第十一話 どうして証が赤い糸になる
フェアリードラゴンの尻尾に巻きつかれ、身動きを封じられた。
ドラゴンが大きく口を開け、鋭利な牙を見せる。このまま食い殺すつもりか。
だけどその前に抜け出してやる。
『お待ちしておりました
「え?
『あなた様は見事わたしを倒し、試練を突破しました。あなた様こそ、わたしが求めていたお方です』
「ちょと、どう言うことなの? 試練って何? あなた、この神殿に住み着いた悪いドラゴンではないの?」
フェアリードラゴンの口から聞かされる意味不明な言葉を聞いて、ルナさんも駆け寄ってくる。
『わたしが悪いドラゴン? なんのこと? わたしはお仕えする方をずっと待っていただけですが?』
最初にも違和感を覚えていたけど、やっぱり話が噛み合っていないな。
「私たちは高難易度の依頼として、あなたの討伐を頼まれているのよ」
ルナさんがショルダーバッグ型のアイテムボックスから、ボロボロの依頼書を取り出してフェアリードラゴンに見せる。
『おや、懐かしいものをお持ちですね。わたしが100年前にギルドマスターにお願いして、作っていただいたものではないですか。しかも虫食いで穴だらけ。確かにこれなら、わたしを討伐する内容だと思ってしまっても仕方がありませんね』
100年前って言うと、当然勤務中に居眠りをしていたあのギルドマスターは生きてはない。つまり、何年もの間放置されてしまい、引き継ぎの際に説明がされていなかったのだろう。だからあんなにボロボロの状態になって、勘違いをしていたと言う訳だ。
『本当の内容はこうです。【神殿に住むドラゴンは試練をクリアして、己を倒すような主を求めている。やつを討伐することができれば、ドラゴンの主となり、その証を授けてもらうことができる。それは喜ばしいものだ】と言う内容だったはず』
ドラゴンの話しを聞きながら、虫食いの部分を頭の中で照らし合わせてみる。
うん、内容的にはおかしな部分はないな。
「それにしても、急に性格って言うかキャラが変わったか? 口調や一人称も変わっているよな」
「あ、アレはただ単にキャラ付けだよ。あっちの方が試練のドラゴンぽいかなと思って。こっちの方が本当のわたしです」
「そうなんだね。でも、どうしようか? これだと任務失敗になってしまうよね?」
『なら、わたしが直接町に行って事情を話そうか? 新しいギルドマスターが何か文句を言ってきたら潰すから』
「それだけはやめてくれ。お前が町に来たら大騒ぎになる」
『それなら、わたしの尻尾にあるリボンを持って行ってよ。それが試練を乗り越えた者に与えるわたしと
尻尾にあるリボンに手を伸ばしたいところだが、生憎と俺はメリュジーナの尻尾に巻きつかれている。だから取ることができない。
「なぁ、早くこの尻尾から解放しくれよ。じゃないとリボンを取れない」
「えー、
「まぁ、そうなんだけど面倒臭いんだよ。魔法の効果が切れたから、また発動しないといけない。無駄に魔力を消費したくない」
『なるほど、わかった』
メリュジーナが尻尾の力を緩めて解放すると、俺は先端にあるリボンに手を伸ばして取り外す。
とりあえずはこれをギルドマスターに見せるか。あの男の性格からして、信じようとはしないと思うがな。
『試練を乗り越えた証を渡したところで、
「ああ、俺の名はテオだ」
「テオ様ですね。とても良いお名前です。では、ご報告したらまたこの神殿に来てください。
「ああ、そうさせてもらう」
フェアリードラゴンのメリュジーナと別れ、俺たちは依頼達成の報告をしにギルドに戻ることにした。
ギルドの扉を開けて中に入ると、フロントを見渡す。するとギルドマスターの姿が見えた。
「よぉ! ギルドマスター」
「うん? なんだお前か。まだ神殿に行っていなかったのか。怖くなったのならこの町から出て行け。あれ以外でお前にさせてやる依頼なんかないからな」
ギルドマスターに声をかけると、彼は俺たちが神殿に行っていないと思い込んだようだ。この町から出て行けと言ってくる。
「ああ、この町からは出て行くさ。でも、その前に報酬の方は貰っておかないと」
「報酬だと?」
「ああ、神殿のドラゴンは倒した。だから報酬をくれ」
「ダハハハハ! とうとう金に困って気でも狂ったか。そんな嘘に騙される俺ではない」
事実を告げると、ギルドマスターは腹を抱えて笑い出す。だけどこの反応は想定内だ。
「本当よ! テオ君はドラゴンを倒したのだから!」
「何を言っておる。そんな嘘は通用しない。お前が生きてここにいる。それはつまり、お前たちが神殿に行っていない証拠だ。あのドラゴンの試練に挑戦したものは全て死んでおる」
ギルドマスターは過去の歴史から推察して物事を語る。しかし、それは妄想の範囲でしかない。
とりあえずはメリュジーナから貰ったリボンを見せてみるか。
ポケットに手を突っ込み、赤いリボンを彼に見せる。
「これがドラゴンを倒したときの戦利品だ」
「それは……」
神殿のドラゴンの試練を乗り越えた証を提出した瞬間、ギルドマスターの顔色が悪くなった。
動揺しているようで、眼球が小さく上下左右に動いており、眼振を起こしている。
この反応と言い、さっきの言葉といい、やっぱりギルドマスターは、メリュジーナの試練のことを知っている。だけど知らないふりをして、俺に依頼を受けさせた。
どうせ勝てるはずがない。そう思っていたのに、俺は試練をクリアしてその証拠を提出した。
彼の精神的ダメージは相当なもののはず。
「そ、そそ、そんな……ばか……な。本当にあのドラゴンを……倒したと言うのか」
「だからさっきからそう言っているじゃないの! テオ君はあのドラゴンを倒してその証を貰ってきたわ」
再びルナさんが嘘ではないことを告げると、ギルドマスターは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。
そんな時、ギルドの扉が勢い良く開かれると鎧を来た男が姿を見せる。
「た……助けてくれ……このままではイルムガルドどころか……この町が滅びる」
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