第8話 sideルーシア9
ことの始まりは、星間戦争終結直前の2050年2月に遡る。
2050年1月に行われた南極奪還作戦に勝利した人類は、星間戦争における勝利を確実なものにしていた。
敵の最重要拠点であるワープ装置の破壊により、地球にこれ以上部隊を送ることができなくなったため、人類の勝利は確実視され、人々は戦後のことを考えるようになった。
特に注目された項目が2つあり、1つ目は魔法のことで、もう1つは敗戦星のことだった。
後に星間戦争と呼ばれるようになったこの戦争は人類にとって、最初にして唯一の星と星との戦争であり、様々な議論が巻き起こった。
ある人は植民地にすべきと言い、ある人は賠償金を払わせようと主張した。だが、地球と敵の星であるイセンドラスは数十光年離れた位置にあり、例え最新のワープシステムを利用したとしても、数週間はかかる距離にある。もちろん、このワープシステムを使うためには膨大な燃料と魔力が必要不可欠であり、貿易にワープシステムを使うというのは現実的ではなかった。
「だから、多くの人がこう思ったんだよ。こんな星、残しておいても、人類の邪魔にしかならない、ってね。」
「そんな・・・・・・」
「残酷な選択ではあるけれど、当時の政治家からしてみれば、残しておくメリットよりもデメリットの方が大きいと判断したんだろうね。だって、近い未来にまた地球を攻撃して来るかもしれない相手を放置するわけにはいかないでしょ?」
「確かにそうですけど・・・・・・」
「地球もかなりの被害を受けていたこともあって、悲しいことに理論的にも感情的にも、星ごと消すべしって意見が一番多かった。でも、イセンドラス星は今も残っている。」
後に英雄と謳われることになる、当時のジルトレア最高指導者、セラン=レオルドはイセンドラス星を残すという判断をした。
無論、この判断には多くの人々が反対した。
1999年から始まり約50年もの間、地球を苦しめ続けて来た彼らを生かしておいてなるものか、と主張する人々は各地で現れ、暴動が発生するとまではいかないものの、様々メディアを巻き込んだ大きな論点となった。
結局、イセンドラス星はジルトレアがその責任を一手に引き受ける代わりに半分植民地のような状態で残されることとなった。何故なら、イセンドラス星は非常に遠い位置にあり、当時の技術力ではジルトレアぐらいしか例え植民地になったとしても管理できる国や団体が存在しなかったからだ。他にも数多くの理由が存在するが、そのような内容でひとまずは落ち着きを見せることとなった。
「表面的にはこれで落ち着いたんだけど、裏では色々な人が色々な事を考え、様々な行動をし出した。」
「もしかして、平和条約が結ばれた直後にセラン=レオルドさんや黒白様が表舞台を退いたのも、要因だったりするんですか?」
「セランさんが退いたのはそうだね。詳しい状況や経緯は省くけど、妨害する勢力によって退かなければならない状態になってしまったね。」
「それは、どうしてですか?」
「ジルトレア内の立場が悪くなったからだよ。」
国家や企業の不平不満については、ある程度は対応することができた。ジルトレアという組織は、様々な魔法技術を独占しており、文字通り世界の中心であったため、世界はある程度安定していた。
しかし、ジルトレアの内部で対立が起こると、その牙城は少しずつ崩れていった。
ジルトレアは、世界の魔法の管理、国家間の争いごとへの対応、そしてイセンドラスの対応を一手に引き受けていたため、多大な権力を持っている半面、個々の不満も多かった。
また、黒白や紅焔といったジルトレアの主力が、終戦によってごっそりと抜けてしまったのも大きな要因であった。アイドル的な存在であった彼らを失い、内部に裏切り者や侵略者を抱えた結果、流石のジルトレアといえど、崩壊は止まらなかった。
それにより、崩壊を最小限にすることは成功したものの、戦争の英雄であるはずのセラン=レオルドは責任を取る形で辞任に追い込まれ、彼の側に立っていた優秀な人物の多くも後を追うことになった。
「でも、最悪の結果ではなかった。」
「え?」
「セランさんは退くことになっちゃったけど、消されたわけじゃない。辞任という形にすることで、ゼラストさんに最高責任者の座を託す事ができた。」
ゼラスト=メネルトーレという、過去にはS級魔法師を務めたこともある天才をトップに据えることによって、各方面への牽制を行うと共に、安定を確保することには成功した。
喜ばしい出来事ではあるが、敵の炙り出しに成功したわけではなく、話はまだ終わっていなかった。
未来への先送りには成功したが、付けを払わなくてはならない時が来るように、ゼラスト体制による安定も限界が近付いてきた。
そしてそれが、先日の厄災という形で起きてしまった。
「僕たちの目的は、ジルトレアを本来あるべき姿に戻すこと。それができないと判断したら、ジルトレアを介錯することだよ。」
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どうでもいい話
ルーシア視点だけど、全くと言って良いほどルーシア要素無し
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