第五話 何度も探索魔法を邪魔するなんて。敵はこの魔法を知っているのか?

 問題のモンスターがいる場所に近付いた俺たちに待ち受けていたのは、蔓や蔦による手荒い攻撃だった。


「手荒い歓迎だな。でも、そんなことで俺を拘束できると思うなよ。ファイヤーアロー!」


 イメージを膨らませ、5つの炎を矢の形にする。そして直様放った。


 炎の矢は蔓や蔦に触れると勢いよく燃やし、灰へと変える。


 よし、蔓や蔦なら燃やせばいいだけの話しだ。


 一度何者かの攻撃は防いだ。けれど、森の奥から次々と蔓や蔦が現れ、触手のように襲ってくる。


 蔓や蔦を操っているやつを倒さない限りは、いくら燃やしてもイタチごっこってわけか。


 いったいどこにいる? どこから俺たちを狙っている?


 周辺を見渡すが、それらしき人物は見当たらない。


 こうなったら、探査魔法を使って敵の居場所を特定するか。


「エコーロケ――」


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「しまった! わたしとしたことが油断した」


 ルナさんの悲鳴が聞こえ、振り返る。すると今までとは違った場所から蔓や蔦が飛び出し、彼女たちを拘束していた。


 敵の攻撃により身動きが取れなくなった2人を見るも、直ぐに視線を逸らす。


 偶然だと思うが、ルナさんがM字開脚のように股が開かれ、メリュジーナはスカートが捲れ、尻を突き出している格好になっていたのだ。


 一瞬であったが、2人のパンツが見えてしまった。


 とにかく、彼女たちを拘束から解放してあげなければ。


「ファイヤーアロー!」


 2人に攻撃が当たらないように炎を生み出し、それを矢のようにして射出する。


 炎に触れた植物は燃え、拘束力を失った蔦や蔓から二人は抜け出す。


「テオ君、ありがとう」


ご主人様マスター、お陰で助かったよ」


「ルナさん、メリュジーナ、どこから敵の攻撃が来るのか分からない状況だ。互いの視野をカバーして、全方向からの攻撃に備えよう」


 2人がこちらに来ると、俺たちは互いに背中を合わせる。


 人間の視野は、片目で鼻側及び上側で約60度、下側で約70度、耳側に約90度から100度と言われている。両目がほぼ平面の顔上にあるため、両目で同時に見える範囲が広く、左右120度をいっぺんに見ることができるのだ。


 3人が居れば、何とか360度全方向を見ることができる。これなら、少しでも怪しい場所や何かが動くものが見つかれば、互いに教え合い、直ぐに対処することができる。


「敵の攻撃が止んだね」


「わたしたちの行動を見て、隙がないことに気付いたみたいだ。相手は相当な知能があると見ていい」


 メリュジーナの分析には俺も同意する。


 普通の植物系のモンスターなら、ここまで冷静に戦況を判断することはできない。もしかしたら、モンスターハウスの洞窟にいた魔王の幹部と名乗ったピサロのように、人の言葉を話せる人形のモンスターの可能性だって充分考えられる。


 しばらく様子を伺っても、敵が攻撃を仕掛けてくる気配がない。


「テオ君、どうする? 敵の攻撃がんだから、このまま先に進む?」


「いや、敵もバカではないはずだ。警戒を緩めた瞬間に、隙を突いて攻撃してくるかもしれない」


 少し焦りを感じながらも、冷静になるように心がける。


 ここはやっぱり、敵の居場所を特定して、こちらから攻撃を仕掛ける方が手っ取り早い。


「エコーロケ――」


「2人ともこの場から離れて! 早く!」


 探査魔法を発動しようとした瞬間、メリュジーナがこの場から離れるように言ってくる。


 どうしてそのような判断をしたのか分からないが、彼女の指示通りに前方に跳躍をした。


 着地と同時に振り返る。すると先ほどまで立っていた場所に、木の根っ子が地面から突き出していた。


 これも敵の攻撃か。メリュジーナは人の姿をしているがフェアリードラゴンだ。きっと人では感じ取れないような振動などをキャッチして、地中から敵の攻撃が来ることが分かったのだろう。


 だけど、これで視界をカバーし合い、死角を無くすという戦法は使えなくなった。


 とにかく、一刻も早く的の居場所を把握する必要がある。


「エコーロケ――」


ご主人様マスター、逃げて! またあの地中からの攻撃が来る!」


 再び先ほどの攻撃が来ると言われ、後方に飛ぶ。すると、先ほどまで俺が立っていた場所に、木の根っ子が飛び出していた。


 また邪魔をされたか。


「ファイヤーボール!」


 何度も探査魔法を邪魔され、少し怒りのボルテージが上がった。そのような状況の中、魔法を発動して火球を木の根っ子に当てる。


 今度は邪魔をされなかった。木の根っ子が燃えている今なら、地中からの攻撃はできないかもしれない。


「エコーロケ――」


ご主人様マスター、逃げて! またあの攻撃だ!」


 4度目の探査魔法を挑戦しようとしたところで、再びメリュジーナが敵の攻撃が来ることを教えてくれた。


 横に飛んで地中から飛び出す木の根っ子を躱す。


「さっきから俺の探査魔法の妨害をしやがって」


 これはあまりにもおかしい。俺がエコーロケーションを発動しようとしたタイミングばかり邪魔をしてくる。


 敵はこの魔法の正体を知っている。だから居場所を特定されないために、俺ばかりに攻撃を仕掛けた。


「メリュジーナ! 俺とルナさんを支えて空を飛ぶことはできるか」


「この姿ではまだ空を飛んだことができない。でも、やってみるよ」


「ルナさん、メリュジーナの側に行って」


「分かった」


 急ぎメリュジーナのところに駆け寄ると、彼女は俺とルナさんの手を掴む。そして背中から妖精の羽を出し、羽ばたかせながら上昇していく。


 人の姿になっても、ドラゴンだった頃の力は失われていないようだ。メリュジーナは苦悶の表情をすることなく、森の上にまで上がってくれた。


 ここなら、例え俺が魔法を発動して敵の攻撃が来たとしても、妨害は間に合わない。


「エコーロケーション!」


 5度目のチャレンジは成功した。予想通りに森の中から敵の攻撃が来るも、間に合わない。


ご主人様マスターの邪魔はさせない! ファイヤーブレス」


 森の中から飛んできた蔦は、メリュジーナの口から放たれる火炎に燃やし尽くされた。


 その間に周辺に音波を放ち、反射して来るものを把握する。


 音と動く物体の波の周波数が異なって観測できるな。これは相手が遠ざかっているのか。


 探査魔法が成功したことにより、敵は居場所が特定されることを恐れて逃げ出したようだ。


 もう邪魔はされないかと思うが、念のために警戒をしつつ、目的の場所に向かうか。


「メリュジーナ、そのまま目的地の近くまで運んでもらうことは可能か?」


「任せてよ。それくらいお安い御用だ」


 俺たちを運んだまま、メリュジーナは目的地近くまで移動してくれた。


 再び山の中に入ると、そこからは徒歩で目的地へと向かう。


 しばらく歩くと、1メートル近くの大きい花型のモンスターが視界に入る。


 あれか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る