第18話 初めての体験

 エステって裸になったりするのかな……!

 とかドキドキしていたけど、ベッドと小さい棚しかない狭い部屋で、病院の入院着みたいな服に着替えてベッドに横になると、身体には柔らかいタオルがかぶせられて、主なマッサージは頭と肩だった。

「今日は、ヘッドマッサージとお顔の肌ケアのコースでご注文頂いてます」

 と担当のお姉さんが言っていた通り、顔にクリームやなんかよくわからないトロッとした液体を塗られて、されるがままにマッサージを受けた。

 たまにちょっと痛いけど……めっちゃ気持ちいい……!

 顔、首筋、肩とマッサージをされていると、自分の気持ちがリラックスして体が熱くなっていくのがわかる。

 血行が良くなってる感覚がする……!!

 はぁー……凄い、エステ凄い。

 プロの人にマッサージしてもらうのってこんなに気持ちいいんだ……。

 疲れが手に吸い取られていくような気さえするよ……!

 なにより圧巻なのはヘッドマッサージ。

 これはもう……極楽ってこのことなの?というくらいの気持ち良さで、知らない間に意識を失うように深い眠りについていた――――。


「はーい、マッサージ終わりましたよー」


 肩をぽんぽん、と叩かれて心地よいまどろみから覚醒すると――――……目の前には、ヤッスーさんが居た。

「!?」

 驚いて身体がビクッとしてしまって、ベッドが少し揺れた。

「あららら、ごめんなさいね。驚かせちゃったわね」

 謝りつつも、ヤッスーさんはどこか楽しそうだ……さてはわざとですね?

 辺りを見回しても、さっきまでのお姉さんはもう居ない。

「マッサージはもう終わって、最後にはこのオネエ自らメイクをするように仰せつかってるわ。もちろんなっつみんからね」

 ……そうなのか……っていうか、一人称がオネエなのね……?

 確かにさっきなつみさんも、ヤッスーさんは自称オネエだって話してくれたけど、まさか一人称として使ってるとは思わないじゃない……!

「――オネエがメイクしても平気かしら?」

 少し不安そうに問いかけて来るヤッスーさん。

 私はさっきのなつみさんの話を思い出す。

 ヤッスーさんは背も高いし、細身ではあるけど筋肉質で少し威圧感がある。男の人に触られるのが嫌だとメイクを断られた経験があるのだろう。

 そんな中で生み出されたある意味苦肉の策がこのキャラなのだとしたら……ヤッスーさんも苦労してるんだな……。

 私も……抵抗が全く無いかと言えば嘘になる。さっきの女の人相手では全く感じなかった緊張を感じているし。

 でも――――なつみさんが直々にメイクを頼むという事は、それだけヤッスーさんの腕を認めているってことだと思う。

 なら私は、この提案を受け入れるべきだ。それはなつみさんに対する信頼でもある。

「はい、大丈夫です。お願いします」

 笑顔でそう答えると、ヤッスーさんの顔がパッと花が咲いたみたいな笑顔に変わった。

「やったー!ありがと!オネエ頑張っちゃう!」

 くるくる回りながら化粧道具が乗っている車輪のついた台を部屋の隅から踊るように運んできてベッドの脇に置くヤッスーさん。

「じゃあ、ごめんなさいだけどベッドに座ってくれる?ここでそのままメイクしちゃうから」

 えっ、ここで?鏡も無いけど……と思ったけど、そうか……私がするわけじゃなくて、正面からヤッスーさんがするんだから、別に途中経過を見る必要は無いのか。

 見たとて何が良いも悪いもわからないし、これはもう身を委ねよう。

 私が覚悟を決めるとそれを感じ取ったのか、 化粧筆を手に持ったヤッスーさんの顔が一気に真剣になる。

 プロだ、プロの仕事人の顔だ、きっと。

「はい、では始めます。さっきのマッサージの時にスキンケアはもう済んでるから、下地から塗っていくわね」

 下地……メイク下地……!

 概念は知ってるけどやったことない気がする……!

 いや、撮影の時になつみさんがちょっとメイクしてくれるけど……あの時も言わないだけで下地してくれてたのかな?

 ……なつみさんならしてくれてそう!

 そういうの抜け目ない感じするし!

 その後も、ファンデーションやらコンシーラーやらアイブロウやらマスカラやら……知ってるものもよく知らないものも色々とメイクは進んでいく。

 私化粧の知識無さすぎでしょ女子高生……!

 もう少し勉強しようと決意をしながらメイクをされていると……ヤッスーさんから、突然言葉をかけられて私の心臓は大きく跳ね上がる。


「ねえ、あなた――――……ななつぎチャンネルのなっつみんの彼氏……なぎさくん……よね?」


 えっ、バ、バレた……!?

 ど、どうしよう……ここには私一人しかない……どう答えるのが正解なの……!?


 助けてなつみさーーん!!

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