第48話 すんすんすんすん
「はえ!?ちょっ、ちょっと、え??え????」
左右から体に抱きつかれてるので、完全に動きを封じられたみたいになってる!
二人とも肩口に頭を乗せて私の腕ごと抱きしめているので、腕を上げることもできない。
っていうか良い匂いですね!!!
なつみちゃんはいつものことだけど、しぃちゃんもめっちゃ良い匂いするじゃん!!
学校ではしたことない匂いだよ!普段は香水とかつけてるんですか!?いやまてシャンプーの匂いかな?そうか、基本的に放課後にしか会わないから朝シャンしてても大体もう匂いは落ち着いてるのか……新発見……!
じゃなくて!!
なんで急に!?
あ、待って……待って!?
「あの……さ、二人とも……?」
「なぁに?」
「なんですか?」
ひやあ……左右の耳元から二人の声がするのなんかぞわぞわする……!
ASMR!?ASMRなの!?
って、違くて……あの……
「えっと……わ、私、汗臭くない?」
元々スポーツやってたからなのか私の体って代謝が良くてよく汗をかくタイプなのです……しかも昨日の夜は暑くて寝苦しかったからだいぶ汗かいたし、ちょっと寝過ごしたからシャワーも浴びずに出てきちゃったし!
一応制汗スプレーはしてきたけど、匂いが消えてるとは言い難い気がする!
自分ではわからないけど!!
「んー?どうかなぁ」
「どうでしょうね?」
はああ、すんすんされてる!!二人のすんすんする音が左右の耳に聞こえてくるのなんか凄い恥ずかしいんですけど!!なにこのプレイ!?
でも、「汗臭くない?」って聞いちゃったのは私だから!嗅がれるのは仕方ない!言わなきゃよかったけど、言わなきゃ言わないで気になるし!
「確かに汗の匂いするね」
「しますね」
あああああやっぱりぃ!!
「ご、ごめんね!?すぐに追いスプレーするから……じゃなくて、もう離れてくれていいんだよ?!そもそもなんで私左右から抱きしめられてるの?」
スプレーを取るために立ち上がろうとしても、左右の二人が一向に離れる気配を見せない。
「なんでなの!?」
「いや、なんか……確かに汗臭いんだけど、なんかちょっと良い匂いというか……」
「そうですね、不思議と不快感が無いですね……」
「まだ嗅いでる!?」
いや、さすがに匂うと分かった状態で嗅がれるのは恥ずかしさが凄いよ!?
「すんすんすんすん」
「すんすんすんすん」
すっごいすんすんされてる……!左右からすんすんされてる……!
ちょっと、なんか……頭が沸騰しそうな恥ずかしさ!!
「もーう!!ダメダメ!もう終わり!そんなに嗅ぐなら、今度は逆に私が嗅ぐからね!!」
二人の手を振り払って立ち上がると、なんかちょっと叱られた子犬みたいな表情をしておられる……ご、ごめんね?
……いや謝るのもおかしいよね?
そんな二人は、一瞬顔を見合わせたかと思うと何か通じ合い、私に向けて二人とも両手を伸ばしてくる。
「どうぞ、嗅いでいいわよ?」
「先輩がお望みならば、存分に」
そう来るか……!!
嗅がないよ!?と言おうと思ったけど……待って、正直興味ある。
二人が良い匂いなのはさっきの段階で分かってるけど、しっかり嗅いだことはない。
いやまあ普通そうだと思うけど……でも、でもだよ?
すっごい良い匂いしてる女の子って、なんであんないい匂いなのか気になるの、私だけじゃないよね!?
何使ったらああいう匂いになるのか……ちゃんと匂ったうえで確認したい気持ちがある……!
とは言え、普通に顔を近づけてすんすんするのはさすがにちょっとアレだし……そうだ。
「じゃあ……お言葉に甘えて」
私は二人の間に入り、右手と左手をそれぞれしぃちゃんとなつみちゃんの首に回して、二人を同時に抱きしめるようにグイっと引き寄せる。
「ぴやっ……!」
「っ!」
二人が驚いてるのが腕の感触から伝わってくるけど、さっきのお返しだから!
私だって急に抱きつかれてびっくりしたんだから!
