第47話 褒めサンドdisサンド。
「どうかな、なつみちゃん……」
私の問いかけに、少しの時間沈黙し……そして大きく息を吐き……なつみちゃんはゆっくり声を上げた。
「……悔しいけど、面白いわね」
なつみちゃんが苦虫を噛み潰したような顔でそうつぶやいた瞬間、私としぃちゃんは顔を見合わせた。
満面の笑顔の私に対して、してやったり、というニヤリ顔のしぃちゃんだったけど、お互いに心の中でガッツポーズを作っているのが伝わって来た。
「いやぁ……なにかしらねこの敗北感……心の舌打ちが止まらないわ」
そう言いつつも実際に舌打ちはしないあたりが、なつみちゃんの育ちの良さと言うか、人としての上品さなのです。
けれど、なつみちゃんの表情に不意に影が落ちる。
「確かに、確かによ?この動画は面白いし、企画も良いと思う。アタシのやり方とは少し違うけど編集も上手いし……でも、こういうのってみんな受け入れてくれるかしら?アタシはさ……なんて言うか……今まで本当にその……弱さとか、駄目な部分とか、見せたらいけないって思ってたのよ。それがこんな、ダンスが上手く出来なくて凹んでるのとか見せて……幻滅、されないかしら?」
以前も口にした、この明確な「不安」。
実際に出来上がった動画には確かに面白かったし、最終的には格好よく仕上がっていたけれど、そこに至るまでの練習の場面では、上手く踊れない様子もコミカルに編集されている。
それは決して幻滅するようなものではなく、むしろさらに好きになるような愛らしさが出ていたと思うのだけど……今まで出してなかった一面を世に出す不安はどうしても拭えないのかもしれない。
以前も言ったように、大丈夫だよ、と言ってあげるのは簡単だけど……それで根本的な不安を吹き飛ばせるとも思えない。
どうしたらいいんだろう……こんな時、私は……僕は、彼氏として――――
「なつみさん知ってますか?なぎさ先輩って、バカなんですよ」
「しぃちゃん!?突然何!?」
急な暴言が飛んで来たよ!?
「ずっとスポーツばっかりやってたから、勉強全然出来ないんです。別に頭が悪いわけじゃないと思うんですけど、知識が足りなさすぎるんですよね。だから、基本バカなんです」
「しぃちゃん?しぃちゃん?どしたどした?急にどした?」
あれ?この子、私の事好きな子だよね?
「いや、まあ……わりといろんな知識が無いし、世間知らずなとこもあるな、とは思ってたわよ?」
「なつみちゃん!?」
そうなの!?そう思ってたの!?いやそうだけど!そうなんだけど!バレてた!
「そうなんですよ。でも本は割と読んでるから、その一点突破だけで、自分は実は頭が良いのでは?みたいな気持ちがあるんですよ先輩には」
「しぃちゃん?しぃちゃん?」
「ああ、なんかわかるー」
「なつみちゃん!?なつみちゃん!?」
え?え?なんで私、急にたった二人の友人両方からdisられてるの!?
「――――でも、そんなところも、好きなんです」
え?
「アタシも好きー」
え?え?
今度は急に好きって言われた!?感情が追い付かないよ!!????
「ま、つまりはそういうことなんですよ」
「……だね」
なんかわかんないけど二人の間で話がまとまったみたい!!
いや、わかる、わかるよ!?
その、私が実はバカだというのが、そういうマイナスがあっても好きでいてくれるっていうそういうやつだよね?
だから、なつみちゃんのダンスが上手く踊れないとこも大丈夫だよ、っていう、そういうことだよね?
それはわかる、わかるんだけど……。
「なんか凄く釈然としないんだけど!?」
「何がですか?」
すかさずしぃちゃんにそう問いかけられて、思わず言葉に詰まる。
「いや、何がって言われると上手く言葉には出来ないんだけど……なんか、なんか!なんかじゃん!」
手足をじたばたさせながら訴えかける私を見て、しぃちゃんはなつみちゃんに
「ね?」
とひとこと言うと、
「うん、わかる」
と頷くなつみちゃん。
なんかまたわかりあってる!!
