第二話 流行病の町
俺が見た隣町の光景は、予想を遥かに超えていた。
町民はまるでゾンビみたいに生気を失い、地面に倒れているのは死体のようで、虫たちが
この感じ、もしかして。
「ルナさん、メリュジーナ。ハンカチで鼻と口を塞ごう。
二人に注意を促し、ポケットからハンカチを取り出す。感染予防にしかならないが、しないよりかはマシだ。
まずは情報収集からだ。魔力回復の香水が真実かどうかを確かめたら、早いところこの町から出よう。
ハンカチで口を塞ぎつつ、町中を歩く。すると奥の方から声が聞こえた。
この先で誰かが叫んでいるのか? こんなに病原菌が空中を浮遊している中、何をやっている。
「誰かが声を出しているみたいだな。行ってみよう」
彼女達に声をかけ、街の奥へと歩く。すると開けた場所にでた。
どうやらここは広場のようだ。町民たちが集まり、1人の演説を聞いている。
「私はこの目で見た! この耳で聞いた! だから真実を伝えに私はみんなを集めた! この流行病を撒き散らしたのは町長だ! 彼が森の奥地に病原菌を撒き散らす魔物と話しているところを私は見た! みんなを苦しめているのは町長だ! やつをこの町から追放しない限り、流行病は治らない!」
男の演説に驚きを隠せないようで、町民たちはどよめく。
「ショーンの言っていることは本当なのだろうか?」
「あの町長さんが俺たちを欺いているだと?」
「にわかに信じられないが、ショーンは嘘を言うようなやつではない。まさか本当なのか」
遠くから演説者の言葉を聞き、胸の前で両腕を組む。
どうやらこの町の町長が、病気を撒き散らしているモンスターと繋がっているらしいな。
でもあの男、演説中にも関わらず、途中でニヤついた笑みを浮かべていた。それに感染予防もしないで大声を出すところも怪しく思えてしまう。
「信じるか信じないかはみなさん自信に任せます。ですが、ご自分の命を守りたいのであれば、あの町長一家を追い出すべきです! 長らく演説を聞いていただきありがとうございました。次の町長選ではこの私、ショーン・ライヒをよろしくお願いします!」
ショーンと名乗った男が演説を終えると、こちらに歩いてくる。すると彼と視線が合ってしまい、駆け寄って来た。
「この町では見かけない顔ですが、あなた方はもしかして旅人でしょうか?」
「ええ、この町の名産品である香水に興味がありまして」
「それは嬉しいですね。ですが、今この町に居てはいけません。早々に立ち去ってください。でなければーー」
「わたしたちも流行病にかかってしまうって言いたいのだよね」
男が話そうとしていた続きをメリュジーナが言うと、彼は一瞬驚いた表情をした。だが、直ぐに表情を引き締める。
「何と! 今の演説を聞かれていたのですね! ええ、その通りです。なので早々に……いや待てよ」
途中でショーンが言葉を止め、顎に手を置いて考え込む様子をみせる。
「あなたたちは見たところ、腕利きの冒険者だとお見受けします。どうか、この町を救ってくれませんか! お願いします!」
男は頭を下げて懇願してくる。
「テオ君、困っているみたいだし相談くらいのってあげても良いと思うよ」
「わたしは1日くらい、この町に居ても問題はないと思う。3人とも一応感染予防はしているからね。簡単には病にかからないと思う」
ルナさんとメリュジーナが、ショーンのお願いごとを聞いても良いと言う。
まぁ、正直このまま放って町から出るのは、後ろ髪を引かれそうになるからな。話を聞いて俺たちが力になれそうなら、協力してもいいだろう。
「分かった。一応話しを聞こう」
「ありがとうございます。では、私の家に案内します」
ショーンが自分の家に向けて歩き出し、彼の後ろを歩く。
男の家に辿り着くまでの道中で、地面に横たわっている人を何人も見かけた。
死人をそのままにしているなんて。どうしてこんな酷いことをしている。
「なぁ、どうして死人を燃やさない? このままでは流行病の流行を長引かせるだけだぞ?」
「それは……町長の指示です『死人を燃やすのは流行病が治まってから一斉にする。資源を無駄にするな』と言って、そのままにする方針となっております」
「そんな!」
「それは酷いことをするね。いくら町の方にも事情があったとしても、これはやりすぎだと思う」
町の事情を聞かされ、ルナさんとメリュジーナが思い思いに言葉を漏らす。
「さて、着きました。皆さんお入りください」
扉を開けられ、中に入るように促される。
彼の家に入ると、中は薬草や香水の材料などが散乱していた。
「散らかっていてすみません。片付けが苦手なのですよ。ですが、お客様用の場所は確保してありますので、お好きな場所にお座りください」
適当に空いている席に座り、ショーンが話し始めるのを待つ。
「では、お話ししましょう。あなたたちにお願いしたいこと、それはーー」
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