第三話フラワーディジーズの討伐

「あなたたちにお願いしたいこと、それはフラワーディジーズの伐採です」


「フラワーディジーズと言うと、演説で言っていたモンスターのことですか?」


「はい。おそらくあのモンスターがこの町に、流行病を撒き散らしていると思われます。なので、どうかあのモンスターを倒してください」


 フラワーディジーズ、どんなモンスターなのか見たことがないな。まぁ、俺たちならどんなモンスターが相手でも負けることはないだろう。


「分かりました。では、そのモンスターの特徴を教えてもらっても良いですか?」


「ええ、全長はおそらく1メートルほどで、花弁は黄色をしています。中央には口があり、獣のような鋭い牙があります。動く様子はなかったので、おそらく移動することはできないでしょう。あと、僅かに香水のような香りを漂わせています」


 詳細を教えてもらい、ある程度脳内でモンスターの姿を想像する。


 討伐対象のイメージを膨らませていると、部屋のいたる所に置かれてある香水と思われる瓶が視界に入った。


 そうだ。この機会に香水の噂話の真相を確かめるか。


「あのう。この町の名産品である香水には、魔力を回復する効果があると言う話しを聞きました。それは本当なのでしょうか?」


 あの噂が本当なのか訊ねてみると、ショーンは首を傾げる。


「香水に魔力を回復させる効果? はて? 何のことでしょうか? 一応香水職人をしていますが、私の作る香水にはそのような効果はありませんよ。あくまでも香水は匂いを楽しむ嗜好品、魔力を回復させるようなことが分かれば、大発見です」


 彼の言葉を聞き、ようやく納得することができる。


 やっぱり、噂はただの噂だったってわけか。


「そう言えば、香水と聞いて思い出したのですが、町長は香水が嫌いなのですよ。そのせいで、私はこんなに遠くにある町外れに工房を建てることになりました」


 突然身の上話を聞かされ、苦笑いを浮かべる。


 町の名産品なのに、町長がそれを嫌いとは皮肉なものだな。


 そんなことを考えていると、メリュジーナが立ち上がる。そして棚に置かれている香水のひとつを取り出した。


「良ければこの香水をもらっても良いかな? 魔力回復ができないにしても、香水と言うのには興味がある」


「ええ、構いませんよ。前金代わりに持っていってください。宜しければ、そちらのお嬢さんもどうです?」


「ありがとう。でも、私は良いよ。あんまりありすぎると荷物になるから」


 ルナさんが断ると、ショーンは少々残念そうにする。


 彼にとっては、一生懸命に作ったものであるはずだ。だがら、女性から断られるのは多少なりともショックを受けるのだろう。


「なら、代わりに俺がひとつもらいますよ」


 椅子から立ち上がり、香水が置かれてある棚の前に行くと、香水をひとつ握る。


 確かに見た目は普通の香水だな。やっぱり噂なんて、その程度なのだろう。それにもしかしたら、プラセポ効果で奇跡的に魔力の回復が早まった可能性だって考えられる。


 その後、この町のことについても話してもらい、ある程度の情報を得ることができた。


 流行病がこの町を襲ったのは1ヶ月前、そして同時期に村長一家は病にかかるも、流行病ではなかったようで1週間後には元気になった。


 しかし、病が治ったのにも関わらず、町で良く見かけるのは町長ばかりだそうだ。一応娘さんと孫娘がいるが、家から出た姿を殆ど見ないとのこと。


 そして病気が治ったその日を境に、町長はよく山に行くようになったらしい。そこで気になったショーンが町長を追跡すると、モンスターと会話をしているところを見たとのことだ。


「ありがとうございます。では、俺たちはそろそろフラワーディジーズの討伐をしに山に向かいます」


「よろしくお願いします。もし、あのモンスターの討伐に成功したら、あなたたちはこの町の英雄として長く語り継がれることでしょう」


 ショーンの言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。


 そこは謝礼金をくれたり、名産品の香水をくれたりしないんだな。


 座っていた椅子から立ち上がり、彼の家から出ると街中を歩く。


「山にいるフラワーディジーズを倒せば、この町に広まっている流行病を治せるんだね」


「早くそのモンスターを討伐して町のみんなを苦しみから解放しよう」


 ルナさんとメリュジーナがそれぞれ口にする中、俺は1人で考え込む。


 これまでのショーンの話しを聞く限り、彼が嘘を吐いているとは思えない。だけど、演説中の彼のあの顔を思い出すと、引っかかりを感じる。


 この違いは何だ? きっとショーンには何か思惑があるのだろう。彼の隠された裏の思惑が善なるものか、それとも悪なるものか。


「ねぇ、ルナ君」


ご主人様マスター、ちょっといいかい?」


 思考を巡らせていると、2人が小声で話しかけてきた。


 普通に話しかけないところから推察するに、周囲に聞かれたくないのだろう。


「どうした?」


 彼女たちに合わせ、小声で話す。


「誰かに見られていない?」


「どこからか監視されているみたいなんだ」


 2人が誰かに見られていることを語ると、俺も視線を感じた。


 ルナさんとメリュジーナが言ったように、どこからか視線を感じる。


 確かに視線を感じるな。でも、視線を感じると言うことはできても、場所が特定できない。


 明らかに変だ。ここは魔法を使って居場所を把握するか。


「パースペクティブ」


 イメージを膨らませ、透視魔法を唱えた。人の目は、物質が電磁波を吸収した波長を色として見る。


 魔法で周辺の建物や木などに対して電磁波の吸収、散乱が生じないようにさせ、魔法の使用者である俺にだけ透けて見えるようにした。


 すると近くの建物の角から、隠れながらこちらの様子を伺っている人物がいるのが見えた。


「そこに隠れているのはわかっている。大人しく出て来い!」


 身を潜めている人物に対して姿を見せるように告げるも、姿を現さない。きっと当てずっぽうで言っていると思っているのだろう。


 だけど、そこに隠れていることがわかっている。今度はそれを自覚してもらおう。


 近くに人がいないことを確認し、右手を掲げる。


「ファイヤーボール」


 火球を生み出し、隠れている人物がいる近くに火球を放つ。


「これでわかっただろう。俺は出まかせで言っている訳ではない。自分から出て来ないのなら、隠れている建物を破壊してでも炙り出すぞ」


「待って!」


 再び火球を生み出し、再度投げるフリをしたところで、視線を送っていた人物が姿を見せた。


「うそ!」


「まさか、この子がわたしたちに視線を送っていたの!」


 姿を見せた人物を見て、2人は驚く。しかし事前に知っていた俺は、彼女たちとは違い、冷静に現れた人物を見つめる。


 隠れながら俺たちを監視していたのは小さな女の子だった。

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