第2話 なぎさの秘密。

 全ての始まりは、2週間前。

 高校二年生である僕・筒美(つつみ)なぎさは部活を終えて帰ろうとしたら、下駄箱に手紙が入っていたのです。

 今どきこんな古式ゆかしい方式あるんだ!?とビックリしたけれど、やっぱりちょっとドキドキしながら物陰でこっそり手紙を開けてみると……どう見ても女の子の字だったので、少しため息を吐く。

 確かに私は怪我で辞めるまでは陸上部でバリバリ鍛えてて身体が筋肉質だから男の子に間違われることもあるし、演劇部の助っ人で男装した時にはちょっとだけ女の子にキャーキャー言われたりもしたけれど、れっきとした女の子で、恋愛対象は男の子なので、女の子から告白されると困ってしまう。

 ちなみに今は、筋トレは習慣で続けつつも文芸部。

 こっそり大好きだった恋愛漫画や恋愛小説みたいなのを自分でも書いてみたいと奮闘中です。

 そんな私なので、この手紙をどうしようかと悩みつつも、無視するわけにもいかないよねぇ……と読み進めていると、19時に校舎裏に来てくれと書いてある。

 19時って……10分後だよ!?

 スケジュールタイト過ぎない!?

 いろいろ考えるのは後回しにして、慌てて校舎裏へ向かう。ああもう、今日バイト遅番で良かったよもう!

 うちの学校は校舎の前に広い運動場があるのに対して、裏はすぐに高い塀と金網になっているので、基本人が近寄らない。

 だからこそ、こういう告白によく使われているのだけど……行くのは始めてだ。


 恐る恐る壁から顔を出して覗き込むと……そこには、超絶美少女が居た。

 殺風景な校舎裏の中で一人だけ色が付いているような神々しい黒と金色の長髪をなびかせていたのは、この学校の……というか、今となっては全国的に有名な同級生だった。

 インフルエンサーで配信者のなっつみん☆こと、小谷なつみさん。

 中学生の頃からインスタやTikTokへの投稿を始めるとその美少女っぷりが注目されて、全SNSのフォロワー数合計は100万人を超えるとか。

 最近は雑誌のモデルやYou Tubeでの配信なども始めて、どれもかなり好評らしいという噂は聞いている。

 私はそういうのに興味ない人間ではあるけれど、それでも自然と話が聞こえてくるくらいに皆の話題の中心になってる存在。

 ……そんな彼女がどうしてここに……?

 よく男子に告白されてるって聞くから、彼女も呼び出されたのかな……ええー、私の相手と告白場所・時間のバッティングなの?

 困ったなぁ……私の相手はどこに居るんだろう……。

 辺りを見回してキョロキョロしていると――――バチッと目が合ってしまった。

 彼女……なつみさんと……。

 あっ、気まずっ……と思った次の瞬間――――

「なぎささん!来てくれたの!?嬉しいなっ!」

 彼女が私の名前を呼んで、にっこりと満面の笑みを見せた。

 ―――――えっ? 嘘でしょ??

 もしかして、私の相手がなつみさんなの!?えっ!?えっ!?!?!?

 キョロキョロしつつもちょっと自分でもわかるくらいに挙動不審になりながら近づくと、私の両手を包み込むように、なつみさんが両手で掴んでくる。

「ごめんね急に呼び出して……でも、来てくれたんだね!」

 私より少し背の小さななつみさんは、上目遣いで私の目をじっと見つめる。

 うわっ、かわいいっ!何この子!!間近で見ると、こんな子が実在するの!?っていうくらい可愛い!しかもいい匂いする!なにこれ香水なの?シャンプーなの?体臭なの!?何もかもが異次元過ぎるよ!!

 くりっとした大きな瞳は少し青みがかかっていて神秘的だし、鼻も小さいけどしっかり筋が通っているし、唇が凄くプルプルしていて形も可愛い。

 私の唇なんてすぐに乾燥して切れるのにな!リップクリームなの?良いリップクリーム使うとこうなるの!?

 くぅ、運動ばっかりやってて美容の知識が無さすぎるぞ私。

「ごめんね?急に呼び出して……迷惑、だったかな……」

 ちょっと体を傾けて、今度は斜めの角度で上目遣いだ。

 あざとい……!しかし可愛い……!なんかちょっと可愛すぎてムカついてきたな!!でも目が離せない魅力がある!何この子ほんとにもー!

 いや待て落ち着いて、落ち着くのよ私。

 呼吸を整えて――――……よし!

「いや、迷惑ってことでもないけど……なんの用事なの?」

 思えば、手紙には話したいことがあると書いてあるだけだった。下駄箱の手紙、校舎裏の呼び出し、と来たら告白だと思い込んでいたけれど、さすがにこんな有名人の可愛い子が私に告白するはずはない。

 ……もしや怖い裏の顔があって私をシメようとしているのでは……と一瞬考えて辺りを見回したけど、人の気配はない。

 さすがに元体育会系の身としては、一対一でこんな華奢な子には負けないよ?

 とは言いつつも武器が出てくると怖いので少し見構えていると――――彼女の口から出て来たのは、予想もしない言葉だった。


「うん、あのね……少し言いづらいんだけど……アタシの彼氏になってくれないかな!」


 ……はい?

 いやいやいやいや………はい?

 待って待って、彼氏ってなに。

 仮に付き合うとしても私は女子だから彼氏ではないよね?彼女とか恋人ならともかく……彼氏?


「ちょっと何言ってるかわかんない」


 思わず昨日テレビで見たサンドウィッチマンが出た。



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