第2話 合コンの腐れ縁

「野宮さんて面白いよね」


「ほんと、お笑い担当って感じ」


「あはは、よく言われるー」


 河原のキャンプ場。大学生の男女三人ずつ。

 合コンの流れで定期的に遊びに行くようになったこの団体に、私は息苦しさを感じていた。


「えりちゃん、俺それ運ぶよ。重いでしょ」


「えー、助かるぅ。ありがと、のぶくん」


「野宮さんは運べるよね、なんてったって『野獣』だもんね」


「まあねー」


 折りたたみの木製の椅子を、私はトータル四つも抱えていた。

 浅黒い肌、剣道で鍛えた太い腕のせいで、力持ちキャラが定着している。


 くだらない話題に花を咲かせる友人たちを尻目に、私はテーブルのセッティングやら、テントのセッティングを黙々と進める。

 あの輪に入るより、こうしている方が楽だった。


「手伝うよ」


 やってきたのは山崎くん。

 密かに他の女の子二人が狙っている人物だ。寡黙でほとんど会話に加わってこないが、この中で私をイジらない唯一の人。


「ありがと」


「加わんないの」


 山崎くんは親指で友人たちを指差した。


「でもほら準備進めないと、いつまでもバーベキューできないし」


 どうやら私の声が聞こえていたらしい。女子二人が、慌てて走ってきた。


「のみっちゃん、やだ、一人でやってくれてたの? 言ってくれればいいのに! 手伝うよ」


「そうだよー」


「ゴッメーン。私力仕事好きだからさ、ついつい黙々とやっちゃって」


 嘘をついた。

 できるだけ早く支度して、さっさと肉焼いて、帰りたかっただけ。


 人数合わせで参加した合コン。

 こんなに長々付き合わなければいけなくなると思わなかった。


「野獣すげー、もうこんなに準備したの? 最強じゃん」


 しかもなんだよ、野獣って。

 人をなんだと思ってんの。女の子なんですけど。

 そりゃ化粧っけないし、女らしくないし、可愛くもないけどさ。


 なんだか、急に惨めになってきた。

 仮病を使って帰ろうか。


「お前らいい加減にしろよ」


 険しい顔でそう言ったのは山崎くんだった。


「え? いや、冗談だよ、ほらいつもの」


「野宮さんやな顔してんのわかんないの」


「いや、でもいつも笑ってるし」


「デリカシーなさすぎ」


 山崎くんは私の腕を掴んで、彼らに背を向けて歩き出す。

 後ろで何かを言ってる声は、もう、私の耳には入らなかった。


「……ごめん」


「え、何が」


「もっと早くああ言うべきだった。やな思いしてたでしょ」


 気づいてくれてたんだ。


「今度は、二人で出かけない?」


「え?」


 タクシー乗り場に着いた時、振り返った彼の顔は、真っ赤だった。


「俺、野宮さん狙いだったんだ」

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