第11話 初デート……なのに。

 デート当日!

 結局服装が思いつかなかったので、制服で待ち合わせ現場に来た私は臆病者ですごめんなさい。

 そして、昨日全然寝られなくて極度の寝不足で顔がむくんでいます。

 からの、遅刻するのが怖くてご飯を食べずに早めに家を出たら一時間も前に着いてしまって、空腹と寝不足と強い太陽光でクラクラしています。

 ……酷い!私酷い!!

 あーもうせっかくの初デートなのになにこれぇ……ん?せっかくのって何?

 私、なつみさんとのデート楽しみにしてたの?

 あれ?仕事だよね?

 仕事だから来てるんだよね?

 ――――……あまり深く考えないようにしよう、頭クラクラしてるし。

 その状態でさらに30分経過したタイミングで――――

「えっ、もう来てる!ごめーん、早めに来たのに!」

 既にいる私に驚いてなつみさんが駆け寄って来た。

 うわっ、可愛いっ!おしゃれ!なんなのこの生き物信じられない!!同じ女子とは思えない!!

 なつみさんは、柔らかいシルエットの白いワンピースにデニムのジャケットを肩にかけて、清楚さの仲にラフな雰囲気を漂わせていた。

 さらには有名人だから変装の意味もあるのかもしれないけど、バケットハットに少しサイズの大きめな伊達メガネをかけているけど、それが凄く凄く凄く似合っててひたすら可愛い。

 ガラガラと引いているパステルカラーのキャリーケースさえもお洒落……隙が無さすぎるよ!

 えっ、それに比べて私なに。

 制服、むくみ、髪も軽くとかしただけで全然セットしてないし女子として惨敗過ぎない?

 いや元々勝ってる部分なんて一個も無いんだけど!!!それはそうだけど!

「ん?どうしたの?大丈夫?」

 言いながら、少し身体を斜めに傾けて、私の顔を上目遣いで覗き込んでくるなつみさん。

 はああああ、髪がサラッッッサラツヤッッツヤでしかもこの距離で良い匂いする……。

 もうなんか悔しいとか嫉妬とかそういうのすらない完璧な超かわいい女子だよなつみさん……そりゃ女子のファン多い訳だよ!!

 憧れちゃうじゃんこんなの!!!

「なぎさくん、制服着て来たの?」

 うっ……突っ込まれた。笑顔だから不快感とかではない……と思う、きっと、そうであれ。

「いやその……私デート服とかどうしたらいいか分からなくて……それに、なぎさ君としてのデートなら衣装はなつみさんが用意するのかなーといろいろ考えた結果……こうなりましたごめんなさい」

 なぎさ君の衣装は、いつもなつみさんが用意してくれている。

 理由はとても単純で、「オシャレな彼氏」を演出するため。

 私がそもそも男性用の服なんて持ってないのに加えて買うお金も無いしセンスも無いので、「なつみさんの理想の彼氏」を演じる為には、なつみさんが自分で衣裳を用意するのが一番いい、という結論になったのです。

 実際なつみさんの選ぶ衣裳やアクセサリーやウィッグはとても評判が良くて、動画のコメント欄でもなぎさ君のセンスを褒めてくれる女子がとても多い。

 その度に私は、ちょっと照れ臭いような嬉しいような、それでいてなんだか申し訳ないような、なつみさんのセンスが褒められて少し誇らしいような不思議な気持ちになる。

「しょーがないなー「なぎさくん」は。大丈夫、今日もちゃんと衣裳持ってきてるから安心してね!」

 言いながら、キャリーケースをぽんぽんと叩くなつみさん。

 デートに持ち歩くには大きすぎるカバンだけれど、衣裳が入っているなら納得だし、トータルコーディネートとしては違和感が無いのはもうさすがというしかない。

 私、この子の彼氏なのかー……つ、釣り合わない……!あまりにも彼氏として釣り合わない!

 本当に、私が彼氏の役で良いのかな、なつみさんに迷惑かけてばっかりじゃない?

 ……ダメだ、寝不足で頭痛いから弱気になってる。

 私なんて本当に――――

「あの、さ……」

 自分でも何を言おうとしてるのかわからないまま、なつみさんに向けて一歩踏み出したその瞬間、突然ヒザカックンされたみたいに足に力が入らなくなってそのまま地面のアスファルトに座り込んでしまった。

「――――あれ?」

「ちょっ、ちょっとどうしたのなぎさ―――ちゃん!」

 慌てつつも、呼び方を少し迷ったなつみさんが駆け寄ってきて私の肩を抱いてくれる。

 ああそうだよね、私今完全に女子の制服だし、いきなり地面に座り込むという目立つ状況で誰かに見られてる可能性が上がったのになぎさ君、って呼べないよね。

 何処に動画見てくれてる人が居るかわからないものなぁ……。

 ……そう考えたら、なんか別の名前にしたら良かったな……なぎさって男でも女でもいける名前だからそのままで良いよね、とか最初に言っちゃったんだよなぁ……。

 ……え?なにこれ走馬灯?

 死ぬの?私死ぬの?

 いやいや、さすがに死ぬほどじゃないわ。

 凄く心配してるなつみさんにもちゃんと説明しないと。

「ごめん、大丈夫だよ。ちょっとその……正直に言っちゃうと、昨日緊張して寝られなくて、朝ごはんも食べ忘れて……そう言えば、朝から水も飲んでないかも……」

「なんで!?」

 ビックリしておられる。

 そうよね、私もそう思う。なんでこんなに緊張してるのかしら……?

「とりあえず、これ飲んで、はい」

 急いでキャリーケースを開けると、中から水のペットボトルが出て来るなつみさん。準備が良い……!

「ありがとう……えっと、待ってて、今100円玉を……あ、ちょっと大きいから120円かな?」

「いいからそんなの!飲んで!」

 お金を払うことを拒否されてしまった……120円だよ?貰って良いの?

 恐縮しつつも、さすがに命の危機を感じたのでその辺の倫理観は後回しにして水を飲む。

 ああ……私、喉乾いてたんだな。

 水が全身に染みわたっていく……!

「はい、これも食べて」

 次に出してきたのは……竹を編んで作られた四角い箱に入ったサンドイッチ。

 ……ドラマとか漫画でたまに見るやつ………!こういうオシャレな箱に入ってるサンドイッチって実在したの……?

「え、これ、どうしたの?作ってきてくれたの?」

「まあ、そうね。ほら、お腹空いてるんでしょ。食べて」

 見た目にも綺麗で美味しそうなサンドイッチが並んでいる。具は卵にハムにBLTサンド……ええー、凄い、映えてる!

 美味しそう……と空腹に負けて手を伸ばしそうになって、水分で少し取り戻した冷静さが警鐘を鳴らす。


 待って、これもしかして……動画用に作って来たんじゃない?

 今食べたら……ダメなやつじゃない???

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