第36話 ちょっとだけわかりあう二人。
・なつみの視点。
もうそろそろなぎさ君の着替えも終わるだろうという時間だけれど、一つだけどうしても、アタシはこの生意気後輩に確認しなければならないことがあった。
「アンタさぁ……スマホ持ってる?」
「……は?当り前じゃないですか。今時持ってない女子高生が居るとでも?」
「……いるかもしれないでしょ」
「いやそりゃ、日本中探せば何人かは居るでしょうけど……なんなんです?」
アタシの中で今、プライドと欲望が葛藤している。
いや、わかってる、結果は見えている。
こんなもん、欲望が勝つに決まってるのよね……!
「だからその……さっき言ってたわよね? その……文化祭の時の、なぎさ君の男装写真……スマホに入ってるの?」
アタシの言いたいことをすぐさま理解したのか、一瞬で顔がニヤ~~~っと嫌らしい笑顔で埋め尽くされる生意気後輩。
「ははーん、見たいですか? あの時のなぎさ先輩の男装写真、見たいですか?最高でしたもんねぇ??」
くっ、うぐぐぐぐぐぐ……!
アタシともあろうものが、あの時はなぎさ君に見惚れてしまって写真を撮り忘れてしまったのが最大級に悔やまれる……!
ずっと後悔してたから、もしこの子からその写真を貰えたらという気持ちをどうしても抑えられない!
「まあ、当然あの時の写真は大量に撮ってありますし、自作の先輩フォルダに大事に保管してありますけど――――……あなたに見せる義理ありますぅ?」
ちっっっくしょょょーーーーう!!!!その通りだよこんにゃろう!!
逆の立場だったらアタシも同じこと言うよね!!
アンタに見せる必要ある?ってさ!!
しかし、ここで負けるわけにはいかない!!
「……取り引きと行こうじゃないか。アタシのスマホの中にも、表に出してないなぎさ君の写真が山ほどある。それと交換でどう?」
アタシしか持ってない写真はそれはそれでこの子に対する強いアドバンテージではあるけど、でも、やっぱり全ての始まりであるあの瞬間の写真が欲しい!!
それを手に入れる為ならばこっちの写真も取引材料として差し出そうじゃないの!
「……どんな写真があるんです?」
食いついた……!
「それはもう、あらゆる写真があるわよ?あっ、評判が良かったのは、ちょっと前のホスト風の衣装とか―――」
「ああ、インスタで見ました。先輩が配信してるって知ってから、全ての動画とSNSを出来る限りチェックしましたからね。全部保存してあります」
「ガチ勢じゃないのよ」
「けど、そんな写真たちとではそう簡単に引き換えられませんね……そうですねぇ、椎瑠が見たことない写真20枚と、秘蔵写真1枚を交換してあげても良いですよ」
「はぁ!?なによそれ、あまりにも釣り合わないじゃないの」
「そりゃそうですよ、そちらの持ってる写真は、公開されてる写真の差分みたいなものですよね? こちらは一切世の中に出てない貴重なモノですよ。価値が違います」
ぐぬぬぬぬ、この生意気後輩め……!
でも、言うことも理解できてしまう悔しさ。
良い写真は大体公開しちゃってるもんなー!!
「……くっ、わかったわよ。その条件で良いわ。ただし、アンタの持ってる写真が本当にそれだけの価値があるか確認させなさいよ。素人のヘタクソな写真なんて、どんなに貴重でもそこまでの価値は無いわよ」
「なるほど道理です。では……そうですね、とっておきを一つ見せましょう」
言いながら、ポケットから出したスマホを慣れた手つきで操作すると……一枚の写真を画面に表示させ、こちらに向け―――――
「――――――っ!!!!」
なに……その、なにその写真!?!?!?
角度、表情、ピント、光の当たり方、ポーズ……全てが最高に映えている、史上最高に格好いいと言っても過言ではない なぎさ君のしゃし―――
「はい、おしまいですー」
さっと画面が隠される。
「ちょっ、ちょっと!!もうちょっと見せなさいよ!!」
「ダメです。これは奇跡の一枚なので」
「奇跡の一枚?」
「そうです、椎瑠はあの時、ありとあらゆる角度から延々とひたすら連射で何百枚と写真を撮りました。その中でもこれは奇跡的な完璧っぷりを見せた奇跡の一枚なのです」
奇跡の一枚……たまにネットでアイドルがたった一枚の写真をきっかけにバズったりするけど……確かに今の写真は、その一枚で世界を変えるレベル……!
「あ、一応言っときますけど、これは交換しませんからね」
「なんでよ!?」
一番欲しいわよ!!!
めっちゃバズりそうだし!!ってかバズるし!!
「だって、渡したらどうせSNSとかにあげますよね?椎瑠は、自分の撮った写真でセンパイがバズりまくってネットのおもちゃになるのなんて望んでませんので。だいたい、この文化祭の劇は学校の生徒がわりとみてるんですよ。なのに、それを「ななつぎチャンネルのなぎさ君」としてアップしてバズったら正体バレるじゃないですか」
うっ……それは、確かにそうね。
危ない、あまりの素晴らしい写真に我を忘れるところだったわ。
「そ、そんなことは言われなくてもわかってるわよ」
嘘です。嘘をつきました。
「だから、この写真は今のチラ見せで終わりです。――――まあ……もしも、もしもですよ?そちらにも、世の中に出してない激レア写真があるというのなら、トレードもやぶさかではないですけど」
……むむっ、探りを入れられている。
向こうからしても、アタシが「彼女」という立場からしか撮影できない写真がある可能性を考えているのね。
―――――出すか、アレを……!!
「……仕方ないわね……これだけは絶対に出したくなかったけど……チラッ」
秘蔵中の秘蔵写真、アタシの膝枕で寝ているなぎさ君の写真を、チラ見せする。
「!?!?!?」
明らかに反応があった!!
「な、なんですか今の!?どういう状況ですか?」
「ふふふ、知りたいかね後輩……? どうだろう、さっきの写真とこの写真をトレードするなら話をしてあげようじゃないの」
「くっ……卑劣な……!」
卑劣では無いよ別に?
「そ、それなら椎瑠にはこの、部活中に本に夢中になっている先輩の美しい横顔写真がありますが?」
「むむっ、だったらアタシは、ご飯を食べてる途中に箸を咥えた瞬間のこの可愛い写真が……!」
こうして、お互いになぎさ君、なぎさちゃんのレア画像を見せ合い、時にはトレードし、非常に充実した時間を待ち時間を過ごせたのでした。
……いや、だからって別にこの子を雇うと決めたわけじゃないけどね!?
でも連絡先は交換した。
たまにトレードしよう、とお互いに強く誓い合ったので!
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