第19話 ともだち。
「ねえ、あなた――――……ななつぎチャンネルのなっつみんの彼氏……なぎさくん……よね?」
心で助けを呼んでもなつみさんが駆けつけてくれることは無くて(当然)、さあどうする私。
……いや待って、冷静に考えたらここは一つしか答えはない。
否定だ。
肯定するのはどう考えても悪手だと思うし、下手にごまかすのは肯定してるのと同じ。
となれば否定するしかない。
――――でも、ヤッスーさんはなつみさんがお世話になってる人だし、嘘をついても良いのかな……?
後で嘘だってバレたらなつみさんに迷惑が掛かるんじゃ……いやでも、私の一存で勝手に認めて話してしまうのは……!!
何も言い返えせずに私は黙ってしまった。
ああ、ダメだ。
この沈黙は肯定と同じだ。
けれど、でもどうしたら――――
「……ごめんごめん、なんでもないの、忘れて?」
私が困っているのが態度と顔に出ていたのか、ヤッスーさんは申し訳なさそうに謝罪を口にした。
「あ、いやその……あの……私その……」
謝られるのも申し訳なくて言葉を探すが、肯定にも否定にもならない言葉が浮かばない。
ああもう、私はなんて無力なのか。
そんな私にヤッスーさんは背を向けて、まるで独り言のように語り始める。
「……オネエはね、ずっとなっつみんのことが心配だったの」
……なつみさんのことが、心配……?
あんなに完ぺきなのに?
「あの子は、とても才能がある子。その美しさも含めてね。美しさって一種の才能なのよ」
それは、なつみさんを見れいるとよくわかる。あの美しさは才能だし、なにより―――
「そしてなにより、その才能をさらに伸ばすための努力を惜しまない子。自分に与えられた才に甘んじることなく、より輝くために自分を磨き続けられる子。……本物だと思ったわ」
……同じことを、思っていた。
才能はあくまでも「スタート地点」だ。
その時点で有利不利は確実にあるし、どうあがいても届かない不利な立場に居ると感じてる人間にはそれは理不尽に感じられるだろうけど……才能なんて花は、簡単に腐るんだ。
努力という水を与え続けなければ。
それを、陸上部時代に私は思い知った。
「でもね、やっぱりあれだけ輝いていると、どうしてもみんな……眩しいのよね、あの子のことが。特にあの業界はみんなライバルみたいなところあるから……いつも孤独に見えた。―――学校でも、そうだった?」
背中を向けてそう尋ねて来たヤッスーさんの顔を見る事は出来ないけれど、背中からでも憂いが感じられた。
優しい人なんだな、と思った。
「……私が友達になったのはわりと最近なので正直なつみさんの学校の様子とかはそこまで詳しくないんですけど……でも、人気者ですよ、皆なつみさんのことが好きで―――……好き、で……」
それは間違ってないと思う。
きっと皆なつみさんのことが好きで、憧れで、たまに嫉妬の対象でもあるけどでも、でもいつもたくさんの人に囲まれてて……
――――あれ?
そこでふと、私は自分の記憶に違和感を抱く。
いつも近くで見ているなつみさんの笑顔。
あの笑顔を私は、学校で見たことがあっただろうか……?
笑ってはいる、いつも笑ってはいるけど……二人きりで一緒に居る時みたいな笑顔じゃなくて……?
「そうね……あの子の一番大変なところは、人気者なところなのよね。だから……本音で付き合える相手を見つけるのが難しいの。あなたがそういう友達だったら、オネエはとても嬉しいわ。だって、友達を紹介したいってあの子言ったのよ?そんなの初めて聞いたわ」
そ、そうなんだ……えっ、どう反応して良いのかわかんない。わかんないけど……。
―――たぶん、ちょっと嬉しい。
私が、なつみさんにとって人に紹介したいくらいの「友達」なのだとしたら――――それは、うん、嬉しい。
っていうか、照れちゃう。
えへへ、えへへへ。
えー、なにそれ恥ずかしいな……!
でも責任も大きいな!
なつみさんの友人にふさわしい人間でなければ……!「あんな子と友達なのー?」とか言われちゃったらなつみさんに悪い!がんばろう!
「……あなた、考えてる事がすぐに顔に出るって言われない?」
「へ?な、なんか出てました!?」
無意識!
「最初は友達って思われてるなら嬉しいなー、って顔してたけど、途中から友達にふさわしい存在でいなくちゃ!がんばろう!って顔してたわよ」
「それはさすがにヤッスーさんがエスパーだと疑うレベルですけど……?」
顔だけでそこまで分かるとしたらむしろ私がサトラレの可能性は捨てきれないけど!
「ふふふ、だってあなた小声でつぶやいてたわよ?」
「えっ!?」
「きっと疲れてるのね。完全に寝不足の顔だったし」
そうなのかな……気を付けないと!
「まあ、そんなに思いつめないで。きっとあの子は今のままのあなたの事が好きだから。無理に釣り合う存在になろうとしないで……あの子を、必要以上に高みに置かないで上げてね」
その言葉に、ハッとした。
私も結局、心のどこかでなつみさんを自分とは違う凄い人だと思い込んでいた。
―――――でも、それじゃダメなんだ。
友達としても、彼氏としても。
まだまだ私はいろいろなことが経験不足で、なつみさんと同じ視点を持つことは出来ないけど……でも、彼女がこちらを向いた時に、しっかり見つめ合える存在でいたい。
見上げるんじゃなくて、正面から瞳を見つめられるそういう存在に――――。
「―――……ありがとうございます。私がやるべきことが、なんだか少し見えた気がします」
「そう?なら良かった。これからもあの子と仲良くしてあげてね♪」
「はい!それはもう!」
昨日までの私なら、その言葉に自信満々には応えられなかったと思うけど、今の私はもうなんていうか、なつみさんを幸せにしてあげたいみたいな気持ちで満たされていた。
私にも、なつみさんの他に一人大事な友達がいる。
怪我をして部活をやめて、全てをどうでもいいと投げやりになっていた私は、きっとあの子が……しぃちゃんが居なかったらずっとひねくれたまま生きてきただろう.
友達が傍にいてくれる、寄り添ってくれる。
それは人生を、心を救ってくれることもあるのだと私は知っている。
なつみさんにとっての私が、そこまでの存在になれるのかどうかはわからないけど……でも、うん、少しでも幸せにしてあげたい!
だからって変に無理に頑張ったりとかするんじゃなくて、自然に隣にいられる存在に、なれたらいいなぁ……。
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