そして二人を抱き寄せると、ふわっと鼻孔をくすぐる香り。
なつみちゃんは甘くて優しい……上品なお菓子みたいな匂いがする。
しぃちゃんは爽やかでさっぱりした……天気の良い日の春風みたいな匂い。
……それに比べて私は汗臭いのか……ぐぬぬぬぬ。
思わず力が入って、さらに二人を抱き寄せてしまう。
「ちょちょちょっ…!」
「おおう…これはこれは……」
二人がなんか焦ってるけど、気にせずに抱き寄せて、仕返しとばかりにさらに匂いを嗅いでみる。
すんすんすん、すんすんすんすん。
「まっ……耳元でスンスンされるの、恥ずかしくすぐったい…!」
「なつみちゃんもしたくせに」
「それは……確かにそうだけど……!」
……しかし、なんで本当にこんな良い匂いするんだろう……。
しぃちゃんも……不快さを感じさせる匂いが欠片もない。
私は汗臭いのに?どういうこと!?
あっ、なんか……落ち込んできた!!
私だけ良い匂いしないの落ち込んできた!!
凄い勢いで凹んできた!
私は二人から離れて、部屋の隅を向いて体育座りになった。
子供の頃から落ち込むとやってた癖の一つだけど、怪我して走れなくなった時以来の壁向き体育すわりが出たよ。
ここに三人女子がいて、私だけ良い匂いじゃない事の劣等感たるや!
「え、えっと……どした?どしたどした?なぎさちゃん?」
「なんですか先輩。もしかして、自分だけ良い匂いじゃないとかで凹んでるんですか?」
そのしぃちゃんの鋭い指摘に、体がビクってなる。
図星!
「まさかそんなこと……え?そうなの?本当に……?え、ごめんー!ごめんねー、そういうつもりじゃなかったのよー!」
なつみちゃんが駆け寄ってきて、後ろから優しくハグされる。
「おやめください……臭いが移ってしまいます……」
「だからもーう、違うってー!」
「出ましたね……初期の先輩はこんな感じでした。基本的にわりと面倒臭い人なんですよ。アホで臭くて面倒な女の子。それがなぎさ先輩です」
「さすがに酷い言われよう!?」
ショックを受ける私の背中に、もう一つぬくもりが加わる。
しぃちゃんも後ろからハグをしてきたのだ。
「だから、言ってるじゃないですか。そういうのも全部含めて、先輩なんですよ」
「そだよ。んで、アタシたちはそんななぎさちゃんも大好き。……それじゃダメかな?」
それはさっきまでのからかうような様子は欠片も無くて、本当に優しさと……たぶん、好きって気持ちが込められた声色だったと思う。
私の、思い上がりじゃなければ。
「ダメ……じゃないけど……」
「そもそも、最初に言ったのはなぎさちゃんでしょ?もう忘れたの?」
「そうですよ、ほら」
言いながら、改めてさっきと同じ私の『そんなことないと思うよ。きっとみんなも、そして僕も――――どんななつみちゃんも大好きだよ』という音声を聞かせるしぃちゃん。
「もしかして、これは嘘だった?」
「うそじゃないよ!本当に、そう思ってる」
「……ふへへー、うん、ありがとう。嬉しい。だったら、アタシもそう思ってる。これも嘘じゃないよ」
そうか、そうだね……そうなんだね。
私が想う様に、なつみちゃんも想ってくれてる。
どこか歪にも思える私たちの関係は、その一点に置いてしっかりと繋がっているんだ。
この「中心」さえ揺らがなければ、どんなに歪でも私たちはきっと、共に歩いていける。
偽カップルの私たちだけど、二人の繋がりだけは本物でありたい。
この関係性に名前を付けるとしたら、それはきっと―――――
「椎瑠も思ってるんですけど?自分だけが特別想ってるとか思わないで欲しいんですけど!なんなら椎瑠の方が強く想ってるんですけど!?」
急にしぃちゃんがカットインしてきた。
確かに今、ちょっとなんか二人の世界に入りかけてた……なんか急に恥ずかしい!
「う、うん。わかったよしぃちゃん。ありがとね。私はしぃちゃんのことも大好きだよ」
「……そうですか。まあ、それなら良いですけど」
……あんまり表情変わってないけど……もしかして照れてる?
かわいいなぁしぃちゃん。
……ん?さっき何か思いついたというか……何か答えが出そうだったんだけど……なんだっけ、忘れちゃったな……。
ま、いいか。
まだまだ私たちは続いていくのだし。
今すぐ答えなんてさなくても良いよね。
今は、私たちの……私となつみちゃんと……そしてしぃちゃんの、3人でこのチャンネルを続けていく未来に向けて、頑張ろう!
次は、生配信だ!
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