第四話 俺の魔法が凄すぎてヤバすぎる件

 ルナさんと握手を交わしていると、近くの茂みが風もないのに動き出す。


「テオ君は離れていて」


 握っていた手を離し、ルナさんは構えると茂みを見つめる。


 もしかしてさっきみたいに魔法で攻撃するのか。とりあえずは、彼女が言ったとおりに離れておくとするか。


 ルナさんの指示に従い、数歩下がって彼女から距離を置く。


 すると、茂みの中から一匹の生き物が飛び出してきた。


 薄い茶色の毛並みに長い耳、そして口から飛び出た長い前歯がトレードマークの小動物だ。


「ウサギ?」


 茂みの中から飛び出して来たのは野ウサギだった。


 なんだ。てっきりまた、シルバーファングみたいなモンスターが出てくるのかと思った。


「なんだ。ウサギちゃんだったんだ。危うく魔法を放つところだったよ」


 安堵の表情を浮かべながら、ルナさんはウサギに近付くと抱き抱える。


 簡単に捕まった野ウサギであるが、どうやら抱き抱えられるのが嫌だったようだ。直ぐに暴れると彼女の腕から飛び降り、地面に着地すると同時に再び跳ね、この場から去って行く。


「もう、もう少しモフモフさせてよ」


 ウサギが逃げて行くのが不満だったのか、ルナさんは少しだけ頬を膨らませていた。


「まぁ、魔法で攻撃をしようとしていたから、本能的に逃げ出したのかもしれないわね」


 魔法と言うワードが耳に入り、彼女が放った火球を思い出す。


 魔法か。俺も魔法が使えたら、少しは戦えるかもしれない。それに様々な魔法を操る姿は、見ていて格好良いものだ。できることなら俺も使いたい。


「あのう、ルナさん」


「何?」


「俺に魔法を教えてくれませんか?」


 魔法を教えて欲しい。そう彼女に伝えると、ルナさんは驚いた様子をみせる。


「ま、魔法を教えて欲しいってどういうこと? 英雄の卵なら、既に魔法とか習っていると思うのだけど?」


「イルムガルドからは習っていません。俺が成人してから教えてもらう約束だったのです。でも、今日追放されたから、習う機会がなくって」


 事情を話すと、どうやらルナさんは納得してくれたようだ。柔軟な笑みを浮かべる。


「分かった。私で良いのなら教えるわ」


「ありがとうございます」


「確かこの先に湖があったから、そこで練習をしましょう」


 湖がある場所に向けてルナさんが歩き出し、彼女に付いて行く。


 しばらく歩くと開けた場所に出た。中央には湖があり、太陽光が反射して水面がキラキラと輝いている。


「さて、それじゃ始めましょうか。まずは基本となる四大元素の魔法からやってみましょうか」


「四大元素の魔法と言いますと、水、火、風、土ですね」


「そうよ。さすがに基本であって、その辺はわかっているわね。まずは私が実演してみせるから見ていて」


 ルナさんが右手を前に出し、俺は彼女の手を注視する。するとルナさんの手のひらから炎が現れた。


「体内にある魔力を使って、無から有を生み出すように炎を頭の中で描くの。すると使用者の頭の中にあるものを魔力が読み取り、形を成すわ」


 説明をしながら、ルナさんは瞼を閉じる。すると小さい火が大きくなり、球体の形となった。


「これがファイヤーボールね。頭の中で炎が球体に変化するように、頭の中で描けばできるから。まずは失敗しても良いからやってみて。何事も挑戦が大事だから」


 やってみるように促され、俺は右手を前に出す。


 ようは頭の中でイメージを膨らませることだな。例えばライターのように小さい炎をイメージすれば小さい炎が出る。


 思考を巡らせていると、ある違和感を覚えた。


 あれ? どうして俺はライターって言うものを知っているんだ?


 実物は見たことがない。だけどどんな形で、どのように使えば炎が出るのかを知っている。


 これが俺のユニークスキルだと言うのだろうか。


 この世界に存在しないものや、原理などの知識が手に取るように分かる。


 まぁ良いや。そんなことよりも今は、魔法を発動させるのが先だ。


 火は酸素を含む物質が急激に化合して化学反応が起こして燃焼する。その結果、多量の熱と光を伴う現象のことを指す。


 それを頭の中でイメージしてみよう。


 頭の中で酸素を含む物質が急激に化合して化学反応が起きる様子を頭の中で描く。すると手の平には炎が発生した。


「そう。その調子よ。今度は球体にしてみて」


 ルナさんの指示に従い、炎が丸みを帯びる様子をイメージする。頭の中で描いたものが、魔力に影響を及ぼして形を変えた。


「やったわね。一発でファイヤーボールを完成させるなんて。やっぱりテオ君は英雄の素質があるわ」


 初めての魔法を完成させて、それを誉めてくれるルナさん。彼女の喜ぶ姿を見て、俺も嬉しくなった。


 よし、やる気が起きた。さらにこの火球に変化を齎そう。


 炎の勢いを上げるには、更に継続的に酸素を結びつける必要がある。この火球の周辺に風が吹き込み、火球が大きくなるイメージだ。


 右手を掲げて更にイメージを膨らませると、火球はみるみる巨大化していく。


「うそ、あり得ないわ。初めての魔法でデスボールを完成させるなんて」


 イメージで作り上げた魔法を見て、ルナさんが驚愕していた。


 これくらいに巨大化すると、デスボールって言う魔法に名称が変わるんだ。


「テオ君! 早くイメージを消して! じゃないと木に燃え移るわ!」


 ルナさんが声を上げ、俺は我に返る。巨大化した火球が木に触れてしまい、森を燃やし始めていたのだ。


 やばい! 早く消火しないと山火事になる!

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