔法を発動して氷の槍を生み出す。


 未だにたくさんの魔力を失ってはいるが、この姿なら魔法を使うことも可能だ。


 右手を前に押し出し、投擲の動作をする。わたしの動きに連動して、氷の槍がモンスターに向けて放たれた。


「さぁ、これで終わりだ。お前の弱点は、その場から動くことができないことだ。このまま氷の槍で貫かれろ!」


 脳内で、氷の槍がモンスターを貫く光景を思い描く。


 こいつを倒せば、あのハナマドウジジイは肉体を回復する手段を失う。そうすれば、ご主人様マスターは瞬時に大木となったあのモンスターを倒すだろう。そしたら、彼はわたしを褒めてくれるかな?


『メリュジーナ、ありがとう。やっぱり、お前は最高のパートナーだ。ご主人様として誇りに思う。ずっと俺の側にいてくれ』


「何を言っているんだい? わたしは当然のことをしたまでだよ。ご主人様マスターの役に立つことが、わたしの生き甲斐なんだから。でも、何か礼をしたいと言うのなら――」


 妄想が膨らみ、気が付くと独り言を口走っていることに気付く。


「わたしとしたことが、思わず妄想にふけってしまったよ。いかん、いかん。早くモンスターの死骸を確認しよう」


 フラワーディジーズの死体を確認しようと、足を一歩前に出したときだ。いきなり地中から植物の根っ子が現れ、わたしの足を拘束する。そしてそのまま空中へと持ち上げられた。


「バカな! わたしの魔法が効かなかったのか!」


 植物型のモンスターがいた場所に視線を向ける。信じ難いごとに、その場にはフラワーディジーズの姿がなかった。


 代わりにモグラが掘った穴のようなものがある。


 まさか、地中に潜って攻撃を回避しただと。


 予想外の回避方法に驚く。


「植物が地中に潜るなんて発想がなかったから、正直驚いてしまったよ。でも、それならそれでいい。そのことを踏まえた上で、倒すまでだ」


 口から炎を吐き、拘束している根っ子を焼き切る。


 ファイヤーブレスは魔力とは関係ない。ドラゴン独特の身体の構造によるものだ。火炎による攻撃なら、いくらでもできる。


 だけどやり過ぎは禁物だね。一歩加減を間違えれば、山火事を引き起こす。


 敵の拘束から逃れ、妖精の羽を羽ばたかせて空へと舞い上がる。


 空中に居れば、敵の根っ子による攻撃は届かないはず。


「前回、ご主人様マスターがやっていたことを思い出して良かったよ。空を飛べる利点を使えば、わたしが有利だ」


 上空から地上を見下ろすと、地面が盛り上がって穴が空く。その穴からフラワーディジーズが姿を見せた。


「姿を見せたな! 今度は逃さないぞ!」


 一回口をすぼめて息を吸い、体内で炎を生み出し、火炎を吐く。


 炎はモンスターに向けて一直線に進むも、危険を察知したフラワーディジーズは再び地中に潜り、攻撃を回避してしまう。


「再び躱された!」


 まさか、ここまで危険察知能力と回避率が高いとは思わなかったな。だけどこんなことでは焦ってはいられない。ご主人様マスターなら、どんな状況下でも冷静になって物事を見極める。そして最後は勝利するのだ。


 わたしも彼を見倣って、常に落ち着くように心がけねばならないね。


 数分前の戦闘を思い出し、敵を倒す方法を考える。


 やつが地上に顔を出すとき、一度地面が盛り上がる。そのタイミングで炎を放てば、直撃するはずだ。


 地面を注視していると、大地の一部が盛り上がる光景が視界に捉える。


「そこか! 今度こそ当てる!」


 さっきよりも早いタイミングでファイヤーブレスを放つ。


 火炎が間近に迫っているその瞬間に、フラワーディジーズは姿を見せる。だが、敵の攻撃を察知したのか、直ぐに体を地面に引っ込めた。


「このタイミングでも躱されてしまうのか!」






 あれからどのくらい時が経ったのだろう。わたしの火炎は何度も回避されてしまっている。


 だけど、敵も疲弊しているのは確かだった。新しい穴を掘るのをやめ、1回作った穴から姿を見せる。


 本当にいい加減に勝負を決めないと、ご主人様マスターにも危険が及ぶかもしれない。


 体力の限界が近い。ファイヤーブレスを放つことができるのも、後1、2回程度かもしれないね。


 敵が大地に開けた穴は全部で6つ。今はその穴の中を移動している。


 うん? 穴の中を移動している?


「穴の中を移動している! そうか! その手があったか」


 もし、頭の中で描いていることが合っているのなら、わざわざ敵の姿が見えたタイミングで攻撃しなくても良い。


「散々わたしを煽ってくれた慰謝料は高いよ。その命と引き換えに赦してあげる!」


 再び口を窄めて息を吸い、体内で火炎に変えるとファイヤーブレスを放つ。


 火炎は穴の中に入ると、全ての穴から噴き出す。そして逃げ道を求めたフラワーディジーズが穴から飛び出した。


 これが最後のチャンス! お願い、ガス欠にはならないで!


 心の中で願いながら、もう1回火炎を吐く。


 わたしのファイヤーブレスは見事にフラワーディジーズに直撃し、モンスターを燃やし尽くした。


 やった! これで森からエネルギーを奪われることはないはず。


 植物型のモンスターが炎に包まれて灰と化すのを見届けると、わたしは直ぐにご主人様マスターのところに戻った。

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