第42話 会議のようなもの。

「一か月以内に、スタッフさんに任せた生配信を一回と、動画を一本出します。もちろん、普段の動画はいつも通り出すから安心してね」

 なつみちゃんさすがに上手い。

 いつもの動画はそのまま出すけど、それプラスしぃちゃんに任せた動画を出す、ということになれば普段の動画が見たい人たちにも損はないし、見たいものが削られたような感覚にもならない。

「そんで、次の月一生配信の時にアンケート取ります。アンケートは……この配信上でやっても良いけど……通りすがりの人とかに適当に票入れられるのも嫌だし……Xのアンケート機能だと関係ない人が遊び半分で投票しそうだから……アタシのインスタのストーリーにしよっか。インスタはわりと本当に好きな人がフォローしてくれてる印象あるし。みんな投票してくれると嬉しいな。その時にスタッフさんの……って、なんかスタッフさんって呼び方もちょっとアレよね……なんか呼んでほしい名前とかある?」

 その問いかけにしぃちゃんは少し悩むフリをする。

 僕にはわかる。あれはフリだ。絶対最初から考えてた。

「そうですね……このチャンネルはお二人がいてこそですから、わたくしは三番目……ABCのCで、Cちゃんとでもお呼びください」

 なるほど!

 イニシャルのような名前でありつつも、僕が普段呼んでる名前で呼んでしまっても問題ないように同じ音の名前にしてくれた。

 何度でも言うけど、ほんと出来る子だよ……!!


「うん、じゃあそれで。では……さあみんな!なんか色々あったけど、一個楽しいイベントだよ!!Cちゃんはこのチャンネルの仲間になれるのか、それとも……?

 決めるのは、みんなの投票!!

 一か月後をお楽しみに!!ってことで、そろそろ時間なので今回はこれでおしまい。みんな、今日も見てくれてありがとね。

 今日はあんまりコメント拾えなかったから、最後にスパチャしてくれた人の名前だけでも呼ばせてー。じゃあえっと……」


 そして二人で一緒にスパチャのお礼をしつつ、今回の動画は幕を閉じたのでした。


 新メンバー投票という次回への大きな引きを残して――――



「はぁー……何とか乗り切ったわね……」

 配信が切れたのをしっかり確認して、大きく息を吐いてソファーに横たわるなつみさん。

「本当に今回は、いろいろごめんなさい……しぃちゃんも、私をかばってくれて、本当にありがとう」

 立ち上がり深く頭を下げる。

 あの時、しぃちゃんの機転が無かったら女であることがバレてこのチャンネルそのものが終わってたかもしれない。

「いやまあ、どうせなんかのチャンスで出てやろうと思ってましたからね。配信で「新スタッフですー」とか出ちゃえば既成事実になると思って」

 だから最初からスーツ着てたのね……計算高いというか腹黒いというか……まあ、とてもしぃちゃんらしい。

「それに、お礼を言うのは椎瑠の方です。あの時、先輩が「ちょっと待って」って言ってくれなかったらあのままチャンスは無かったです。ありがとうございます」

 深々と頭を下げられて恐縮してしまう。

「いやいやそんな、そもそも悪いのは私なんだし……ごめんなさいなつみさん。いろいろと私が勝手に……」

「何言ってんの、これはアタシたち二人のチャンネルなんだから、なぎさ君が言いたいと思ったことは言っていいんだよ。アタシたちは、このチャンネルを一緒にやっていく仲間で、友達で、恋人で……運命共同体なんだから」

「……うん、ありがと、なつみちゃん」

「はわっ!!い、今なつみちゃんって!?」

「え?あ、うん、そういえばそうだね」

 なぎさ君の時は彼女なのでなつみちゃんと呼んでいるけど、普段はなつみさんだった。今は格好的にはなぎさ君だけど、喋りは普段の感じだった。

「でもさ、「なぎさ君」の時はいつも呼んでるんだから今更そんな反応することないでしょ?」

「それはそれ!これはこれだよ!!アタシは、彼氏のなぎさ君はもちろん、友達のなぎさちゃんとも距離縮めたいの!だから、「さん」から「ちゃん」になったのは凄く凄くすごーーーく意味のある事なのよ!」

