第十二話 没落への始まり

~イルムガルド視点~




「ここがギルドマスターの言っていたモンスターハウスか」


 俺ことイルムガルドは、仲間のメルセデスとシモン、それに護衛の兵士15人を引き連れ、新たに発見された洞窟の前に来ていた。


「洞窟の探索、気を付けた方が良さそうね。モンスターハウスと呼ばれる類の洞窟は、人を殺すために様々なトラップが仕掛けられているもの」


 メルセデスが注意を促すが、そんなことは俺にもわかっている。そのために護衛の兵士肉壁を連れて来たのだから。


「おい、お前ら分かっているよな?」


「は、はい! 我々が先行して安全を確認しますのでご安心を」


 兵士たちに声をかけると、1人の兵士が答える。


 緊張をしているのか、声が震えていた。


 まぁ、今から行くのは普通の洞窟ではなく、何者かが人工的に作った洞窟だ。緊張してしまうのも仕方がない。


 だけど俺は緊張も恐怖も感じない。何せ優秀な護衛の兵士肉壁がいるのだ。何も怖いことなどない。


「メルセデス、こいつらが前方を確認しやすくするために、魔法で照らしてくれ」


「分かったわ。では行きましょう」


 俺たちは洞窟の中に入って行くと、次第に明かりがなくなり暗くなってくる。


「ライト」


 メルセデスが魔法を使い、辺りが明るく照らされる。


「ほら、これで見やすくなっただろう! さっさと進めよ!」


 声を上げると、兵士たちは安全を確認するために先に進んで行く。


 たく、何をチンタラとしているんだ。緊張しているのかもしれないが、そんなにゆっくりと歩いていたら、今日中に依頼を達成できないじゃないか。


「おい! もっと早く歩けよ! でなければお前たちにやる予定の報酬を減額するぞ!」


「は、はい! すみません!」


 支払う金を減らす。そのように脅すと、兵士たちは早歩きを始め、歩くスピードが上がった。この速度なら、今日中に洞窟内を調べあげることができそうだな。


「イルムガルド様、こちらの通路に宝箱がありました。ですが、1体のゴブリンがいます」


「ほう。宝箱か」


 モンスターハウスの宝箱は、トラップの可能性が高い。だけどそうでなかった場合は、売却すると高額な金が手に入るレアな素材やアイテムが入っていることがある。


 とりあえずは様子を見るだけでもしておくとするか。


「分かった。まずはそっちに行こう。案内してくれ」


 案内するように伝え、兵士の誘導のもと宝箱がある場所へと訪れる。


 開けた場所に入ると、宝箱にしがみつくようにして1体のゴブリンがいた。


 モンスターは俺たちに気付くと宝箱から降りて棍棒を握る。


 報告通りにゴブリンが1体いるだけだな。まずはこの場にトラップが仕掛けられていないか調べるか。


「おい、そこのお前、あのゴブリンを倒して来い」


「わ、私ですか」


「そうだ。お前だ! 早くあのザコを倒して来い!」


 兵士の男を怒鳴り付けると、彼は体を小刻みに震わせていた。


 何を緊張しやがる。相手はザコモンスターが1匹だけじゃないか。


「早く行け! でないとお前だけ報酬を減らすぞ」


 脅しの言葉を投げかけると、兵士の男はゴブリンに突撃して行く。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 兵士の気迫に押されてか、ゴブリンの動きが止まり、その隙を突いて兵士がモンスターを叩き斬る。


『ぐぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!』


 斬られたゴブリンは、断末魔の声を上げながら鮮血を噴き出すと地面に倒れた。


 トラップが発動するような気配はないな。


 ゴブリンを倒した兵士も、安堵の表情を浮かべていた。きっとトラップが発動せずに済んで安心したのだろう。


 さてと、せっかくだから宝箱を開けるとしますか。


 宝箱に近付こうとして、足を一歩前に出したその時、腕を引っ張られた。振り向くと、メルセデスが心配そうな顔を浮かべている。


「ねぇ、念のためにあの宝物を鑑定したほうが良いんじゃない?」


「確かにそうだな」


 俺は連れて来た兵士たちを見る。


 こいつらも一応魔法は使えるが、鑑定魔法が使えるやつらじゃない。ここはアイテムを使うとするか。


「メルセデス、鑑定アイテムを出せ」


「え? 私は用意していないわよ。シモン、鑑定アイテムを出して」


「俺も持って来ていないぞ。荷物持ちやアイテムの管理はテオの役割だったからな」


 メルセデスもシモンも鑑定アイテムどころか全てのアイテムを持って来ていないと言い、俺は空いた口が塞がらなかった。


 まさかテオを追放して早々、こんな面倒なことになるとは思わなかった。


 だが、今までの癖と言うのはそう簡単には治らないもの。今回だけは、この失態に関しては目を瞑るとしよう。


 こうなれば、賭けに出て実際に宝箱を開けるしかない。


「おい、そこのお前」


「私ですか?」


「そうだ。お前、あの宝箱を開けて中身を確認しろ」


 宝箱を開けて中身を確認するように命令を出すと、兵士の男は顔を青ざめさせながら体を震わせる。


 俺は無言であったが、彼を睨みつけた。


「わ、分かりました……くっ、私の命もここまでか」


 兵士の男は覚悟を決めたようで、体を震わせたまま宝箱に近付く。


 モンスターハウスの宝箱はトラップが多い。この洞窟では宝箱を開けるのが自殺行為であり、基本的にはスルーするべき。


 だが、もし本当にお宝の入った宝箱なら、この機会を逃すのは惜しい。


「シモン、念のためにガードをしろ」


「分かった」


 シモンが俺の前に立つと、大楯を地面に突き刺し、俺の身を守る体制に入る。


 さて、トラップの可能性が高いが、何が起きる? 落とし穴か? それとも爆破か?


 どんなトラップが発動しても、俺さえ生き残っていればそれで良い。メルセデスやシモンも含め、こいつらは全員俺の道具だ。


 固唾を呑んで見守ると、宝箱の上蓋が開かれた。その瞬間、無数の触手が兵士の男に絡み付く。


 チッ、よりにもよってトラップモンスターかよ。1番タチが悪いじゃないか。


「た、助けてください! 私はまだ死にたくない」


 兵士の男が懇願するが、俺は助ける気がない。


 呪うのであれば、己の運のなさを恨むのだな。


 兵士の男が宝箱の中に引き摺り込まれると上蓋が閉じた。


「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 モンスターに食われた男の悲鳴が断末魔となって洞窟内に響き渡る。


 宝箱の隙間から血が滴り落ち、ホラー感が一層高まった。


「トラップだと分かったし、さっさと先に進むぞ」


 仲間たちに声をかけ、来た道を引き返そうとしたその時、再び宝箱の上蓋が開き、無数の触手が襲い掛かってくる。


 ちくしょうが! 生贄1人を捧げたくらいでは、満足してくれないのかよ!

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