「可愛いよね」
「可愛いですよねぇ」
褒められてるけど何が可愛かったんだろうか……!!
「あのさ、一応聞くけど……disられてるとかじゃないんだよね?」
「そんな訳無いでしょ」
「ありえませんね」
凄い真面目な顔で否定された……そうなのか、ちがうのか。
「良かった、じゃあ褒められてたんだね」
「……褒め……とかでもないですね」
「違うわね」
「違うのぉ!?」
え?どういうこと?disでも褒めでもないの!?じゃあなに!?
「何を混乱してるんですか先輩」
「いやだって……だって!」
「しょうがないですね……えーと……ちょっと、これ見てください」
しぃちゃんがおもむろにスマホを操作して見せてきたのは、この前のダンスの練習前の動画。
さっきと同じように、ダメなところを見せて幻滅されないかな……と心配しているなつみちゃんに、私……なぎさ君が声をかけている。
『そんなことないと思うよ。きっとみんなも、そして僕も――――どんななつみちゃんも大好きだよ』
「これです」
「……これ……とは?」
「だから、これを言ってる時にどう思ってました?なつみ先輩がダンス下手だって知って、「ダンスが下手でも好きだよ」と言ってる時、それはダンスが下手なことをdisめ気持ちでしたか?それとも、ダンスが下手なところも素敵だよ、と褒めてるつもりでしたか?」
……この時……このときの気持ちは……。
「どっちでもない……かなぁ」
ダンスが苦手ななつみちゃんもそれでも好きだと思うけど、でもそれはダンスが下手なことをdisってるわけではないし、逆にダンスが下手なところが可愛いと褒めてるわけでもない……なるほど……?
「なぎさ先輩がバカなのも、なつみセンパイがダンス下手なのも、それも二人を構成する要素の一つでしかなくて、それ自体に良い悪いがあるんじゃなくて、そこも含めて好きになれるかどうか、それだけなんですよ」
その話を聞いたなつみちゃんが、急に大きなため息と同時に「うわー」と声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「いや……今の話でなんか凄い腑に落ちたというか……アタシね、昔言われたことがあるの。顔が良いからムカつく、って」
「ええ?なにそれ理不尽すぎる」
「アタシもそう思う。……けどさ、今の聞いて思ったよ。人って、良いところを好きになって、ダメなところを嫌いになるわけでもないんだな、って。良いから嫌いも、悪いから好きも、どっちもあるんだよね」
そう言うなつみちゃんの顔は、何か胸のつかえがとれたのか、なんだかとても晴れやかだった。
「……そうか……そうかもしれないね。考えてみたら、なつみちゃんもしぃちゃんも全然完璧な人間じゃないっていうか、むしろダメなところも結構あるけど、でもそれも素敵って思うもんね」
……あれ?
私としては良いことを言ったつもりなのに、なんか二人がジト目でこっちを見ているよ?
「完璧じゃないことに関しては、先輩に言われたくないみたいなとこありますね」
「そうね、あたしも完璧じゃないけど、なぎさちゃんもだいぶ面倒臭いとこあるわよ」
「ええ!?いや、それは、それはそうかもだけど!私も自分が完ぺきとは思って無いけどー!今いいこと言ったんだから、そこは良くない!?」
なんか二人の当たりが強い!
っていうか、意地悪な顔になってる!!
「あはは、ごめんごめん。いつもアタシばっかり攻められてる感じあるから、たまには反撃したくなっちゃった」
攻めてる?私が?……してるかなぁ?
「すいません。先輩イジるの楽しくてつい」
しぃちゃんは正直が過ぎる!!いつものことだけど!
……って、あれ?
なんか気づいたら、二人が私の左右すぐ近くにいるんですけど?
ちょっとゆったりしたソファに座っている私の、右になつみちゃん、左にしぃちゃんが、ぴっちり密着して座ってる。
「えと、二人ともどうし――――」
たの?と聞く前に、左右から二人に抱きつかれた!!
「はえ!?ちょっ、ちょっと、え??え????」
えええええーーーーー!?!?!?
何が起こってるの!?!?!?
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