第二話 ハイクラスモンスター

「エコーロケーション!」


 ギルドから出た俺は、敵の居場所を探るために探査魔法を発動する。


 超音波を発生させると、前方に向かって飛んでいく。


 前方がただの虚空なら、音はそのまま消えていくが、何かに触れると音波が跳ね返ってくる。


 これで相手の位置を割り出すことが可能だ。


 だが、これが非常に難しい。


 跳ね返った音を正確に捉えないといけないので、音の角度を正確に測定しなければ、相手のいる方向がわからなくなる。


 さらに、音を発進してから反射するまでの時間を測定しないと、相手までの距離がわからないのだ。


 しかし、これさえクリアすれば大きな情報量になる。


 反射の強さから、相手の大きさも判断できる。


 更に音波の発生源と、観測者との相対的な速度の存在によって、音と動く物体の波の周波数が異なって観測できることで、相手が遠ざかっているか、近づいているかも知ることが可能だ。


 跳ね返ってくる音波の中でも周波数が異なって観測できる場所がある。


「ルナさん、こっちの方角からだ」


 地を蹴って走り、こちらに向かっている集団のもとに向かう。


 町の門を抜けてひたすら走ると、雄叫びと共に土煙が舞い上がっているのが見えた。


 既にモンスターたちは、町の近付くまで来ている。ここで食い止めなければ。


 こちらに向かって走っているのは、ゴブリンやオークといった比較的に弱い種族の集団だ。でも、数が多すぎる。


 数の暴力と言う言葉があるように、一騎当千の戦士でもなければ、いくら力の弱い者が相手でも勝つのは難しい。


 この場合は遠距離からの攻撃が有効だ。


「シャクルアイス!」


 魔法を発動すると、空気中の酸素と水素が磁石のように引き合い、電気的な力によって水素結合を起こす。


 これにより水分子間がつながり、水分子のクラスターが形成され、水の塊が出現。


 水の一部を切り離し、蛇のようにモンスターたちに向けて飛び出すと、敵の足首に巻きつく。


 すると今度は巻きついた水に限定して気温が下がり、水分子が運動するための熱エネルギーが極端に低くなる。


 それにより、水分子は動きを止めてお互いに結合して氷へと変化した。


 分子同士の間にできた隙間の分だけ体積が増えたからだろう。


 氷の拘束具は、ゴブリンやオークの足に密着し、バランスを崩した敵はその場で転倒。


 起き上がることすら困難な状況に陥っていた。


 突然倒れた最前線のモンスターを、他のモンスターが踏み付けて転倒し、ドミノ倒しのようになっている。


 おそらく踏まれた最前線の敵は圧死しているだろう。


 集団でいることが逆に仇となったな。


 敵同士で戦力を削るも、巻き込まれなかったモンスターは、仲間の死屍を踏み付けながら前進してくる。


 おいおい、いくらモンスターでも仲間の死体を踏み付けるようなことはするなよ。


「テオ君、私もやるわ! ファイヤーボール!」


 ルナさんが魔法を発動して攻撃するも、素早い動きで避けるゴブリンがいた。


 そいつらはルナさんの火球を軽々と避け、憎たらしいほどニヤついていた。


「油断したわ。まさかゴブリン如きに躱されるなんて。今度は油断しないのだから! これで終わりよ!」


 再びルナさんが火球を放つ。しかしゴブリンは素早い動きで躱し、攻撃を避けている。


 これはさすがに変だ。最初避けたことはともかく、2発目の攻撃はルナさんが本気に近い魔力を使い、火球を放った。


 普通のゴブリンならまず避けられない。


 だけど、それを可能にしていると言うことは、もしかして……。


 脳裏に浮かんだことを確かめるために、俺も攻撃してみるか。


「ウォーターカッター!」


 魔法を発動すると空気中の水分が集まり、知覚できる量にまで拡大する。


 そして今度は水の塊が加圧により、直径1ミリほどの厚さに形状を変えると、ゴブリンに飛ばす。


 勢いのある水が敵の右腕にヒットすると、水流が当たった部分を吹き飛ばし、切断された箇所から鮮血が噴き出していた。


「心臓を狙ったはずなのに、狙いが逸れてしまった。やっぱりあのゴブリンはハイクラスだ!」


 人間に職業や階級があるように、魔物にもそれが存在する。


 ほとんどが今まで倒したゴブリンやオークのように、ノーマル種である。


 だが、この枠から脱け出して一段階進化した魔物が、ハイクラスの階級を保有するのだ。


 ありふれたノーマル種と見た目がまったく同じであるため、区別が難しい。そして通常よりも優れた能力をもつ。


 もし、あのゴブリンがハイクラスならば、こちらの攻撃を躱され続けているのにも納得がいく。


 こちらの攻撃を回避できるほどの瞬発力があるのなら、それを封じ込めばいいだけの話だ。


「悪いが次は必ず攻撃を受けてもらう。サルコペニア!」


 デバフの魔法が発動した瞬間、ハイクラスのゴブリンの動きが鈍くなった。


 筋肉の量を減少させる弱体化が成功したな。


 魔法の効果が発揮され、筋肉の元となる筋タンパク質の分解が、筋タンパク質の合成を上回せる。それにより筋肉の量を減少させた。


 デバフの影響で全身の筋力低下が発生し、攻撃力、防御力、素早さが著しく低くなっている。


 今なら攻撃を当てることなど容易だろう。


「ルナさん! 今なら攻撃を当てられる!」


「テオ君ありがとう! 食らいなさい! ファイヤーボール!」


 目の端を吊り上げ、ルナさんは火球を放つ。


 炎の球体はハイゴブリンに当たり、炎に包まれた。


 ファイヤーボールで火のダルマ状態となったモンスターは、その場に倒れて動かなくなる。


 どうやらあのゴブリンは、単純に足の筋肉の収縮速度が速いだけだったようだな。


 だけど、まだまだモンスターの軍勢は数を一部しか減らしていない。ここからが本番のようなものだろう。


 まだあの中にハイクラスのモンスターがいると思って良いいはず。


「さぁ、来いよ。お前ら全員俺たちが倒してやる」

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