偽カップルYou Tuberの憂鬱

猫寝

第1話 秘密の二人。

「えと、えーと、はじ、はじっ、はじめまして。なぎさです」

 どうしてこんなことになったのかと考えを巡らせたくなるけれど、そんなことを考えている場合じゃない……!

 目の前には高性能のスマホがあって、現在進行形で生配信中。

 その向こうには1万人の視聴者の皆さんがいて、ものすごい勢いでコメントが流れているのが見える。

 そして、隣には―――

「もー、なぎさくん緊張しすぎ!んと、ちゃんと紹介するね、この人が、私の彼氏のなぎさくんでーす!!ついに生配信に降臨ーーー!!」

 奇麗な黒髪ロングヘアーに金と発色の良い青がインナーカラーとして入っているのが特徴的な、顔が小さくて目が大きくて唇がプルプルで耳の形が良くて顔面最強なうえに抜群のスタイルでタイトなデニムのセットアップを着こなすこの17歳の美少女に紹介されて、慌てて頭を下げる。

「あ、と、どうもよろしくおねがいしびゃっ!します」

 噛んだ!!

 コメント欄でもめっちや「噛んだ」って言われてる!!

 そんな中に、「彼氏くん緊張してるのかわいい」ってコメントを見つけてちょっと照れる。

 それと同時に、「本当に居たんだ彼氏」「嘘かと思ってた」というコメントも見えると、隣の超絶美少女はそのコメントを拾う。

「こらこらー、誰ですか彼氏本当は居ないと思ってたとか言ってる人はー!実在してますよ!散々言ってくれたわよね、非実在彼氏ーとかさ」

 それに対して、「すまん」「ごめん」と謝る声もあれば、「いやまだ疑わしい」という声もある。

「まあまあ、信じてない人もそのうち信じてくれると信じてる!しんじんじー!」

 彼女が謎の言葉を叫ぶと、コメント欄が「しんじんじー!」で埋め尽くされる。どうやらなにかお決まりの流れがあるようだ。

 ……なんかもう、別世界過ぎてどうしていいのかわからない。

 ああもう、早く、早く終わってこの時間……!この時間さえ乗り切れば、あとは――――

「っていうわけで、以前から宣言していた通り、私たちこれから……」

 おっ、そそろそお開きかな? これから食事に行くので終わりますとか言ってくれるのかな?

 そんな淡い期待は、完全に予想すらしていなかった一撃をくらいノックアウトされるハメになる。


「二人で、カップルYou Tuberとして活動していくから、みんな、なっつみん☆となぎさの「ななつぎチャンネル」をよろしくね!」


 ――――――は??????????????????????????


「ちょっ……そんなのきいて……」

「じゃあみんな、今日は短いけどこれでおしまい!まったねーーーー!ばいばいなーーっつみん☆」

 戸惑う声をかき消すように無理やり謎の挨拶で配信は終了した。

「ふーー、ねーもう助かっちゃったー!ありがとねーな・ぎ・さ・くん♪」

 ウィンクしながらお礼を言われた。いや可愛いけども!!

 それどころじゃなーーい!!

「あ、ありがとねじゃないわよ!なんで!?聞いてないけどカップルYou Tuberとしてやってくなんて!今回だけどうしても助けて欲しいって言ってたから……!」

「そうだっけ? でもほら、一度出るのも何度出るのも同じよー。ちゃんと収益は半分こにするからさー」

「だから、そういう問題じゃなくて……ん?収益……?収益があるの……?」

「あるよー、動画の再生数に広告収入にスパチャに……あとたまに案件とかが来るから……多い時は、月35万くらいかなー」

「さんじゅっ……!そ、その半分!?」

 ってことは……17万!?そ、そんなに!?それだけあれば、家族の生活費に母の薬代に……弟の学費も…なんとかなるかもしれない……!

「どうするー?やるのー?やらないのー?な・ぎ・さ・くぅん♪」

 ぐぬぬぬぬぬ、この子は知ってるんだ、今ウチがお金に困ってることを!だからそこに付け込んでこんなことをーーーー!ううーー性格悪いーー!!でもお金は欲しいーーー!!

「……わ、わかったよ……やるよ、やりますよ……」

「ほんとっ!?やったーうーれしいーー!!」

 うわぁ!抱き着いてきた!柔らかっ!いい匂いっ!ふわっふわだ!えっ!?女の子って抱きしめるとこんなにふわっふわなの?


 うそでしょ?だって………私、


「じゃあ、これからもよろしくね、なぎさくん!」

 ああもう、絶対に視聴者のみんなにバレたらダメだ……僕が……


 もーーーー!!なんでこんなことになったのーーー!?

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