第六話 花の蜜は病気を治す?
何者かの妨害を潜り抜け、俺たちはようやく目的の魔物を発見することができた。
茂みに隠れながら再度確認する。
1メートルはありそうな大きさで、花弁は黄色をしている。そして中央には口があり、獣のような鋭い牙があるな。間違いなく、ショーンが言っていたフラワーディジーズだ。
目的の魔物は発見したが、次はどちらの言っていることが本当なのかを確かめるとしよう。
「待って、
モンスターに近づき、真相を確かめようと立ちあがろうとしたその時、メリュジーナが俺の腕を握って誰かが来たことを告げる。
あれは誰だ? 町の中では見かけなかったな。
周りは髪の毛があるのに頭頂部だけが禿げている頭に、大きく見開かれた目。そして皺が多いことから、70代から80代の老人であることが推察できる。
彼の横には同年代と思われる男性が並んで歩いていた。しかし彼は顔色が悪く、時々咳き込んでいる。
どう見たって流行病に感染しているな。
「もう少しですので、頑張ってください」
「ありがとうございます町長」
感染者が隣を歩いている老人のことを町長と言ったな。彼があの町の町長か。
2人はモンスターに近付くと、町長が両手で器を作り、フラワーディジーズの口元に持って行く。
するとモンスターの口からハチミツ色の液体が吐き出された。
何だ? あの液体は? あれを使って何をしようとしている?
「さぁ、これを飲みなされ」
様子を伺っていると、町長はハチミツ色の液体を感染者に飲ませる。その瞬間、液体を飲んだ人の顔色が良くなり、本当に同一人物なのかと思うほどの元気を見せる。
町長の孫が言った通りだな。どうやらあのモンスターは、本当に流行病を治す力がある見たいだ。
「す、すごい! さっきまで頭痛と吐き気が酷かったのに、あの液体を飲んだ瞬間にミルミル元気になっていく」
「それは良かったです。これでもう、あなたは大丈夫ですよ」
「ありがとうございます町長」
「いえいえ、あなたは選ばれたのです。だからこそ、病気が治った。ですが、このことは他言無用ですよ。このモンスターが作る蜜は多くない。多くの者が群がると助かる者が助からなくなります」
「分かりました。このことは内緒にします」
男性は町長と約束を交わすと、この場から離れて行った。
「さて、そこに隠れていることは分かっています。私に用があるのなら姿を見せてください。それとも、こっちのモンスターに用があるのですかな?」
町長の観察眼に思わず驚かされてしまう。
デタラメを言っているのか? いや、彼の目線は俺たちの方を見ている。確実に居場所が分かって言っている。
この町長何者何だ? いや、今は推察している場合ではないな。早く姿を見せたほうが良さそうだ。
「隠れていて悪かった。ちょっとした依頼を受けていてね。そのフラワーディジーズのことを調べに来たんだ」
茂みから立ち上がって姿を見せ、町長に友好的な笑みを浮かべる。
すると、俺の行動に
「そうですか。このモンスターを調べに。ですが、このモンスターは何も悪いことはしていません。寧ろ、町民を病魔から助ける力を持っております。ですので、伐採などは考えないでください。もし、このモンスターに危害を加えるようならタダでは済まさないですよ」
睨みを効かせながら、町長が警告をしてくる。
俺たちの隠れ場所を特定していたし、今はこの男を刺激しない方がいいかもしれないな。
状況を分析し、今取るべき行動を瞬時に判断すると再び笑みを浮かべる。
この男の警戒を解くのであれば、ショーンの依頼を正直に話した方がいい。
今の光景を見る限りは、町長は善の行いをしている。
「待ってください。俺たちがこの森に来た目的を話しますので、警戒を緩めてください。決してそのモンスターに危害は加えませんので」
「そうか。分かった。ではこちらに来るが良い。お前たちを信じる。だが、妙な動きをしたら、拘束させてもらうからな」
近付く許可を貰い、ゆっくりと町長に近付く。彼に近付く度に、香水の強烈な匂いが鼻腔を刺激し、思わず鼻を摘みたくなった。
ショーンが香水のような匂いを撒き散らすって言っていたし、あのモンスターの匂いだろう。
町長との距離が約1メートルになったところで立ち止まり、彼を見る。
「では、話してもらおうか。お前さんたちにこの森に入るように言った人物が誰なのかを」
話すように促され、ショーンとディジーのことを話した。
「そうか。あの男がそのようなことを考えていたとは。それにディジーが真実であることを教えてくれたのだな」
嘘偽りのない真実を語ると、町長は納得してくれたようだ。表情が柔らかくなる。
「お前さんたちもあの町に入ったのなら、感染し始めているかもしれない。このモンスターが作りだす蜜は、予防効果もある。ぜひ飲んでいきなさい。まだ皆さんが飲める分は出せるはずです」
町長が飲むように促すが、正直に言って遠慮したい。だって、モンスターの口から出るものを飲むことになるんだ。潔癖症なところがあるのかもしれないが、衛生的に考えても飲みたくない。
だけど飲まなければ警戒されるだろうな。ここは飲むふりをするか。
分かりました。では、いただきます。
両手で器を作ると、モンスターに近付く。すると、モンスターの口からハチミツ色の液体が吐き出された。
匂いは良いな。様々な花の香りがする。
「ファイヤー」
両手を口に持って行くと、小声で呪文を唱えて液体を煮詰める。そして飴状にすると町長に気付かれないように捨てた。
ルナさんとメリュジーナは、少し引いた顔つきをしながらも蜂蜜色の液体を口に含む。
「あ、思ったよりも甘いわね」
「うん、思ったよりも美味しいかも」
「そうか。それは良かった。では、ワシたちも帰るとするか。このモンスターが害ある存在でないと分かった以上、伐採などを考えるなよ」
町長が俺たちに背を向け、山を降りようとしたその時。
「おのれ! どうしてそのモンスターを伐採しない! やっぱりお前も町長側の人間になったのか!」
突然ショーンが現れ、短剣を構えながらこちらに突進してきた。
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