第40話 「有能かよ!」

「企画が、ありまぁす!」

 しぃちゃんの発言に、なつみちゃんも僕もコメント欄もざわつく。

「企画……あるの?」

「はい、配信のお手伝いをしたいと思っていたので、企画もたくさん考えてきました。ちょっと待ってください……こちらをどうぞ!!」

 部屋の隅に置いてあったカバンのところまで行き、戻って来たしぃちゃんが手渡してきたのは、3冊のノートだった。

 普通に勉強で使うようなA4サイズのノート。

 恐る恐る中を開くと……全てのページに、ありとあらゆる企画が書かれていた。

「は!?なにこれ凄いな!?」

 びっくりして思わず声を上げてしまう。

 企画内容は多岐にわたり、いわゆるよくあるベタな企画もいくつかあったけれど、半分以上はこのチャンネルの為にしっかり二人の個性を活かした企画で埋められていて、企画タイトルだけ書いてあるようなものもあるけど、内容もしっかり描かれていたり、イラストも交えてわかりやすい説明がされているモノも多くあった。

「こ、これ……全部考えたの?」

 驚いて目を丸くしているなつみちゃんの質問に、

「はい、このチャンネルを知ってからずっと、もしわたくしだったらどんな企画をやらせたいだろう……と考え続けた結果です。500個くらいはあると思います」

「500!?」

 二人が会話してる間、僕は見せても問題なさそうなページをいくつかカメラに向けて見せる。

 細かい文字がどこまで配信で読めるのかは分からないけど、書き込みの量やイラストの力の入り方で、真剣さは伝わるはずだ。


『いやマジかすげぇ』

『本気は伝わってくる』

『本気過ぎてむしろ怖い』

『イラストうまっ』


 良い反応も悪い反応も共通しているのは、「凄い」と思われていること。

 これがデータだったらコピペとかの可能性もあるだろうけど、ノートに手書きでびっしり書かれた文字というのは、それだけで伝わってくるものがある。

 もし仮に万が一、企画内容がどこかのパクリだったとしても、それを自筆でノートに、これだけの量びっしり書くという手間を惜しんでない時点で、軽い気持ちで出来ることではないのだ。

「いやでも、凄いのはわかるけどさ……さすがにこれだけたくさんあってもすぐには判断できないよ。もうちょっとわかりやすく……」

「あ、はい。まとめたのがこちらです」 

 スッと出してきたのが、数枚の紙をクリップで止めためちゃめちゃ見やすい企画書。

「あんのかい!!まとめたものあんのかい!!有能かよ!」

 思わずツッコミを入れるなつみちゃん。わりとお笑いは好きなタイプです。

「ってか、最初からこっち出せばよくない?」

「まあそうなんですけど、そっちのノート見せた方が本気が伝わるかな、と思いまして」

 それは確かにそう。

 いきなりこっちの理路整然とした企画書を見せられるよりも、このノートからこうなったんだ、とわかるだけで全然印象が違う。

 無軌道なまでの情熱もあるし、それを自分で冷静に判断できる理性も併せ持っている。

 出来る子だよしぃちゃん……!!

 ともかく、ふたりでしっかり企画書を読む。

「……これなに?」

 僕が目についた物を指さす。

「ああ、これは「なつつぎコンビネーション」です」

「いや、うん……タイトルは見たらわかるんだけど……内容が難しいというか…」

「えーとですね、簡単に言えばオリジナルゲームです。結構いろんなチャンネルでやってるじゃないですか。自分たちで考えたオリジナルゲーム。流行ったら他の配信者さんにも遊んでもらってここの宣伝にもなるし、テレビのバラエティとかで取り上げられたら話題性も高まりますし、そういうの考えていくの良いんじゃないかと。まだもうちょっとルールを詰めないといけない部分はあるかと思うんですけど、そこは実際にやってみないと何とも言えない部分があると思うんで、すいません」

 そういってしぃちゃんは頭を下げたけど……いやこれ、面白そうだよね……?

「ちょっといいわねこれ……流行りそうだし、簡単だし……やる価値あるかも」

 なつみちゃんも食いつくと、コメント欄が興味を持ってくれて、見たい知りたいと賑わっている。

「あ、ごめんね見てる皆。でも、もしかしたらこれ今後やる可能性あるかもしれないから秘密ね。それに、うちでやらなかったとしても彼女の企画だから見せてパクられたりしたら申し訳ないでしょ?」

 このチャンネルの為に考えてくれたゲームのだし、安易に見せて他で先にやられちゃったりしたらさすがにしぃちゃんの努力が水の泡過ぎる。

「……なるほどね、確かに良い企画が揃ってるわ」

 なつみちゃんは全体に軽く目を通すと企画書を置いた。

 これは興味を失ったのではなく、配信中に読み込むと視聴者さんを置き去りにしてしまうので、あとでしっかり読み込むつもりなのだろう。

 だって、目が凄いワクワクしてるし。

「あっ、待ってください。そこには書いてない企画、もう一個あるんです」

 食い下がるしぃちゃん。

 けど、これ以上は視聴者さんも興味を失ってしまいそうだし―――

「これはぜひ、視聴者の皆さんにも判断してほしいんです。みなさん、聞いていただけますか?」

 カメラの方を向いて、真っすぐ語り掛けるしぃちゃん。

 なんだなんだ?何をしようって言うの?

「わたくし、このチャンネルを見ていて思う事があるんです。どうして、みんなやってるアレをやらないんだろう、って」

「アレ……ってなに?」

 ついつい質問を口に出す。

 それに対して、しぃちゃんはニヤリと笑い―――


「決まってるじゃないですか。配信の大定番……ゲーム実況ですよ」


「うっ、それは……」

 確かに知っている。

 ゲーム実況は大人気コンテンツだし、いろいろな企画をやる配信者さんも、その中の一つにはゲーム配信が入っていることが多い。

 ただ……

「ただ、お二人はそれが出来ない……それがなぜなのか、視聴者の皆さんはその理由を知っていますか?」

 再び視聴者に語り掛けるしぃちゃん。

 ここまで来ると視聴者のみんなも、引き込まれてきている。

 しぃちゃんが場を掌握しつつある……!



「お二人がゲーム実況が出来ないその理由、それは――――――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る