 鼻の穴が広がって興奮されている。

 なぎ遮断したい。でもそれすら可愛いんだけど。

「じゃあ……これからは、普段もなつみちゃんって……呼んでもいいかな?」

「くきゃ!!いい、いいよ……!!なにそれ小首を傾げる仕草……!なぎさ君の姿なのに動きは可愛い女子のそれなの、なんか凄い……すごくすごい……!!」

 ……たまになつみちゃんはよくわからない……まあでも喜んでくれてるし良いか。

 ふと横を見ると、しぃちゃんもちょっと悶えていたけど、同時に悔しそうでもある。どうしたの二人とも。

「それより、しぃちゃんそんなにゲーム好きだったんだね」

「え?ああ、そうですね。椎瑠もそうなんですけど、ウチは父と兄がもう凄くて、それに付き合ってるうちに、という感じですね。まあ、その結果重度のインドアになった椎瑠を心配した母が陸上部に入るように勧めたんです」

 その経緯は前に聞いた気がするけど、ゲームが根底にあったとは初耳だわ。

「へえー、でも今までゲームの話なんて全然しなかったじゃない?」

「そりゃだって……出会って最初の頃にした、マリオの話が通じなかった人にゲームの話しても意味無いじゃないですか……」

「……そんな話したっけ?」

「しましたよ……昨日の晩御飯がキノコだった、って話に椎瑠が「じゃあ大きくなったり1UPしたりしました?」って軽くボケたのに、それに対して本当に不思議そうな顔で「……何の話?」って言われた時の気持ちわかります?」

「……ごめん、覚えてないし、今でも何の話なのかよくわからない」

「知識!!!!」

 凄いツッコミを受けてしまった。

「なつみちゃんはわかる?」

「……幻覚作用のあるキノコが混じってた危険性みたいな話……?」

「同レベルの知識……!!デジタルネイティブ世代が聞いて呆れますね!!」

 なぜ怒られたのかよくわからない私たちは顔を見合わせて首をすくめる。

「そんな大人が勝手に決めた世代の区切りに興味はないわよ」

「……いや、それに関しては椎瑠も同意しますけど……まあいいです、そのくらいの初心者っぷりだとゲーム配信も盛り上がるというものですから。当日を楽しみにしといてくださいね」

 おおう……悪い顔だ……しぃちゃんが悪い顔を……!

 頼もしさと怖さ!

 まあそれはいいとして、だよ。

「生配信はゲームやるとして、動画は何するの?」

「ああ、それはまあ……いろいろ考えてますので、お楽しみにです。準備が整ったら収録日を決めさせてください」

「……ちょっと待って、企画会議とか無いの?」

 なつみさんが少し慌てる。

「もし正式に椎瑠を雇ってくれたなら、その時はいろいろ会議しますけど……今回は完全に椎瑠に任せてもらえるんですよね?そうじゃないと、視聴者さんたちの判断がブレるじゃないですか」

 それは……確かにそうよね。ちゃんと打ち合わせして企画を決めたとなると、それはなつみちゃんの意思も介入してることになるので、しぃちゃん……Cちゃん独自の企画という印象は薄れる。

 なつみちゃんの意見を反映した企画にした場合、もし失敗したときにCちゃんだけの責任とは言いづらくなる。

 少なくともこの一回は自由にやらせる方が公平よね、きっと。

「……一応言っとくけど、出来上がった動画に問題があったらそれは公開しないわよ。あなたのテストの為に炎上とか絶対嫌だからね」

「それはもちろんです。ただし、炎上するような問題が無かったら、その時はちゃんと公開してもらいますよ」

「……わかったわよ。あと、生配信の時はちゃんと打ち合わせするからね。生配信はあとから修正できないんだから、変なことさせないわよ」

「大丈夫ですよ。ちゃんと打ち合わせしますし、普通にゲームやってもらうだけですから。。ただ、小谷センパイがゲームプレイしたら急に暴言吐いてコントローラー投げたりするタイプだった場合、それは椎瑠には責任取れませんけど」


「……それは無いわよ。アタシはプロだからね」


 ……なんかフラグが立った気がするけど大丈夫かな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る