第二話 裸で追い出された俺は、森の中で運命の出会いをする
あれからどれくらい経ったのだろうか? 体に何かが当たる感覚を覚えて、俺は目を覚ました。
「雨……か」
雨粒が裸体に当たり、冷たい水滴が体温を奪っていく。
最悪だ。よりにもよってこんな日に降らなくてもいいのに。
ゆっくりと体を起こし、周辺を見る。するとどこからか異臭が漂ってきた。
この臭い、どうやらスラム街に連れて来られたようだ。
イルムガルドが管理しているこの町は、どうにか普通の暮らしができている人のエリア。食べるものさえ苦労している人が住む、スラム街のエリアに分かれてある。
さすがに貴族の敷地内に、裸体の男を放置しておく訳にもいかないよな。
「取り敢えずは、雨を凌ぐ場所を探さないと」
雨宿りをする場所を探すが、スラム街においてはそのような場所はほとんどない。
いや、雨宿りよりも先に探すのは、身に着けるものだ。このままでは、万が一にでも兵士にでも捕まれば、公然猥褻で牢屋行きにされてしまう。
雨宿りを諦め、先に衣服となるものを探すことにする。
荒れ果てた道を歩くと、スラム街の住人とすれ違う。
彼らは憐れみの眼差しを向けたり、自分の方がマシだと思って安堵の表情を浮かべたりしている。
今すれ違っているのが男ばかりで良かった。もし、女性にこの姿を見られでもしたら、トラウマを植え付けることになるかもしれない。
「ちょっと、そこのお兄さん。あんた見かけない顔だな。新入りかい?」
道を歩いていると、男性に声をかけられた。彼の頭は殆ど毛がなくなっており、歯も数本失っている。
「まぁ、そんなところだ」
「野盗にでも会ったのか? 身包み剥がされて可愛そうだな」
「ああ、とんでもない族に襲われた」
あんな奴らは貴族なんてものじゃない。心内に秘めているのは、己の欲望を満たすことしか考えていない悪逆非道な野盗そのものだ。
「それは可愛そうだな。なんとかしてあげたいところだけど、ワシも今を生きるのがやっとだ」
「いえ、話しかけてくれただけで嬉しかったです。誰も俺を見て見ぬ振りでしたので」
本音を言えば、パンツだけでも良いから身に着けるものをくれと言いたい。だけどこんな薄汚れた俺に声をかけて、同情してくれた人に
「お前さんにくれてやるものはないが、付いて来い。良い場所に案内してやろう」
ボロボロの衣服を着たおじさんは、スラム街の路地に歩いて行く。
いったいどこに連れて行こうとしているのだろう。まぁ、いいや。どうせ行くところがないんだ。神様の導きだと思って付いて行くとしよう。
彼に付いて行くと、案内された場所は袋小路になっている場所だった。
「ゴミ溜めがあるだけじゃないですか。まさか残飯を漁れと言うのですか?」
「違う。悪いが、ゴミ袋を退かすのを手伝ってくれないか」
山積みにされたゴミ袋を退かすのを手伝うように言われ、よく分からない中、ゴミの入った袋を退かす。
生ゴミの臭いが鼻腔を刺激して若干の吐き気を我慢していると、ゴミ溜めの中から穴が現れる。
「この穴は、町の外にある森に繋がっている。この穴を抜けた先で、お前は運命が大きく変わるほどの出来事が起きる」
「出来事って、適当なことを言わないでくださいよ」
「適当ではない。落ちぶれてしまっているが、ワシは昔、凄腕の占い師だったのだよ。ユニークスキルの未来予知で様々な未来を見てきた。お前は森で運命の出会いを果たし、優秀な人物となってこの世界を救う救世主となる」
彼の言葉を聞き、イルムガルドの言葉を思い出す。
また占いかよ。もう、占いなんてものに人生を振り回されるのはごめんだ。
だけど、不思議とこの男からは嘘を言っているようには感じられない。
運命の出会いはともかく、町の外に出られるのなら、この穴の中に入っても良いだろう。
町の門は兵士が見張っている。今のこの姿では、外に出るどころか公然猥褻で捕まってしまう。
「分かりました。ここまでありがとうございます。もし、大金が入ったのなら、お礼をしに来ますので」
「ハハハ、なら、期待して待っておくとしよう。未来の英雄様だからな」
おじさんの言葉に苦笑いを浮かべつつも、決心をすると穴の中に入った。
穴の中はそれほど深くなく、五メートルほどだろうか。着地をすると前方を見る。
2人くらいは歩けそうな幅だな。高さも2メートルほどありそうだ。これなら普通に歩くことができる。
抜け穴の中を歩くこと体感で30分、出口に辿り着く。
野うさぎのように穴から顔を出して当たりを伺うと、どうやら雨は止んでいるようであった。
「とにかく、葉っぱでも良いから股間を隠すものを作らなければ」
下着代わりになりそうな葉っぱを探して森の中を
近くに獣がいるのか? 確か町の近くにある森には、モンスターも出たよな。
「まさか、運命が大きく変わる出来事って、獣やモンスターに殺されるって意味じゃないよな」
ポツリと言葉を漏らしたその時、茂みが動いて1匹のオオカミが現れる。
白い体毛に鋭い目付き、それに口から剥き出している鋭利な牙は、シルバーファングと呼ばれる魔物だ。
『ワオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!』
モンスターが遠吠えを上げた瞬間、茂みの中から他のシルバーファングが飛び出し、俺を囲む。
今の遠吠えは、俺を取り囲むための合図だったのか。
くそう。イルムガルドたちと依頼を受けていたときは、護衛の兵士や武器防具を身に付けていたのに、今は何も身に付けていない全裸だ。
どうやっても勝てるはずがない。
『ワオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!』
リーダーと思われるオオカミが吠えた瞬間、シルバーファングが一斉に襲い掛かる。
ああ、俺の人生は終わったな。来世では、貴族でなくて良いから、普通の家の子として生まれ変わりたい。
「ファイヤーボール!」
『キャウン!』
生きることを諦め、死を受け入れようとしたその時、火の玉が横切る。その火球はシルバーファングの肉体に当たるとモンスターを包み込み、肉体を燃やす。
今の火球は魔法?
「そこのあなた大丈夫ですか!」
女の子のソプラノボイスが聞こえ、振り返る。俺の背後にいた魔物も火だるまになっていた。
そんな中、赤い髪をモテの王道であるクラシカルストレートにしている女の子が駆け寄ってくる。
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