第四話 モンスターハウスのトラップイーター
上空を飛翔する漆黒のドラゴンを見ると、冒険者たちは驚き、ざわめきだす。
漆黒の鱗に妖精の羽のような翼、それに角にあるリボン、あれは間違いない。
「メリュジーナ!」
俺は上空に現れたドラゴンの名を口にする。
『
まさか彼女があの神殿から出て来るとは思わなかった。だけど、メリュジーナがこの場に来てくれたのはラッキーだ。
「メリュジーナ! 悪いが俺はこの先にある洞窟に用がある。邪魔しているモンスターたちを蹴散らして道を作ってくれ!」
『分かりました!
漆黒のドラゴンが口を開けて灼熱の炎を上空から吐くと、前方にいるモンスターたちは燃やし尽くされ、灰へと変わる。
これで道は開かれた。今ならモンスターハウスの洞窟に向かうことができる。
「ルナさんはここでメリュジーナと連携を取ってくれ。生き残ったモンスターの掃討を頼む」
「テオ君待って! これを持って行って!」
今から元凶のもとに向かおうとすると、ルナさんが呼び止める。彼女はショルダーバッグ型のアイテムボックスから、クリスタルを取り出すと俺に手渡す。
「これは転移石」
「うん。たぶんテオ君なら大丈夫だって信じている。でも、何が起きるか分からないから念のために持っていて」
「分かった。ありがとう。万が一の時には使わせてもらう」
ルナさんに礼を言い、洞窟までの道を見る。
メリュジーナの火炎から逃れたが、転倒してしまったモンスターたちが起き上がる。そろそろこの場を抜けないと妨害してくるだろうな。
「スピードスター」
俊足の魔法を発動して一気に駆け抜ける。
人が全力で走っている場合、足にかかる負荷は片足で跳ねる動作で30パーセントしかなく、まだ余裕があるのだ。
この魔法は、走ることに必要な筋肉の収縮速度を速くすることで、通常よりも速く走ることを可能にする。
その最高速度は、理論上で時速56キロから64キロと言われている。
素早く走り、倒れているモンスターたちの間を通り抜ける。すると前方に洞窟のようなものが見えた。
あれがモンスターハウスと呼ばれる洞窟か。
「ファイヤーボール!」
火球を生み出し、松明代わりに使う。ファイヤーボールが洞窟内を明るく照らした。
場所がどこなのか分からない。だけど、探査魔法を使えばある程度場所を絞り込むことができるはずだ。
「エコーローケーション」
続けて探査魔法を発動させ、音波を放つ。
しばらくすると、音が跳ね返って来た。この洞窟に何者かがいる証拠だ。
イルムガルドたちかもしれないな。本音を言えば顔を見たくないけど、そこに向かうしかないだろう。
音が跳ね返った場所に向かって走ると、突如岩を突き破って無数の触手が現れる。
咄嗟の出来事であり、回避する間もなく捕まってしまう。
「何だこの触手は! 離せ! アイシクル!」
空気中の酸素と水素が結合し、水分子のクラスターによって水が出現すると、三角錐を形成。
その後、水の気温が下がり、熱エネルギーが極端に低くなったことで氷へと変化、複数の氷柱を作り上げると一気に解き放つ。
放たれた氷柱は触手を貫き、切断すると拘束から逃れた。切断された触手は蛇のように蠢きながら、通路の奥へと戻って行く。
「今のは何だったんだ」
気になってしまうが、今はそんなことよりも先に進むのが先だ。
足を一歩前に出したその時、ズシン、ズシンと振動が起きそうな重低音の足音が聞こえてきた。
明かり代わりに使っている火球を奥に移動させて様子を見ると、宝箱が独りでに動きこちらに向かってくる。
「おい、おい、天変地異の前触れか? トラップモンスターがその場に留まらないで移動するなんて普通あり得ないぞ」
一定の距離を空けた状態で宝箱は止まる。そして上蓋が開いたかと思うと、無数の触手が飛び出して襲いかかってきた。
さっきの触手はこいつのものだったのか。
「悪いが、お前の腹の中に入るつもりはない。倒させてもらうシャクルアイス!」
魔法を発動すると、空気中の酸素と水素が磁石のように引き合い、電気的な力によって水素結合を起こす。
これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の塊が出現。
水の一部を切り離し、蛇のように触手に向けて飛び出すと、敵の足首に巻きつく。
すると今度は巻きついた水に限定して気温が下がり、水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなる。
それにより、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷へと変化した。
氷の重みで触手は地面に倒れ、簡単には持ち上がらない状態になっている。
「悪いが、こいつで終わらせる。ゼイゾナンス・バイブレーション」
魔法を発動した瞬間、宝箱にヒビが入る。そしてそのヒビが広がり、全体に行き渡ると最後は砕けた。
この魔法は、物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することが可能だ。
トラップモンスターが動いた際に生じる振動に合わせ、同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、宝箱が疲労破壊を起こしたのだ。
残った触手は、本体が破壊されたことで黒い液体となって地面に染み込んでいく。
呑気にモンスターの最後を見ている場合ではないな。速く奥に進まないと。
急いでこの場から離れ、目的地に向かう。
広い場所に出たその時、俺の視界に映ったのは、倒れるイルムガルドと近くにいるモンスターの姿だった。
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