第十三話 犠牲が多く出たがお前たちは道具の役目を果たした
~イルムガルド視点~
俺ことイルムガルドは、迫り来る触手を叩き斬りながら苛立っている。
くそう。食べられた兵士では満足しないのかよ。
「捕まってしまった! イルムガルド様! お助けください!」
戦闘中に剣を落としてしまった兵士の腕に触手が絡み付き、兵士の男は俺に助けを求める。
しかしそんなやつは無視して自分の身を守ることに専念した。
これであいつが食われて満足してくれたなら、被害は最小限に収めることができる。
悪いが、捕まったやつの役目は生贄だ。
だけど、ここで平然としているのも周囲から変に思われるよな。ここは苦戦して助けられないことにしておこう。
「必ず助ける! 踏ん張るんだ! くそう! 邪魔をするな!」
苦戦を演じて周囲から変に思われないように演技をする中、心の中でトラップモンスターのトラップイーターが満足するように願った。
触手に捕まらないように気を配りながら戦い、囚われた兵士の行く末を見守る。
「嫌だ! 死にたくない! イルムガルド様! メルセデス様! シモン様! 助けてください!」
敵に囚われた兵士が涙を流しながら懇願する。
誰が消耗品の道具のために危険を冒すかよ。お前はモンスターの餌となって、俺が逃げるのに役立て。お前らのような庶民は、貴族の道具となるために生まれて来たようなものだ。
「嫌だあああああああああぁぁぁぁぁぁぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
触手に捕まった兵士が、宝箱の中に引き摺り込まれる。すると上蓋が閉まり、兵士の断末魔が響く。
今度こそ満足してくれたか?
モンスターの腹が満たされることを願う。しかしそんな願いを嘲笑うかのように、再度上蓋が開いた。
なんと今度は、俺に向かって複数の触手が襲い掛かかってくるではないか。
なんて事だ。今度は俺がターゲットにされてしまったか。貴族の肉なんて不味いに決まっている。
「シモン!」
「分かっている。俺はお前の盾だ」
シモンが大楯を振り回して触手を弾く。だが、多勢に無勢と言う言葉があるように、無数の触手をたったひとつの大楯でガードしきることは不可能だった。
隙を突いて盾を横切り、俺を捕らえようと触手が襲い掛かる。
どうして俺なんだ。貴族の肉が食いたければシモンやメルセデスでもいいじゃないか。こんなところで食われてやるかよ。こいつを変わりに食わせてやる。
近くにいた兵士を蹴り飛ばし、触手に触れさせる。
すると、クモが糸を出して獲物を捉えるかのように、無数の触手が兵士に絡まり、
危なかったな。危うく食われてしまうところだった。
これで生贄は3人目、好い加減に満足してくれるだろう。
3人目の兵士も、これまでのやつらのように泣き叫んでいた。だが、俺たちは助けることなく見守ることに徹する。
兵士が食われた後、直ぐに上蓋が開いて触手が勢い良く飛び出す。
こいつの腹は無尽蔵か! いや、そもそもモンスターハウスの洞窟に迷い込む人間など、ほとんどいない。動物が冬眠のために秋に餌を食べて溜め込むように、獲物がいる内に食べてしまおうと考えているのかもしれない。
もしそうであるのなら、満腹になるのを待つよりも、この場から逃げ出した方が生き延びる確率は高いはず。
「撤退だ! メルセデス! シモン! 逃げるぞ! 護衛の兵士は全員、
命令を下し、俺は脱兎の如く、全速力で来た道を引き返す。
後方から次々と兵士の悲鳴が聞こえてくる。
どうやらあいつらは道具としての役目を果たしているようだな。
ある程度走ったところで、状況が気になり後方を見る。
「嘘だろう。これは何かの悪夢か」
触手が俺たちを追い掛けて来たのだ。俺の後にはメルセデスとシモン、それに護衛の兵士が2人。
なんて事だ。あれだけいた兵士が立った2人になってしまった。
このままではまずい。いずれ俺までモンスターの餌食になってしまう可能性がある。それだけは絶対に避けなければ。
考えろ。何か突破口があるはずだ。
走りながら思考を巡らせると、あるアイディアが閃く。
さすが俺だ。こんな土壇場になっても、逃げ延びる方法を思い付くなんて。
「シモン! 1番後ろにいる兵士を蹴り飛ばせ!」
「はぁ、はぁ、はぁ、え?」
「分かった。あいつだな」
俺の指示が聞こえた兵士は、走りながらアホ面を晒す。そしてシモンが最後尾の兵士を蹴り飛ばすと、触手は転倒した男を逃さないように絡み付く。
「今だ! メルセデス! 土魔法で道を塞げ!」
「分かったわ。ロックウォール!」
続けてメルセデスが魔法を発動すると、通路から岩の壁が出現して道を塞ぐ。
走りながら時々後方を見て確認すると、触手が追い掛けて来ていないことに気付く。
どうやら逃げ切ったようだな。
徐々に走る速度を落としてその場に立ち止まり、両膝に手を置いて呼吸を整える。
くそう。やばい。吐き気がして来た。こんなに全速力で走ったのは久しぶりだ。
若い頃はこれくらい平気だったはずなのにな。本当に年は取りたくないものだ。
「生き残った……のは……俺たち……と……兵士が1人……か」
呼吸を整えながら状況を確認する。
くそう。なんて失態だ。こんなことは初めてじゃないか。
今まではテオがアイテムの管理をしたり、何かと口出しをしたりしてきた。テオの言葉に苛つくこともあったが、やつの言う通りにすると何かと上手く行くことが多かった。
あいつを追放したからこのような結果になってしまったのか。
一瞬そのようなことが脳裏を過ったが、直ぐにその考えを否定する。
そんな訳がない。きっとこれは偶然に決まっている。たまたま不運が起きただけだ。そうに決まっている。
そうだ。俺は油断していただけだ。もう油断はしない。この失敗を活かし、この依頼を遂行してみせる。
「お前ら、休憩は終わりだ! 先を急ぐぞ」
生き残ったメンバーに声をかけ、まだ行っていない通路を歩く。
しばらく歩くと広い空間に出た。中央には巨大な岩があり、札のようなものが貼り付けてあった。
何だ? あれは?
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